第171話 最強は壊滅を齎す㉓

 軽鎧の犬獣人が、神殿に入って来るなり土下座している。

 その土下座がとても綺麗な土下座で、これまで何度か土下座を見た事はあるけれど、これほどきれいな土下座は初めてかもしれない。

 その姿に感動を覚えつつ、彼が立ち上がるのを待つ。

 いくら待っても頭をあげない彼にマユさんが立ち上がり彼へと近づく。

 そして、凄くいい笑顔でマイクを口元へ持って行き『あ、彼です』そう言った。


『紹介?』

『え? あれが?』

『ていうか、なんでいきなり土下座してるのこの人w』

『まさか、アレが紹介じゃないだろ?w』


 色々な意味でキャパを超えている今回の主役? 二人に対し対応を悩んでいる間に、そのうちの一人が床に額を擦りつけ大きな声で謝罪する。


「今回は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!

 漸く、死神様と崇められるren様に、会えて攻撃されて興奮してしまい……つい、知り合いになった気分で調子に乗って、ツーショット送ってしまいました! すいませんでした!」


 そう言って土下座をする彼は、私との出会いを語った。

 確実に、妄想が入っているだろうと言いたくなるほど壮大な物語を……。


 彼の語った内容を私なりに要訳する。

 彼がソロで狩りをしていた所に、モンスターを大量に引いたプレイヤーが現れ殺されそうになった。

 そこに、私が通りかかり範囲でモンスターを駆逐した。と言う事らしい。


 出会った狩り場の名前を聞いて、その当時クラハンで良く行っていた事を思い出した。

 もしかしなくてもクラメンの誰かが引いてた場所で、彼が狩りを始めただけなんじゃ?

 そう、思い至った。

 けれど、あの当時の事を嬉しそうに語る彼を、止めてまで言うべきことではなさそうなので黙っておくことにした。


[[黒龍] うわー]

[[さゆたん] renちゃん今後、むやみに人助けちゃだめでしゅw]

[[宮様] 尻尾振りながら土下座って、初めて見たわw]

[[ren] あの狩り場って良くクラハンで行ってたよね?

    ただ、クラハンに巻き込まれただけじゃ?]

[[白聖] renに会えた喜びと謝罪の土下座が

    奴の中でせめぎ合ってんじゃね?w]

[[宗乃助] そう言えば良く行ってた狩り場でござるなw]

[[大次郎先生] なんと言うか、ある意味可哀そうになって来た]

[[さゆたん] それって、勘違いってことでしゅか?]

[[宮様] ……で、でしょうね?]

[[黒龍] 本気で哀れになてきたわw]


 確かに、さゆたんの言う通り今後はむやみに他人に関わるのは止めよう。それにしても、何だろう。この気の抜ける感じ。

 こんなのって言ったら失礼かもしれないけど、こんなのに私は恐れを抱いていたのか。そう思ってしまった。 

 後ろに座っていた他の皆も同じような感じらしく、クラチャで彼に対し同情するような発言が続出する。


『本当にすみませんでした』

『反省してるのはわかった。

 まぁ、そのrenに助けられたのは十分にわかったから……』

『それにしてもアレはやり過ぎでしょ?』

『そのつい、興奮してしまいまして。一撃一撃が気持ち良くって……』

『え? アレが気持ちいいって、どう言う事?w』


 PTに加わったユキオリンさんが再び頭を下げ謝った。

 そんな彼に対し視線を逸らしつつ先生が話を終わらせようと動くも、宮ネェの声に再び彼は気持ちの悪い発言をした。


 き、きもちいいって何! 何が気持ちいいの?

