第149話 最強は壊滅を齎す⑤

 狩り場に辿り着き、モブが500前後いるであろう大部屋になったバルコニー付きの場所を確保した。バルコニー奥も対になっているため同じ作りの大部屋だ。


 フルPTと言う事でここにしたのだが、少し多いかもしれない。


 その部分は私とキヨシ・先生の処理能力でどうにかするしかないだろうと思いつつ、バルコニーでバフを開始する。

 バフをかける間に、黒・先生・宮ネェから前回の反省をいかしキヨシ・チカへ注意するような声がかかる。二人も十分に反省しているらしく珍しく「わかった」と素直に返事をしていた。


 微笑ましい光景だと言う、ミツルギさんにそれは違うよ……と思いながら、個別のバフをかけ終える。

 じゃぁ、後でと言う言葉と共に、黒たちが逆サイドへと歩いて行くのを見送り私たちも狩りをするべく部屋へと向かった。


 手順は、大和が引き私とミツルギがゲッターサークルスクロールを交互に使う。ミツルギが使っている間に、デバフを撒く。ある程度纏まった頃合いをみて攻撃を開始する。といった感じに決まった。


「んじゃま、行って来る~w]

「てら~」


 大和の声に先生が答え、大和が走りだすのに合わせ大和が入り込む場所から3メートルぐらい離れた場所にデバフをおく。

 ・バインド(+18)

 ・ポイズン クラウド(+20)

 ・フレイム サークル(+20)

 ・スロー レンジ(+5)

 ・ショック ボルト(+19)

 毎度同じデバフだが、これが一番効率が良いのでこれにする。


[[大和] うわー。いてぇwwww

     こここんなのに痛かったっけ?w]

[[キヨシ] 大和のHPがw ゴリゴリ減ってるw]

[[宮様] 怖いわ! 早く帰って来なさいw]


 私的には、話す暇があるなら早く帰ってこいと思ってしまうほど大和のHPの減り方が怖い。なんでこんなに減るんだ? そう思いつつ走り去った大和の姿を思い出し、あ……と気付いた。


[[ren] 大和。装備……街着?]

[[大和] あ……]

[[宮様] おぃw 初歩的なミスしてんじゃないわよw]


 宮ネェの男言葉を久しぶりに聞いた気がした。「ごめん~」と謝り走りながら装備を変更したらしい大和のHPの減り方がガクっと変わり、無事に私達の元へ戻ると角に入った。

 

 足の速いモブに対しゲッターサークルスクロールを使い足止めする。

 一枚目のエフェクトが上がるのを見届けたミツルギさんが、二枚目を使うべく待機する。

 それを見ながら、足止めしたモブへバインド(+18)を詠唱発動させ再びバインドを少しだけずらし設置した。


 バインドは入ったモブに大和がレンジ ヘイトを飛ばし、先生・ミツルギさんが槍で、キヨシが範囲魔法で攻撃を開始。大和のヘイトが入るのを見届けた宮ネェが回復を飛ばし、大和を癒せば二枚目をミツルギさんが使う。

 そのエフェクトを見届け、ショック ボルト(+19)とバインド(+18)と他の設置魔法を順次、詠唱発動させた。


 三枚目を使うタイミングに合わせ、私がドラゴン オブ ブレスをキヨシがサンダー ストームを第一の塊へと打ち込めば、再び大和のレンジ ヘイトが再びモブの頭上へと上がる。


 続々と大和目掛け辿り着くモブの塊が次々と鉄格子のエフェクトに嵌り、固まり倒れていく。


 最後のモブが倒れ、少しだけ考査する。

 初回と言う事で多めにスクロールを使ったが、次回はもう少し減らしても良いかもしれない。それから、リーチの長いモブの攻撃が大和に掠り当たっていたことから、デバフの設置はもう少し手前の方がいいだろう。

 キヨシのMPの減りが、いつもより早い。メイン火力な分MPの消費が多いのかもしれない。Mガム渡すか……

 などと、改善点をしっかりと確認してキヨシを呼ぶ。


[[キヨシ] ren、なーにー?]

[[黒龍] ん~。もう少し手前でスク使ってくれw

     流石にいてーわw]

[[宮様] 今ので半分なのよね?]

[[ren] これ、食べておいて]

[[†元親†] MPしんどいw]

[[白聖] 距離的にどんぐらい?]

[[大和] うん。さっきので半分。減らす?]

