第157話 最強は壊滅を齎す⑨

 イフリート火山に散らばるモブを狩りながら、参加者たちと何度か鉢合わせしたりすれ違ったりしているうちに鍵が20個ずつ溜った報告のPTチャットが流れてしまった。私が獲得できた鍵は1個だった。


 集合場所に戻りながら、そこにいるメンバーを見て少しだけ感傷に浸る。思い出したのは、過去のクランでのアレコレで……懐かしく思う。

 何やかんや言いながらも引退組含め未だに、仲良いクラメンたちの様子にほっこりとした気持ちになった。


 私なりに今回、引退組がわざわざログインしてくれた事について考える。まず間違いなく、例のドッペルに関することが起因なのだろう。

 そう思うと、どこか申し訳なくもあり嬉しくもあった。


 集合場所に戻り、鍵を集めるロゼに鍵を渡す。


『山登る前に、ここで一度休憩入れるから交代でログアウトして』


 鍵を集め終わったロゼの言葉に全員が15分毎に交代でログアウトをすることになり、私はロゼとタイミングを合わせ先発組でログアウト休憩をした。


 トイレなどを済ませ、時間が余ったついでにウェブでカリエンテ攻略について調べる。色々な情報サイトを流し読みしながら、眉唾物の情報をかき集めた。

 ログインし直したところで、部隊長に任命したメンツを集めロゼと打ち合わせを開始する。


 まず――その言葉と共にロゼの大まかな流れについての説明が始まった。


 大まかな流れとしては、イフリート火山の中腹にある人が一人入れるかどうかの岩で出来た入り口を入り洞窟の中を進む。

 途中、中ボスが湧くのでそれを全員で倒すこと。そして、倒しおえたらその先の道が二手にわかれていること。

 中ボスについては、その場で説明すると言っていた。


 二手に分かれて進む道は迷路のような状態になっていることから、ロゼのクランから案内役を出すしてくれるそうだ。

 戦力は偏らないよう出来る限り半分にすること、道すがら湧くモブは殲滅必須だとか……。


 理由としては、そのモブをしっかり倒しておかないと、ボスが湧いた後そのモブが取り巻きとしてボスと同時に攻撃をしかけてくるらしい。

 結構しっかりとした内容説明に驚きつつ、その後も説明を続けるロゼの声に耳を傾けた。


 道を抜け、広場に出るとプレイヤーが両手を広げ、20人で囲めるかどうかと言うサイズの大きな六芒星ろくぼうせいが書かれた水晶が置かれているらしい。その水晶に触れることでカリエンテの住処に入ることができる。


 住処そのものは、上空以外周囲全てにマグマが流れ地形ダメージがある。唯一地形ダメージを受けないのは、入り口すぐの微々たる範囲でそこにはカリエンテが来ないそうだ。


『ってことは、そこで装備と補充する感じか』

『y』


『地形ダメージは、私のバフで無効化できるはず』

『うん。バフはrenに頼む。

 で、引く場所なんだけど……出来れば隅に引いて欲しい』

『理由は?』


 飛び道具を使うシロらしい質問に同意を示すロゼ、それに地形ダメージについては私がなんとかできると伝える。

 引く場所について指定するロゼに、なんでかと理由を問えば少しだけ考えた。

 

『カリエンテタゲ固定が難しいだよ。すげー動き回るの。

 だから出来る限り盾役が隅に入って、移動が短くなるようにしたい』

『なるほどねん』


『HP30%切ったら、広範囲攻撃連発してくるからそれまではバリア無し。

 死に戻りで耐えて貰う。

 メインは黒、サブに大和。更にそのサブに雷ってな状態で行きたい。

 できれば、黒が30%まで生き残ってくれれば最高』


『要は広範囲攻撃まで黒が生き残れば、勝ちって感じか』

『うん。まー、そこまで行くのがしんどいんだけどな。

 ちなみに、うちがやった時は……HP60%で全体の三割しか討伐隊残ってなくて撤退した』

『難しそうでしゅねw でも楽しそうでしゅw』

『まー、やってみるしかねーなw』

『そうねん。楽しい事は皆でやらないとねん♪』

『だなw』

『たまにはなw』

『うん。楽しもう』

『おうw』


 PTチャットを使い説明を聞き終えたさゆたんの声に、雪継・小春ちゃん・シロ・白影・私の順でやる気を漲らせるコメントをした。

 それに答えたロゼが立ち上がる。周囲を見回し自分の所のクラメンの元へ行くと何事か話、こちらに連れて来る。

 

