第135話 最強は夢想する⑮
ヘイトに反応し滴る液体でできた身体を動かし、舌を伸ばして攻撃するボスに対し黒は、盾を使いダメージを出来るだけ抑える。
その黒に宮ネェとチカが交互に回復魔法を飛ばし、さゆたんとキヨシのトルネードがボスへと叩き込まれた。
それに負けじとシロがMPで作り出した矢に風を纏わせボスの体を穿つ。
このボスに使えるデバフは何かを思案して、とりあえずとばかりにスロー(+20)を詠唱しボスへと発動させた。
レジられたスローを何度か詠唱し入れる間に、物理攻撃を得意とするメンバー達もボスに対して剣気を飛ばしたりスキルを使いダメージを与えている。
しつこく何度スローを詠唱し漸く入ったと思ったその時ーーボスの腹が物の数秒で大きく膨れ上がり、口から三色のオタマジャクシを吐き出した。
それと同時にティタとキヨシが動きオタマジャクシを斬りつけ魔法で殲滅していく。
[[ティタ] 黒k]
[[キヨシ] 青k]
[[宗乃助] 赤消えたでござる]
[[ティタ] 次、黒k]
一匹倒すごとに互いに声を掛け合いミスがないように報告し合う。そんな姿に一緒に狩りをしてきただけのことはあるなと思う。
オタマジャクシが動き回る間はボスの動きが止まる。
その間に、さゆたんと一緒に私も杖についた精錬ストームとサンダー スピアをボスへと叩き込んだ。
二次の狩場の中ボスであるカスケード トードは、三次職である私たちの魔法を受けそのHPをガッツリ減らしてくれる。
そのせいでティタとキヨシは、新たに現れたオタマジャクシの処理に追われ、ボスは動きを止めたまま動かない。
ボスにとっては悪循環とも言える状況だが、倒す側の私たちにとっては非常にやり易い環境になった。
黒の回復が必要じゃなくなった宮ネェとチカも攻撃に加わり、HPの減る速度が更に上がる。
いつの間にか残りHPの4割を切っていたらしいボスは、一時無敵状態になると波打ち滴る液体の体を岩に変化させた。
それは一般の二次職のPTであれば厄介極まりないと言うところだろうが、三次職であり物理攻撃職が多い私たちのPTにとっては願ったり叶ったりなありがたい変化だった。
[[黒龍] うしっ、一気に沈めるぞ!]
[[ミツルギ] うっす!]
黒の言葉に元気よく返事を返したのはミツルギさんだけだった。
シロは弓を持ち替えミスリル アローに使いインパクト スマッシューー三次職弓職専用のスキル。弦に掛かる負荷力をあげ、放つ矢の速度とダメージを強化する。通常攻撃より二倍のダメージを与える。ーーを打ち込んだ。
そんなシロよりも勢いがあったのは、宗乃助と鉄男だ。宗乃助の持つ二本の短刀がほぼ同時に×を書くように振り抜かれ、甲高い竹を割ったようなクリティカルオンを響かせる。
実に楽しそうに笑った鉄男が宗乃助の背後から、インフィニティ トライデント アタックーー三次の槍使い専用スキル。インフィニティ数字の8を横にしたような形に、槍で何度も貫き相手を硬直に追い込み、三倍のダメージを与える。ーーを発動させた。
それを軽く飛ぶことで交わした宗乃助が、空中からトードの目に向け短剣を押しこみ斬り付けた。身軽な宗乃助らしい攻撃に、私も宮ネェも感嘆の声をあげ拍手を送る。
[[宗乃助] 照れるでござるよw]
[[宮様] 素敵よ~!]
[[ren] うらやま]
[[ミツルギ] むっ! 俺もやるっすよ!]
