第136話 最強は夢想する⑯

 寝起きの頭をシャワーを浴びる事で活性化させ、ご飯を食べ終えPCを操作して必要な物などを調べ上げ頭のメモ帳に書き込み病ゲーにログインした。

 いよいよ最後である解読の代行習得に取り掛かる。


 そう意気込んで、ハウスのマイルームから執事の元へと向かっていた私を、黒が呼びとめる。階段の上から名前を読んだ黒が、チョイチョイと手招きし呼ぶ。

 この忙しい時になんだと思いつつ、黒の方へと向かい階段を上がった。


「あれ、まずくね?w」

「ど――っ! え、何アレ?」


 黒が指示した窓の外を見た私は、呆然とそう呟き……庭を見つめた。

 確か買った時は、広葉樹と芝生が広がる庭だったはず。

 それが、たった数日で……視界いっぱいの耕され何かが植えられた畑。奥には、ハウスまで建っているしまつ。


「あ、あれどうやって……」

「……さぁ?」

「このままだと、全部畑になる?」

「だろうなぁ……」

「でも、なんで――!! メイドっ!!」


 呆然と視界に畑を収めたまま黒と会話を交わした。こうなった原因はなんだ? そう思いつつ見つめていた私の脳裏に、一人のメイドの姿を浮ぶ。

 たれ気味のキツネ耳のメイドさん……シュリだったか? あの子の得意な仕事が剪定だったはずだ……だが、剪定に畑を作るなどの仕事が含まれていただろうか……?


[[黒龍] メイドやべぇーw]

[[大次郎先生] どうした?]

[[宮様] どうしたの?]

[[ゼン] ヒガキさんもう少し右です]

[[黒龍] 皆、庭見てみww]

[[ティタ] おぉ~。畑できてるじゃん~w]

[[キヨシ] ギャアアアアアアアアア!

      俺の秘密基地潰されてるゥゥゥ!]

[[さゆたん] 景観もくそもないでしゅwww]

[[鉄男] うちのクランいつから

     自給自足するようになった?w]

[[ヒガキ] これで、いいですか?]

[[ren] 庭の剪定って、農作業含まれるの?]

[[白聖] ちょw これやばくね?w]

[[†元親†] ハウスまである!!]

[[ミツルギ] うぉー。これはまた壮大な庭っすね]

[[大次郎先生] 調べて来るw]

[[宗乃助] これはまた……

      何を植えたでござろうか?]


 うーん。とにかくこれはどうにかしないとマズイようだ。先生が調べに落ちている間に、何故こうなったのかをメイドさん達に調査すべく動こうとした私の足元に、階段を駆け下りて来たキヨシが縋りつく。


「れん~~~~。俺の秘密基地がぁぁぁぁ」

「あぁ、うん。わかった。分かったから放して?」

「ぶはっ」

「くろ……」

「ちょっ! 俺は何もってやめーろぉぉぉ!」


 私とキヨシを見て吹きだした黒に天罰が下った。

 いい気味だとほくそ笑みながら、階段へと向かう私の肩を掴む黒が、ドスの効いた声で「逃げるな」と言う。


 振り向きざま最高の笑顔を湛え「黒くん。ちょっと、言ってる意味が良く分からないなぁ~」と、胡蝶をマネて声を高くして可愛らしく答えれば、黒がデバフを受けたように硬直する。

 その隙に、掴んだ手を払いダッシュで階段を降りれば「くそがぁぁ、覚えてろよren!」と、負け犬の遠吠えが聞こえた。

 

 そんな黒を生贄にささげ、早速メイドさんの調査に乗り出す。と言っても、メイドさんに声をかけ仕事の詳細を見るだけなのだが……。


 一人目は、ミールクちゃん? だ。玄関ホールの窓ガラスを拭く彼女に背後から話しかけ、現れたウィンドウの中から詳細情報をタップする。

 この詳細情報と言うのは、NPC全てに設定されている項目で、性格や家族構成なども載っている。


 が、私達プレイヤーが見る事の出来るNPCは、自身が雇い入れたNPCのみでその他のNPCの詳細を知ることは出来ない。


 ミールクの詳細情報に書かれた項目に目を通す。

 

===================================


 名前 ミールク

 性別 女

 年齢 16

 職業 家政婦(メイド)

 性格 明るく元気ではあるが、潔癖。

    家族思いの次女である。

 家族構成 祖父、父、母、姉、兄、妹

 得意な仕事 室内の掃除

       その中でも、窓拭きが得意である。

       隅々まで丁寧に仕事をする。

       但し、ゴミとみなせば全て捨ててしまう。


===================================


 ふむ……窓ふきが得意で、怪我をしやすいと……犯人ではないようだ。では、次の人に行ってみよう。この時間ならば、キッチンに一人居るはずだ。

 そう思い、ダイニングへと移動すれば目的の人物は、忙しそうに調理の準備をしていた。


 ミールクちゃん同様、キリールさんに話しかけ詳細情報をタップする。


===================================


 名前 キリール

 性別 女

 年齢 53

 職業 家政婦(メイド、料理長)

