第159話 最強は壊滅を齎す⑪
黒、大和、雷がボス部屋の入り口に向かって歩く。その姿が勇ましく、本当にうちのクラメンは優秀だな。と再確認した。
口は悪いが仕事は丁寧な黒。優しい言葉遣いながらも、しっかりとやる事はやる大和。ツギハギだらけの装備でも、他の参加者より良い装備をしている雷。
バフが終わり、ロゼが確認の指示と黒たちへ確認を取る。
『各PTL PTMのバフ確認。
黒、大和、雷 準備いいな?』
『おうよーw』
『上書きされてんだけど……w』
『いけるぞ』
『大丈夫だよ』
『任せろなのですw』
『うんじゃいくぞー! カウント―』
『renのバフ上書きされた奴は素直に死ねw』
5……4……3……2……1……gogo
ロゼの言葉に元気よく返した、黒・大和・雷がカウント0と同時に先陣を切り突っ込む。チカ・宮ネェ・私が入り黒たちを追従した。
中ボスは、ガーゴイルだ。
見た目は、赤やオレジンジと言った色に黒が混じり溶岩そのものと言った感じで、その身体は常に滴りどうやって原型をとどめているのか不思議になるほどだった。
そして、鋭い瞳だけが金に蛇のような細長い瞳孔をしている。
一番早く駆けつけた黒がヘイトを入れ正面に立てば、サブの大和が背面に陣取りランスで三段に突く。
「グルアアアア」
黒のヘイトと大和の攻撃に、反応し鳴いたガーゴイルが翼を大きく広げ飛び上がる。
そのまま滞空したガーゴイルは、再びヘイトを入れた黒にターゲットを定めたかのように数回羽ばたきその巨体を黒に向け降下させた。
大きくふりかぶったガーゴイルが、鉤爪を黒に向け払う。その隙に大和は、ランスで攻撃を入れ、黒は、盾を上げボスの攻撃を往なしロゼの名を呼ぶ。
『ロゼ』
『ATK攻撃開始! スキル・魔法は氷、水でいけよー?』
ロゼの声に答えるように、50人近いATKが一気に攻撃をはじめた。
まるで青い花火がそこかしこで上がるような光景を眺めながら、私は私の仕事をこなすためMガムを口に含み自身にソウル オブ フルークトゥスを追加した。
その後、視界右にある連合のタブをタップして、プルダウンメニューのようになった連合に参加しているPTのPTLの名前を表示させる。
その中から名前を一つタップして開き、PTに参加する参加者の名前と職HPバーを表示させた。
表示された名前と職を確認しながら、ローブ職を一人選びソウル オブ フルークトゥスを追加。
それを繰り返しながら予想より、人数が多いことに辟易した。
参加者のローブ職全てに追加するつもりだったのだが……危惧していたよりもMPがヤバい。
私の全MPの役3割を消費するだろうと予想してバフをずらしたのだが……既に残りが三割と言うところまで来ている。
個別バフのカリエンテ、ウラガーン、フルークトゥスは1度にMPを60消費する。その他のバフも人数に応じて消耗MPが増えることから、これはマズイと打開策を模索する。
何か無いか……そう考えながら、宮ネェとチカのMPを確認しつつガーゴイルの方に視界を向ける。
ガーゴイルの残りHPは7割。
ロゼの説明では、そろそろ一度目の雑魚が湧く頃合いだ。
雷がガーゴイルのHPにいつでもヘイトを繰り出せるよう準備しつつ、周囲に視線を向ける。
その様子を眺めながらボスにヘイトを入れる黒のヘイトに合わせ、大和もヘイトを使い始めたことを確認した。
MガムにMPPOTをがぶ飲みして、メイン火力たちへバフを入れる。残りはロゼ、白影、雪継、千桜なのだが……ここで、ガーゴイルが大きく羽を広げ、羽音を鳴らす。
『頭上からの溶岩に注意!』
『雑魚! 雷』
『k』
注意喚起が、白影から上がり雷への指示がロゼから入った。その声が上がるかどうかのタイミングで、溶岩が広いボス部屋内へ降り注ぐ。
これ、雷一人でタゲ摂るの難しいだろう? と思っていた私の横を、雷が小回りのきく身体で、駆け抜け溶岩全てにミスなくヘイト単体を入れて行った。
『おぉ~!』『すげ~』などと、感嘆の声があがり、全てにヘイトを入れ終えた雷が、元の位置へ戻ると腰に手を置き目の少し手前で親指、人差し指、中指を立てウィンクしながらドヤ顔を決める。
その変わらないドヤ顔を懐かしくも、面白いと思いながら残りの四人にバフを追加した。
『魔法職は、雷の雑魚範囲で処理』
[[宮様] チカ。暫く黒と大和の回復任せるわよ]
[[†元親†] わかったー!]
