第170話 最強は壊滅を齎す㉒
開いたメールの差出人の名は『ren.』あの、偽物の名前だ。
中を見るか? そのまま削除ボタンを押すか? 酷く悩んだ。
そんな私の雰囲気を感じたらしいロゼと先生が、同時に肩を叩き『どうした?』と聞いてきた。
『あ……うん。メールがね……』
『メール?』
『あぁ、皆から来てたのね?』
『それもあるけど……』
ついつい、ドッペルからのメールに対し言い淀んでしまう。そんな私を気遣うように小春ちゃんと宮ネェが揃って口を開いた。
言うべきか、自分の中で完結すべきかまたも苦悩する。
皆の心配するような視線を受け、悩んでも始まらないとメールを開き見た。そこには、トーナメント戦で戦った時の彼女? 視点から撮影されたSSが複数枚。
”凄く興奮しました。楽しかったです! また、僕を殺して下さい。いつも見ています。”
と言うメッセージがつづられていた。
ゲームの中であるにもかかわらず、全身に悪寒が走る。
あの時と似た状況だった。
過去に居たクラメンのミッシェルと……。
走馬灯のようにあの頃の彼女? 彼? の姿が脳裏を過ぎ去った。
それと同時に、脱退して行くクラメンからの罵倒にもにた言葉も思い出してしまう。
嫌な事を思い出した。
そう思いつつも、このメールに違和感を感じた。
ドッペルがミッシェルかと言えば、それは違う。そうどこかで冷静な別の私が告げる。
何が違うのか……それは、はっきりとはわからないがメールの文に嫌な感じがしない。
感覚的な部分だが、そう思った。
すると途端に、それまで感じていた恐怖心のようなものが薄れたような気がした。
『ren?』
『大丈夫か? 顔色悪いぞ?』
『どうした?』
『大丈夫。これ見て』
そう伝えて、メールをそのまま宮ネェたちに転送する。
ミッシェルの時は、相手がクラメンだったこともあり自分一人でなんとかしようとして失敗した。
あの時、どこでミッシェルに繋がり皆に被害が出るか分からなくて、全員との連絡を拒否した。クランを解散したのも、被害を出さないため。
私的には皆を守るつもりでした事だったけれど、それが余計に心配をかける事になってしまった。
正直ゲームを辞めようか? とまで考えていたのも事実で……。
キヅナと卑弥子が訪ねてくれ、親身に話を聞いてくれた。
そのおかげで、ゲームを辞めずに済んだし、最低限の情報は皆に伝わったと思う。
二人が訪ねてくれた時、こうも言っていた。
仲間なんだから、俺らを頼れと……。
だから今回は、迷惑かもしれないけど皆に頼る事にする。
『なんだよ……これ……』
『ドッペルか』
絶句するようにロゼが言えば、意外と冷静だったのは先生と雪継で宮ネェと小春ちゃんは、眉をひそめ怒っている風だった。
『二枚目のSS見てみ?』
『どうかしたの?』
『ローズ・フェスってクラン名のってる』
『ん~。今回はPKしたところで相手のダメージにはならないだろ』
『だな。それするぐらいならこれ、そのまま運営に送った方が良くね?』
『そうね。私もそれが良いと思うわ』
『あたしもそれに賛成よん』
『ちょっと待って、このクランのマスター知り合いだから聞いてみる。
あそこ変なクラメン多いけど、嫌がらせするような奴はいなかったと思うんだよ』
雪継が、クラン名に関して発言するもPKはしない方が良いだろうと言う先生にロゼが同意しつつ、運営に任せろと言う。
宮ネェと小春ちゃんもロゼと同意見のようだった。
が、そこで雪継が待ったをかけ、付き合いのある相手のマスターに問い合わせをしてくれる。
その結果、ローズ・フェスのクランマスターであるマユさんが態々ヘパイストスまで来てくれた。
人目を惹くマユさんの恰好を見た私は、ただただアイドルっぽいと思った。
黒髪が艶めく感じの直毛のエルフで、清楚系ならではの白いフリルのついたシャツ。それに合わせた、薄桃色のリボン。
見た目サテン生地を使用したような光沢あるピンクのフレアスカートからの、足元は二ーハイソックスのようなこれまたフリルのついた愛らしソックスに白のブーツ。右手には何故かマイクと言ういで立ちだった。
「こんばんわ~♪ マユちゃんだよぅ~♪」
マイクを口に充て挨拶したマユさんは、それと同時に超いい笑顔で小さく左手をフリフリ振った。
まるで、本物のアイドルのように……。
[[宗乃助] さゆたん、暇でござるか?]