『ren。茉鬼まつきが案内役な。名前覚えておいて』

『どうも、茉鬼です』

『よろ』

『相変わらずの人見知りかw』

『そのようだなw』


 ロゼが連れて来たのは、少し小柄なヒューマン女性の姿をしたプレイヤーだった。

 紹介と共に相手の方から名前を名乗ってくれたので、よろしくと挨拶を返す。


 なのに……ロゼと白影に相変わらずの人見知りと言われてしまう。

 今のは普通だったのに……そう思いながら、手を差し出す彼女の手を握り握手を交わした。


 私たちの挨拶を見守っていたロゼが、時間になったのかPTチャットで『PTM全員いるかPTL確認しろー』そう指示をだす。

 次々とPTチャットに流れる『k』の文字に、出発が近い事を悟る。


 クランマスターの指示に従い、PTごとに纏まり移動を開始する他の参加者たち。その最後尾に陣取りうちも移動を開始した。

 他のクランは綺麗に隊列を組み移動している。おぉ、凄いなと思いながら左右をみればうちの自由なクラメンたちは隊列など組むはずもなく、横に広がり自由に歩き進んでいた。


 まー、最後尾にいるのでなんの問題もないはずだし、なんと思われようと気にはしないけど……広がり過ぎじゃない?

 ただでさえ、引退組が居るので人数が多い。それに加え何故か全員が横一線に並んでいる。


[[ren] ねー。もう少し纏まった方が良くない?]

[[シュタイン] そう言うのはまともな奴らがやる事であるw]

[[春日丸] そうだな……そう言うのは

      まともな常識人がやることだなw]

[[キヨシ] うちにまともな常識人はいねーw]

[[白聖] 博士正解w]

[[黒龍] ひで―クランだなおいw]

[[ミツルギ] え?]

[[ティタ] 諦めよう?w]

[[†元親†] そう言えば、卑弥子~。

       お前のベット借りてる~w]

[[雷] だからこそ楽しいクランなのですよ!]

[[村雨] 廃人だからこそってやつか?w]

[[大次郎先生] うーん。完全に私たちが前をいくPTを

        包囲して、今からPKしますよ的な状態に

        見えなくもないけど?w]

[[キヅナ] まーここの楽しさは廃人じゃないとわからねーよw]

[[宗乃助] チカ……卑弥子のベットは

      キヨシが、使ってる方でござるよw]

[[卑弥子] なんていうか、会話が混線し過ぎてません?w]

[[宮様] ren……諦めなさい]

[[さゆたん] 色々と懐かしい会話の流れでしゅw]

[[風牙] ところでよー。カリエンテの進行説明

     誰か聞いてたなら教えてくれw]

[[ゼン] 場違い感半端ないですね……]

[[大和] 俺も聞いておきたいw]

[[鉄男] 俺も俺もw]

[[ヒガキ] これを纏めてたマスター凄いですねw]

[[聖劉] じゃぁ、チカは誰のベット?]

[[河瀬] あぁ、クラチャが懐かしい……]

[[ケン坊] そう言えば、カフェオレどうしたの?]

[[黒龍] ヒガキ誤解するな? renは基本野放しだからな?w

     こんなの纏められる奴いないからw]

[[カフェオレ] 居るよ?]

[[白聖] 河瀬……お前感動し過ぎだからw]


 取りとめが無いと言うか、一気にクラチャが流れ過ぎてもう誰が何の話をしているのか把握できない……。

 隊列をなんとかしようとする行為自体が無駄だったのだろう。そう思った私は、その後も続くクラチャを楽むことにした。


 中腹までは徒歩20分弱。その間狩り場を歩くので当然モブも湧く。が、モブの処理は全て、前を歩くPTがやってくれた。

 それも束の間で……入り口に到着する頃には、クラチャの半分が「」に変わる。


 モブを倒しながら「暇だ」とぼやくその考えが廃人なのだと言う突っ込みが其処彼処そこかしこから入りつつ、暇をもてあまし始めたメンバーたちは次々前を行くPTを追い越しついには先頭を歩くようになっていた。


 それなりに強いとされるモブだが、所詮しょせんは……と言った感じで、サクサク屠られて行った。

 入口の傍に立つロゼのPTがロゼの『入るぞ』と言う合図と共に中へ入る。

 それを見送り、最後に入ろうとしていた私たちに周囲が遠慮するような雰囲気を出す。


それを悟ったらしい先生の『行こう』と言う合図で、ロゼに続いて私たちも中に侵入した――。


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