 性格 快活で、真面目。愛情深い。

    食事を残すと激怒する。

 家族構成 父、母、夫、子は、三男一女

 得意な仕事 調理、料理

       得意料理は、カレードリアバーグ。

       一切の妥協は許さず食に拘る料理人


===================================


 一切の妥協を許さないか……妖しいけれど、どうだろう? 彼女が食材のために畑を作るなどある得るか? 

 そう考えた所で、先生が戻る。


[[黒龍] いい加減放せつってんだろーが!]

[[大次郎先生] ただいまw]

[[キヨシ] 俺の秘密基地がぁ~TT]

[[さゆたん] 今はやりのボーイズ○ブでしゅか?]

[[†元親†] うははは。俺も俺も~!]

[[ティタ] ……そういう趣味だったの?]

[[黒龍] なわけねーだろ!!]

[[ren] どうだった?]

[[白聖] 草]

[[宮様] ちょっと、あんた達邪魔よ!]

[[ミツルギ] 見ないようにするっすねw]

[[黒龍] キヨシィ! チカァ!]

[[大次郎先生] うーん。結果を説明すると……庭の剪定持ちと、料理人が

       メイドに居る状態で、クラン倉庫に食べ物の種とか実とか

       入ってると庭が畑になるらしい……]

[[宗乃助] いい加減離れてやるでござるよ。

     ほら、キヨシ。これで新しい梯子作るといいでござる]


 先生の説明を聞いた私には、クラン庫の食べ物について思い当たる節があった。

 そう、あれはクランのLv上げをしていた時だ……1個2Mで買った黄金のオレンジが……確かにクラン倉庫に入っていた。

 それに、薬草の種や花もクラン倉庫に入っていた記憶がある。

 

[[ren] クラン庫に黄金のオレンジ入ってた]

[[キヨシ] 俺が入れといた~! Lv上げにいるかな~って思ってさw]

[[宮様] あら、私も入れちゃったわよ?w]

[[白聖] 俺、薬草類入れた]

[[宗乃助] 拙者も、薬草類入れたでござるw]

[[ティタ] 俺も……黄金のイチゴ入れたけど?]

[[大次郎先生] とりあえず、庭を区画分けしよう。

       そうすれば、その部分だけが畑になるらしいから分けちゃってw]

[[さゆたん] 善意からでしゅし怒れないでしゅねw]

 

 さゆたんの言う通り善意から起こった事件だ。今回は仕方が無いと苦笑いを浮かべ、庭へと向かった。


 八割方畑になってしまった庭の中央にある八角形になった東屋のテーブルの上にある石をタップする。その岩は庭を管理するために用意された設置物で動かす事はできない。


 その石をタップした瞬間、建物や畑全てが消え黒背景に赤、白、灰色の電子的な配置画面へと視界が切り替わる。

 それはまるで、スマホなどを使い物や家、畑を配置して遊ぶゲームのそれに良く似ていた。


 今私の視界には、黒背景に、灰色の畑と赤い建物、白い庭が映っている状態だ。


 まずは、畑の区画を縮小するため、畑を一度全て取り除き白に戻し庭の一部へと移動させる。そして、畑自体の広さを四分の一程にして再び同じ場所へ畑を設置した。

 その部分に、畑と名前を付け区画を分ければそれ以上広がらない。

 

 配置を終え、これで問題ないだろうと完了を押しかけ、ミールクの但し書きを思い出す。

 キヨシの秘密基地が、ゴミと判断されればそこにあるものは全て捨てられてしまう。

 そうなれば、更に面倒な事になる。そこまで考えそうならないよう予めあらかじめその部分の区画を分け、キヨシ用秘密基地と名前を付けておいた。


 ウィンドウの確定ボタンをタップする。それと同時に庭が綺麗に整備された。

 

[[ren] 区画分けしといた。とりあえずこれで]

[[大次郎先生] お疲れ様]

[[キヨシ] 俺の秘密基地戻った―!

     ありがとーren!]

[[さゆたん] おつでしゅよw]

[[ren] じゃぁ、クエしてくるから後は適当にしといて]


 適当にと伝えた所でクラチャのタブを閉じる。ハウスに戻り玄関ホールで執事に話しかけ倉庫から、解読に必要な魔法の籠められたディティクションスクロールと未鑑定のスキル書――物理用を取り出し【 アテナ 】へと移動した――。


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