[[宮様] この人大丈夫なの?w]
[[大次郎先生] ノーコメントで……]
『ちょw こいつ大丈夫な奴か?w』
”黒龍” 大丈夫か?
『こう言うキャラなだけだから、引かないであげて! 悪い子じゃないから!』
[[源次] ん~。ヒガキとゼンとミツルギ狩り行こうかw]
『あ、ごめんなさい? 空気読み間違えちゃったぁ~♪』
[[ティタ] 付き合うよ~w]
”小春ちゃん” ren落ち込んでない? 平気?
『ま、まぁ、マユちゃん……えっと、まずメール送るから、それ見てw』
[[†元親†] 俺も俺もw]
自分の頭をコツンと叩き、舌をペロっと出した彼女の姿に正直、宮ネェたち三人の意見に同意したい。本当にこの人に聞いて、大丈夫なのだろうか? ネタもわからなければ、どう対応していいのかも分からない。ぶっちゃけ、引いてる自分がいるのがはっきり分かる。
なんて事を考えていた私に、黒と小春ちゃんから心配するような密談が届いた。
そんな私たちの様子に取り繕うような感じで、雪継が私たちとのあいだを取り持ち話をつづける。
マユさんが来ると分かった時点で、皆で話し合い。まずは送られてきたメールを確認して貰って、本人がどう言うつもりなのかを確認しようと決めた。
本人がこれ以上、私たちに関わるつもりが無いのであれば今回は通報しないでおこうと思う。
偽善者的な甘い考えかもしれないけど、同じプレイヤーだからこそゲームを辞めなければならないような状態にはしたくなかった。
そうじゃない場合は、もう私たちでは手に負えないのでメールをそのまま運営に送り対処を運営に任せようと結論をだしていた。
彼女がメールを確認する間に、クラチャと密談に感謝と返事を送りつつ彼女の返事を待つことになった。
『クラチャで理由聞いたら、本人がここに来たいって言ってるんですけど……いいですか?』
『え?』
『――っ!』
どうやらクラチャで、本人に何故メールを送ったのか聞いたらしいマユさんに、ドッペルはココに来たいと言いだしたようだ。
その声に私は固まり、宮ネェがマジで? と言うような顔をする。
『それは、どういう理由で?』
『釈明があるみたいです。
本人的には、ただのド変態なだけらしいんですけど』
『は?』
『い、いみが分からない……』
『えっとですね。悪意とかではなく、ただrenさんが好きでですね。
この偽物作る前から
『イヤイヤイヤイヤイヤ、ドMだからって……えぇ~!』
混乱する私たちを余所に、当たり前のようにそう言ったマユさん。
そんな彼女の言葉に、全員が顔を引き攣らせた。
[[ren] ごめん、理解ができない]
[[白聖] ん~。俺ちょっと今回の狩りパス]
[[黒龍] 俺も、悪いけど大和頼む]
[[宮様] えーと……頭が痛くなって来たわ]
[[大次郎先生] 要は、ただのドMなファンってこと?]
[[源次] 了解]
マユさんの言い分はこうだ。
ドッペルは、ただ単に元からドMであり熱狂的なアイドルオタでもある。そんな彼が、このゲームを始めてすぐの頃どうやら私が、彼を助けていたらしい。状況がどういう状況だったのかはマユさんも聞いておらず、わからないそうだがそこからファンになった。と言われた。
『と、とりあえず、呼びますね?』
『そうだな。renいいか?』
本人に詳しい説明を聞いた方がいいと言う状況で、マユさんが本人を呼ぶと伝える。それを聞いたロゼが視線で大丈夫か? と問いかけつついいか? と聞いてくる。
それに頷き、了承を示した。
本人が来るのを待つことになった。
その時――背後に人の気配を感じ振り向けば、いつの間にか黒とシロ、宗乃助とさゆたん、千桜と白影が座って連合に加わっていた。
皆の表情は一緒で、眉を八の字に寄せている。その表情には心配そう書かれているようだった。
『あぁ、後ろのやつらは見学つーか、ただrenの心配して来ただけだから、マユちゃん気にしなくていいよw』
『本当に、すみません。うちのドMがご迷惑をおかけして』
『ドMてw』
周囲をクラメンに囲まれたマユさんが凄くやりにくそうな顔をする。それに気付いた雪継が、緊張をほぐそうと声をかけた。
申し訳無さそうな顔をで謝る彼女のドM発言に、クスっと笑った白影が軽く突っ込みを入れる。
そんな空気をぶった切るように、例のドッペルの本体である”ユキオリン”と言うキャラが現れた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます