第177話 最強は幻想を堪能する⑤
狩りを頑張る皆の傍らで、優雅にクッションに座り経験値スクロールを複製するため鑑定をしようと思ったが、手を止める。
[[ren] そうだった。ゼンさんとヒガキサンさっき言った
本数まで行ったら、三次の誰かとクエ交代して]
[[鉄男] あぁ、経験SCって二次と三次じゃ違うからか]
[[ren] y]
[[ヒガキ] どう言う事ですか?]
[[源次] 分かりやすく言うとだ。
二次と三次じゃ必要な経験値の数値が違う。
例えば、そこらへんのオーク倒して一次だと
0.50%上がったりしたろ?
でも二次だと0.004%しか上がらない。
それが三次になると、0.0006とかになるw]
[[ヒガキ] はい。それはわかります]
[[風牙] それを、経験値スクロールに入れるなら
どれが一番効率いいかって考えたら、三次の
経験を入れるのが一番枚数少なくて済むだろ?w]
[[ヒガキ] なるほど! 三次職になって二次の経験値入れる
ぐらいなら、三次職の経験値を入れておいた方が
三次になってから上がりやすいと言う訳ですね?]
[[源次] そう言う事w]
私が言いたかった事を源次と風牙が補填してくれる。
無事に説明をも終わり、鑑定が出来た事で次のステップに進み解読を試みた。
こちらも問題ないようだ。
が、解読された魔法陣を見れば、複雑すぎるだろ! そう叫びたくなるほど、複雑だった。
以前、メテオが難しく面倒だ。そう言った自分を殴りつけてやりたいほどに……。
ゆっくり息を吸い込み吐き出した。
私なら出来ると信じて、気合を入れ直す。
失敗したらやり直しだ。焦らず行こう。
そうして、羽ペンをインクに浸し転写用羊皮紙に書き写してはじめた。
複製に取り組み始めて4時間。
半分書き終わったところで、顔をあげた。
聞こえていたはずのクラチャが静かになっている事に気付き、皆はどうしたのだろう? そう思い視線を狩り場の方へ向ければ、千鳥足に近い歩き方で、未だ狩り続行中!
[[キヨシ] 後は、まかせ……った]
[[†元親†] き、きよしぃぃぃぃ!]
ふらふら歩き、いかにも力尽きたと言わんばかりにパタリと倒れるキヨシ。そのキヨシの一メートル先で、チカが片手を伸ばし悲壮な顔をして叫んでいる。
一歩進めばキヨシ起こせるのに、何やってるんだろう?
二人のコントは良く分からない。
[[黒龍] うっせー!]
[[さゆたん] そうでしゅ。そんな事する暇あるなら、狩れ!]
[[宮様] そうよ。狩りなさい!]
[[風牙] 殺すぞ!]
[[ミツルギ] ちょ、皆さん目据わってるっすw]
[[源次] おい。すぐに首狩るぞ?]
[[聖劉] 射抜いた方が早いねw]
そんな二人に、瞬きを忘れたらしい黒、さゆたん、宮ネェがドスの利いた声で狩れと要求する。そして、うつろな視線を向けた風牙、源次、聖劉が、殺す。そう脅していた。
あぁ、限界近いんだ……ね。もう目すわちゃってるよ? それでも、三人のために頑張れ。
心の中で、皆にエールを送り再び羊皮紙へ視線を落とした。
それから更に四時間。漸く終わる……後一本。これさえ書けば、そう思った時だった。
シロの声が聞こえた気がした――刹那、弾け飛ぶテーブル、羊皮紙、羽ペン、インク瓶。足元に刺さる矢。
弾けとんだインク瓶が、ゆっくり回転し口が下を向く。その下には、後1本と言う所まで書いた転写用羊皮紙がっ!
やり直しは嫌だあああああ! そう思った。そして、それを体現するかのように漏れる悲壮感漂う叫び声。
「ギャアアアアア!」
ムンクの叫びのような態勢で叫ぶ私と必死の形相で、走るクラメン達。
だ、誰でもいいから、羊皮紙死守して!
脳内で必死に訴え羊皮紙を見つめた。
クルンクルンと上下に回転するインク瓶が、その口を下に向ける。
インクが零れる! そう思った。
と、そこへ一本の救いの矢が飛来し、インク瓶の底の角に当たりインク瓶を逆へと弾き飛ばす。
羊皮紙から遠く離れて落ちたインク瓶が、カランと音を立て消滅。
この数十秒間全てが、スローモーションで再生された映像のように見えた。
落ちた羊皮紙の元へよろめきながら歩み寄る。そして、拾い上げた羊皮紙が無事かすぐに確認した。
「はぁ、よかった……」
確認を終え無事であることが分かると同時に、その場にへたり込み羊皮紙を抱きしめた。
タイミングを同じくして、一気にクラチャが沸いた。
[[白聖] あ、あぶねぇ!]