 背筋に冷たい何かが流れ、拒否反応を示す。

 ハッキリ意思を伝えれば分かってくれそうだ。伝える事で傷つけるかもしれないが、ここは伝えるべきだ。そう決意を固め重い口を開いた。


『今後、何かで関わることになったとしても

 あぁ言う事は二度としないで』


 キツ言い方かもしれないが、本心からの言葉だった。

 その言葉を聞いていたユキオリンさんは、寂しそうな表情を見せ。


『ですよね……』


 そう言ったっきり閉口してしまう。

 ファンだろうがなんだろうが、していい事と悪い事がある。誰だって、戦いの最中にあんな事をされれば嫌悪感を感じる事だろう。

 楽しいと思えるのは、彼の性格や性癖を理解した身内だけだ。


 それでも、この雰囲気に耐えきれず……。


『ごめん。雰囲気悪くした』

『ん~。まぁ、今回は仕方ないだろ?』

『気にするな』

『あいつじゃ無かっただけ良かったじゃねーかw』


 優しいクラメン達の言葉に癒される。

 いつもは、バカみたいな事ばっかり言ってるしやってるけど、頼って良かった。

 本心からそう思えた。


『えっと~。うちのクランPKされちゃったりしますか?』

『は?』

『え? されちゃうの?』

『……』

『なんだ……そうですか……』


 思いつめた表情のマユさんが、ガバッっと黒髪を揺らし此方を見ると唐突にPKされるのか? そう聞いてくる。

 かなりの目力? 基、潤んだ瞳に全員の視線が私に集まる。

 そんな中、一人だけ別の意味で瞳を輝かせるドMがいた。

 いや、いや、その目の意味が分からないよ?


 彼の希望を立ちきるように、ぶんぶん首を横に振る。サイドに別けた髪が乱れるほどに……。乱れた所でシステムですぐに戻るんだけど

 PKしない事を伝えれば、とても残念そうな顔をされてしまった。


 したかったんだ……PK。でも、斬りかかる度に、あはっ! とか言われてもね。それはそれで、分かっていても気持ち悪くて無理。


『PKはしないようだし、本当に気をつけてね?』

『次同じ事した場合は、ren以外の俺らがお前をPKするから

 それなりの覚悟しとけよ?w』

『そうでしゅね。renちゃん以外なら、少しは恐怖感じるかもでしゅw』

『え……それは、嫌です!』

『ぶはっ! ハッキリ断りやがったw』

『これは、本気でござるなw』


 纏めに入ろうとした宮ネェの言葉を引き継ぎ、シロが次は自分達が出ると言えば、さゆたんが冗談めかして言った。

 明らかに嫌そうな表情をしたユキオリンさんは、きっぱりと嫌だと言う。

 そんなやりとりを黙って見ていた黒が吹きだし、同じように宗乃助も笑っていた。

  

 実際にユキオリンさんと話をしてみれば悪い人では無かった。

 ただ、ちょっと……いや、かなりマゾチックな変態なだけで……。

 マユさんが言っていた意味が、良く分かる感じだった。


 その後、くだらない世間話をして解散になると同時にヘパイストスの神殿から、ハウスに戻る。


 さっそく、執事にメテオ販売分の2.5Gをクラン倉庫を預け残高を確認した。

 残高は、3.5Gと少し。大分、増えて戻ってきたが、まだまだ増設するには足りない。

 最低でも十倍は欲しい所だ。

 このまま、露店で資金を貯めてからクランハウスの増設することを決める。


 それと、四次職のアップデートが近い。

 急務なのは、ヒガキさん、ゼンさん、ミツルギさんのLvあげを集中的にやらなければならない事と……後は、あぁドラゴンレイドと同盟について皆に相談しなければならない事。

 

 ロゼたちなら、そうは思うが同盟は多分無理な気がする。

 一応会議を開くべく皆に通達を出しておく。

 その時に、皆の意見を聞いて判断する事を決めた。

 

 これからやるべき事を考え、ある程度自分の中で順番を決めそれを実行する。


[[ゼン] え? あ!!]

[[ren] 狩り終わったら、ちょっと会議したいから

    戻ったら会議室に来て~]

[[大和] ゼン君生きてる?]

[[†元親†] あぶねぇ!]

[[ゼン] 生きてます。ギリギリ]

[[大次郎先生] 皆忙しいだろうけど、会議あるから

       キリいいとこで切り上げて戻るように!]


 チャットでは不安が残る感じの状況のようだ。再びチャットを打ち込もうとしたところで、先生が復唱するように伝えてくれた。

 狩りに行ったメンバーたちが、返事を返すのを見ながら会議室に向かう。

 扉から一番奥にある椅子の一つに腰掛け、クラン費ねん出のため製本を始めた――。

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