[[黒龍] やめとけw 宗乃助に張り合うなw]
[[鉄男] おーれーもーほーめーろーよー]
[[キヨシ] かっけーなーw]
[白聖] ハイハイ、テツオモステキステキ]
何故か対抗心を燃やすミツルギさんが、カスケード トードにX斬りをかました。
褒めろと言う鉄男に、棒読みで褒めるシロ。その会話を聞き笑いながらボスへ、黒が剣で切り裂きLA(ラスト アタック)を入れた。
「グボコボコココ」
と、泣き声をあげひっくり返るようにして倒れるカスケード トードと共に、泳ぎ回っていたオタマジャクシの群れもまた、しぼむように消えていった。
[[ティタ] ふぅ。疲れたw]
[[キヨシ] はぁ、影に入ると黒と青見にくい!]
[[†元親†] 結局LA黒かよーw]
[[宗乃助] ガマの油出たでござるなw]
[[白聖] だなーw これで投具作れるなw]
お疲れと労い合いつつ、ポータルへと移動する。全員乗り込んだのを確認して、ゼンさんヒガキさんを優先に帰還の護符を使った。
皆はハウスに帰還したようだが、私はまだミューズに用がある。ポータルに到着すると同時に、再びミューズの街の西にある神殿跡地を目指し走った。
神殿跡を前に、先ほどチカに聞いた話を思い出す。
【 女神の宝冠 】の場所は、神殿の正面にある崩れかけた階段を上り二階の左奥にある。その部屋の手前で廊下が無くなっているためバルコニーに出て、その部屋に行くこと。そして、戦闘や罠は無いとも言っていた。
急ぎ足でゴシック様式の神殿の内部を進み、階段を駆け上がる。少し黄ばんだ白い石でつくられたそれは、かなり風化が進んでいるらしく所々欠け、二階左奥にある扉の手前で廊下が抜け落ち無くなっていた。
チカの説明通り、手前の部屋の扉を開きバルコニーへと移動する。そしてバルコニーから奥の部屋へと到着する。
そこには、ガラスケースに飾られた静銀色の台座に、ひと際大きなアクアマリンとその両サイドを大きめのタンザナイトが飾るティアラが鎮座していた。
早速スケッチを始めるべく、まずは近くでSSを撮影する。前後左右のSSを取り終えたところで、アイテムボックスからクエスト用の羊皮紙とペン、テーブルとクッションを取り出した。
撮影したばかりのSSを視界に配置し、ペンを握ると製本する時と同じようにクッションに座り集中する。羊皮紙の広さから前後左右をそれぞれ書き写す。
こう言うのは製本で慣れている……やっといて良かった! と、この時ばかりは製本の代行を取っていた過去の自分を褒めてやりたくなった。
時間にして約1時間。黙々と1枚目、二枚目とSSを羊皮紙に書き写し、最後の線を弾き終える。
再度見直しを終わらせ、羊皮紙を丸めてその場に出した全てをアイテムボックス内に収納し、ジョースイさんの店に向かった。
店に辿り着き、早速彼にクエスト用の羊皮紙を渡せば
【 素晴らしい! こんなに完成度の高い設計図は見たことが無い 】
と言う言葉と共に、小一時間『 彫刻の極意 』についての話を聞かされ漸く、彫刻の代行を覚えた事を知らせるシステムログが表示された。
【 おめでとうございます。彫刻をつくる事ができるようになりました。 】
【 おめでとうございます。スキル書を作る事ができるようになりました。 】
【 おめでとうございます。未鑑定のスキル書を制作できるようになりました。 】
ん? スキル書? 彫刻覚えたらスキル書作れるのか……? 今まで、製本で作れたのは、本や羊皮紙と言った紙を使った魔法書やスキル書(武器専用スキル)だけだった。
ティタや黒たちが使う、スキル書――ウィンド アタックなどを作る事は出来なかった。なぜならばスキル書(物理用)は本や紙ではなく、クリスタルにそのペンタグルが彫り込まれているからだ。
それが、彫刻を覚えたことで作れるようになったと言う。
ってことは、もしかしたら……鉄男の言う通り、解読さえ覚えれば自身が使えないスキル書や魔法書を書き起こし販売する事ができるかもしれない。
その可能性が、グーンと私の中で跳ねあがると同時に口角が緩んだ――。
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