[[キヨシ] うぇー! MガムじゃんTT]

[[さゆたん] これ食べるでしゅよw]

[[黒龍] ここらで俺が受けるから、ここだな。

     ゴミ置いとくから、ここで1枚目使ってくれw]

[[宮様] ううん。量的に丁度いいと思うから

     今のままで大丈夫よ]

[[†元親†] え……マゾガムじゃん……やだっ]

[[鉄男] 了解。二枚目は少しずらせばいいんだな?]

[[ren] まずくても食べて……]

[[黒龍] そうそう]

[[さゆたん] 食べるでしゅ……死にたいでしゅか?w]


 2PTに分かれているおかげで、クラチャも混線する。黒の方も一度目の引きが終わったようで、位置取りなどの修正をかけているようだ。

 MPがしんどいと言うチカに私と同じようにさゆたんが、Mガムを渡し脅していた。


 そんなクラチャを見守りつつ、キヨシにMガムを強制的にトレードで渡せば梅干しを食べた直後のような顔をする。

 チカも食べているのだから我慢しなさい。と言う無言の圧力をかけ承諾を押させたところで、大和が再びモブを引きに走った。


 そう言えば、今後の事を考えヒガキさん・ゼンさんにもスクロールの使い方や配置を教えておいた方がいいだろう。うちにいる限り必ず使う事になる訳だし……それに、今回試していけるようであれば……スクロールを任せてもいいかもしれない。


[[ren] ヒガキさん・ゼンさん

    次、大和が引きに行く前

    二人にスク渡すから使い方覚えて]

[[大次郎先生] ん~。キヨシもう少しテラス側に

        寄らないとモブ引くぞ]

[[†元親†] 口の中が……ドブ水みたいな味]

[[ゼン] はい]

[[ヒガキ] はい]

[[キヨシ] 先生、ここらへんでいい?w]

[[ティタ] チカ、飲んだ事あるの?w]

[[宮様] 簡単だから緊張しなくて大丈夫よw]


 二人に説明しようとしたところで、大和の戻るぞ~と言う声がかかる。慌てて、デバフを設置して一枚目のスクロールを取り出した。


 走って戻る大和の後ろから再び大量のモブが走り着いて来る。量的にはさっきと同じだが、リーチの長いモブが多いように見える。

 それを視認した私は、デバフをさっきよりも手前に設置し直し一枚目のスクロールを使った。


 さっきより一メールほど手前にモブの塊を作る。そのまま設置していたバインド(+18)を詠唱発動させれば、大和のレンジ ヘイトがモブの頭上にエフェクトを上げた。

 先生とミツルギさんが槍を持ちスクロールで囲った塊に斬りかかる。その背後から、キヨシのサンダーストームが打ち込まれた。


 二枚目、三枚目とスクロールの消費を重ね、魔法や槍で攻撃を続け引いたモブ全てが屍になった。

 それと同時に、よほどMガムを食べたくないのかキヨシが徐に瞑想を始め、私はゼンさん・ヒガキさんにトレードを出しゲッターサークルスクロールをとりあえず、200枚ずつ渡した。


 宮ネェとミツルギさんに手伝って貰い、スクロールの使い方講座を始める。


 まず、このゲーム内で使うスクロールは筒のように丸められた状態で取り出され、そのスクロールが即時発動型の魔法が籠められている場合、開く事で発動する。設置型の場合は、設置する場所の設定が必要になる。


 今回使うゲッター サークル スクロールは設置型に分類されているため、スクロールを開くと視界に設置できる範囲がマス目のような点線で見れるようになる。

 そのマス目の範囲内で、設置したい場所を視線で指し示せば赤く点滅する。

 点滅させたまま瞬きを一度すれば、その配置で決定となり魔法が発動される。


 やり直したい場合は、赤い点滅した部分以外に再度視線を向ければいいだけなので慣れてしまえば余裕でできるようになるのだが、初心者には少し難しく感じるだろう。

 ひとまずスクロールについての説明とやり方を教え、実践込みで一度試してみて貰う事にした。


[[さゆたん] 鉄男、もう少し纏まってから殴るでしゅよ]

[[ren] 大和引いてきて。こう言うのは

    実践でやった方が覚えやすい]

[[ゼン] 緊張しますねw]

[[大和] りょーかいw]

[[キヨシ] 失敗しても平気だぞーw]

[[鉄男] k]

[[大次郎先生] のんびり覚えて行こうw]

[[ヒガキ] はい]


 大和にGoの合図を出し、引きに行くのを見送りながらミツルギさんにもスクロールを使うよう伝える。

 二人が設置にミスしてもいいようにと言う配慮からだったのだが、大和が引きから戻りスクロールを配置するタイミングだけを伝え二人の様子を見ていた私は、一人感嘆の吐息を吐いた。


 この二人意外とやるかもしれない――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る