[[源次] ナイス! 聖劉]
[[宗乃助] 危なかったでござる]
[[大次郎先生] ナイスだ。聖劉!]
[[さゆたん] 生きた心地がしなかったでしゅw]
[[ティタ] ないすぅ!]
[[†元親†] GJ]
[[ゼン] ミリでしたよぉ~!]
[[聖劉] おう! 天才に任せなさいw]
[[黒龍] シロ、マジ気をつけろよ?]
[[宮様] 危なかったわね。ren羊皮紙大丈夫だった?]
[[大和] あれが書き直しとかになったら、確実に即死だからね?]
[[ヒガキ] マスター平気でしたか?]
[[白聖] すまん。寝ながら打ってたらrenの方行ってた。
マジ焦ったわw]
[[キヨシ] ん~? なんかあったのー?]
[[鉄男] ふぅー。マジ危なかった]
[[聖劉] me! 超いい仕事した!]
[[ren] 無事。聖劉ありがとう]
危なかった……。八時間もかけて書いた羊皮紙が、ダメになる所だったのだ。本当にキモが冷えた。
ゆっくりと抜けた力が身体に戻る。
周囲に散らばったテーブルやペンを拾い集めよう。そう思い立ち上がった。けれど既に、クラメン達が全て集めてくれている。
[[白聖] 悪い。気をつける]
羽ペンを渡しながらシロが謝って来る。その顔は酷く反省しているように見えた。
今回に関して言えば、狩り場で書いてた私も悪い。しかも、皆が眠いのも、ワザじゃない事も分かっているからこそ責められない。
それにだ……こんな顔をされては、怒る事も出来ない。
って言う葛藤を経て、注意を促しておくだけにする。
[[ren] うん。今後気をつけて]
[[白聖] うん。マジでごめんな]
[[ren] 分かったから、狩り続行して?
もうすぐ、こっちも終わるから全力で狩りさせるよ?]
[[白聖] おうw]
私たちの会話を黙って聞いていた宮ネェが、両手を叩き「さっさと再会するわよ~!」と声を張り上げた。
その声に、全員が狩りを再開する。
皆が拾っておいてくれたテーブルとクッションを一度アイテムボックスに入れ、街の入り口の壁の側で出す。
ここなら、矢やスキルは届かないだろう。
魔法は届くけど、多分ミスはしないはず……。そう仲間を信じて、最後の線を書き込んだ。
出来あがりと解読で見える魔法陣を見比べ、ミスがないか一時間かけて確認作業をした。
「ふー。終わった……」
知らず知らずに独り言を漏らし、テーブルに羊皮紙を据え置く。
その上から白紙のスクロールを重ねて置けば、別場度が開き【 転写しますか? Yes ・ No 】と表示される。
窓のYesをタップした。
すると、淡く輝いた羊皮紙の魔法陣が、薄らとスクロールに移り込みポンっと、ポップコーンが弾けるような音が鳴った。
出来あがったスクロールは自動で丸まり、紐が結ばれている。
それを手にとり、鑑定――
=====================
経験値のスクロール (複製版)
・使用者の獲得経験値の50%を収納する事が出来る。
=====================
なるほど。本物は100%で複製版は50%か。
流石に100%収納するとは思っていなかったし半分収納できるだけでも上出来だ。
よし、残り199枚をさくっと作ってしまおう。
気合を入れた所で、残り99枚の経験値スクロール(複製版)を作り上げた。
[[大次郎先生] どうかな? どれぐらい増えた?]
[[ミツルギ] 自分、後10k本でカンストするっす]
[[ゼン] 僕は三次転職まで行けました!]
[[ヒガキ] 自分も大丈夫です]
[[黒龍] 変わりは、俺と牙なw]
[[ren] 複製出来たから、渡す。
50%ずつしか入らないけど収納使って交換して]
[[風牙] 了解]
[[黒龍] k]
[[鉄男] renお疲れこれで、交代か?]
[[ren] 複製1回で100枚しかできないから
後、4回は魔法陣書かないと]
[[ティタ] うぇー。しんどそう……。8h×4?]
[[村雨] 俺なら、発狂しそうwww]
[[ミツルギ] ちょうど4回目が終わる頃、帰れまてんも
終わりっすねw]
ミツルギさんの一言にその場にいた全員が事実を知らされる。
引き攣り笑いを浮かべながら、私以外のクラメンたちは口ぐちに呪いの言葉を叫び狩りを再開する。
まだまだ帰れまてんは続行中――。
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