[[雷] 宮ネェよろしくなのです]
ロゼの指示で、魔法職の魔法が雷に向かうモブに打ち込まれる。そして、どうやら雑魚の多さにその間、宮ネェは雷の回復に専念するようだ。
チカが下手くそだからと言う訳ではなく、湧いた雑魚の量に雷の装備を鑑みた結果なのだろう。
もう少し雑魚がなければ、チカに任せるつもりだったのだろうが、こればかりは仕方が無い。
チカもその事を理解しているからこそ、何も言わず回復を引き受けたのだと思う。
そんな二人のやりとりにほっこりしながら、全体バフを数分置きに二~三個ずつかけれるようタイミングをずらし雑魚へデバフを入れに行く。
雑魚が集まる雷の周囲に、バインド(+18)、スローレンジ(+5)、ショック ボルト(+19)を設置しすぐに発動させた。
『あ……!』
『げっ!』
それまで討伐中と言う事もあり静かだったPTチャットに、不穏な声が入る。嫌な予感を抱え、声の主である雪継を振りかえった。
『ren。ごめん!
うちのがミスって課金バフ入れたらしい。バフくれー』
『生ジルなんか、死ねばいいのに……』
『……ぇ?』
雪継の言葉に、ついつい心の声が駄々漏れになってしまった。
そんな私の声に反応したらしい何人かが『ぶはっ』とか『ぷっ』とか『うはははははは』などと吹きだしたり爆笑したりしていた。
『課金バフなら問題ない。
バフはもう、時間ずらしてるからそれまで我慢して』
『マジか……』
『雪が、バフ代持ってくれるならかけ直しても良いよ?w』
『……うっ!』
課金バフならば、この中ボス程度なら大丈夫なはずだ。人数も多いし幸い使ったのは遠距離の弓職だし……。
そう考え、問題ない事と時間を既にずらしてしまった事を伝えた。
それに返した雪継が、困ったような声音と間を使う。それに少しイラつき、バフもタダじゃないんだぞ? と脅しをかけた。
『まぁ、生ジル諦めろw』
『renのバフは、魔石いるにゃ』
『最初に言ったろ? バフ消したら死ねってw』
『いやいや、流石に死ねはないでしょ?w』
『ボス中なら確実に死ぬ! それぐらい気をつけさせろ』
『ロゼ……落ち着けw』
『そうだわいね。わざとした訳じゃないから』
するとボスに攻撃をしかけながら鉄男・ライガーが、私を擁護するような発言をした。とそこに、少しきつめの口調でロゼが注意を促す。
多分だが、ロゼ的には出来て当たり前なのだろう。
完璧主義のロゼらしくはあるが、それを雪継にまで求めるのはやり過ぎだ。
そう思い、フォローを入れるか悩んでいた私と同じ考えらしい、シロと千桜がロゼを止めた。
その場を良ろしくない雰囲気が包み込んだ。
真剣だからこそ、こうなる事は予想できた。ならばここで私がすべきことは……決まっている。
『ロゼ。昔、ロゼも同じ事したよね? しかも……PK中に!
雪継の事、怒っていいのはやった事無い人だけだよ?』
『ちょ! 今それ言う?!』
『事実だし?』
『わかった。俺が悪かったよ……すまん。雪』
『うん。こっちこそごめん』
『雪継。ちゃんとクラメンにロックかけたか確認して。
次やったら、その時はわかってるよね?』
『はひ』
ニヤっと黒い笑みを浮かべロゼを見る。視線が合ったロゼが固まりそれと同時に昔の事を持ち出し、言い過ぎだと注意を促せば流石にやり過ぎたと分かっているのかロゼが、雪継に謝った。
雪も同時に謝り仲直りしたところで、雪継にというより、全員に見える形でアイテムボックス内の使用しないアイテムについてはロック――使用出来ないようにする鍵のようなものをつけろと伝えた。
私的には、今回のレイドは遊びの延長であり思い出づくりだ。なので討伐できようが、出来無かろうがどっちでもいい。
その事を全員に周知させる方法として、一番嫌がりそうな事を言ってみた。
『楽しい討伐なんだから、楽しくしたい。
つまんなかったらその場で、クランPK始めるかも?』
『それいいなーw』
『クラン対抗PK戦おもろそーw』
『ありだにゃw』
『ノリノリだわいな』
『俺も殺るw』
『あたくちも参加するでしゅよ~w』
『それ面白そうだねw』
『やめよ? PKはやめよ?』
『参加するしかねーなw』
『ミwナwギwルw』
『PK久しぶりにやりたいなーw』
『あら、楽しそうね』
『ちょっと、困るわん!
うちはどちらかと言えば、代行メインなんだからん』
『いいであるな。PKはたのしいのであるw』
『私も、それ参加するよw』
『いいでござるなw』
『ちょw なんでお前らノリノリなんだよw』
『勘弁してくれw』
私の言葉にうちのクラメンはノリノリで、参加を表明する。
反対に、ロゼ・白影・千桜・雪継・小雪ちゃんが顔を引き攣らせ辞めてくれと懇願していた。
そんな会話をしながらも、雑魚の処理が終わりボスが滞空状態を止め地へと降りて来る。間髪入れず、黒と大和のヘイトが上がった。
『ボスHP残り半分だ。
PKされたくないから、さっさと終わらせてカリエンテいくぞ!』
ロゼの声に『お~!』と言う気合のこもった声で答える参加者たち。
さっきまでの楽しくない雰囲気が一変し、お祭り? 学校の体育祭? に似た何かが、その場の全員を包み込んだ――。
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