第125話 最強は夢想する⑤
定期船は、大海原をいつも通り進む。
優雅な貸切を味わうつもりも無く、黙々と製本作業をこなした。二個目のペンタグルを書き終え最終確認をしつつ、吐息を吐き出し緊張を解す。
漸く出来あがった二冊目の魔法書をアイテムボックスに仕舞いこみ、時計を見やりそう時間がかからず太古の孤島に到着することを知った。
[[宗乃助] ren。今度時間がある時
闘技場に付き合って欲しいでござるw]
[[キヨシ] そう言えばさ~。
キッチンにいるメイドって、もしかして……]
[[ヒガキ] マスター
看板はクラン庫に入れておきます]
[[黒龍] ボスのドロップがクソ過ぎてやる気でねーw]
[[宮様] 残念だわ~]
[[さゆたん] クランで代行しないって言う変り者は
renちゃんだけでしゅw]
[[ティタ] ちょい落ち]
[[ゼン] 自分も一度落ちます]
[[ミツルギ] 骨集めに行くっすw]
[[†元親†] 船何時~?]
[[鉄男] なんか、スキルの使い方わかんねーw]
[[白聖] 皆独り言言い過ぎじゃね?w]
[[大次郎先生] ティタ、ゼン> 乙]
魔法書を作っている間に流れたらしいクラチャのログを読みなおし、各々に返事をする。集中するとどうしてもクラチャが、いつも以上にラジオのようにBGM化する。
[[ren] 宗乃助> わかった
キヨシ> キヨシの好みのメイド
ヒガキさん> あり
ミツルギ> 着いたら骨クラン庫入れとく
チカ> 4時間後
ティタ、ゼンさん> 乙]
鉄男> っ【狩り】
[[黒龍] wwwwww]
[[白聖] ひでぇw このクラチャが一番酷いww]
[[宮様] ren船で寝てたの?]
[[大次郎先生] いくらなんでも纏めすぎw]
[[ヒガキ] いえいえw]
[[キヨシ] まじかぁぁ!
これぽっちゃりとは言わない!
ただのおばちゃんじゃんw]
[[ミツルギ] ありっすw]
[[ren] 寝てない。製本してた]
私なりに丁寧に返事をしたつもりだったのに、何故草が生えるのか? まったくもって意味が分からない。
宮ネェの質問に答えるつもりで製本していた事を伝えた途端、ログインしていたクラメンの全員が「え?」とか「マジで?」と、驚きの声をあげそれがそのままシステムログに流れていた。
別に船で製本しようとモブの襲撃さえなければ問題は無い。
定期船は定期的に海洋大型モンスターである、ジャック シャークやブラッド ホエールなどに襲われる。
襲われて戦闘で惨敗し船が沈めば、この近隣の島にランダムで漂流し辿り着くことになるのだが、その島にもアタリハズレがあるそうだ。
アタリ島の場合は、ポータルもしくは船が手に入る。もっと良い島の場合は宝箱なども置いてある場合があるらしい。
ハズレ島の場合は、ポータルはあるものの、そこには必ず中ボスもしくはボスがいる。 帰還をかけてボスと戦闘し勝てば無事に帰れるが、戦闘に負ければ経験値を代償に死に戻りすることになる。
しかも、ドロップはほぼ無しか、出てもゴミだ。
正直な話、戦闘に破れハズレ島以外当たったことがないので、らしいと言う憶測になってしまった。
ネットで調べてもアタリ島のSS付きでの詳細は出ていないため、本当にあるかどうかは未だ不明とされている。
そんな事を考えている間に、船は無事古代の孤島へと到着した。船が止まり降りれる合図のベルが三回鳴らされ知らされると同時に、下船するためベルの傍に居るNPCに話しかけ降りるを選択する。
タップした刹那視界が暗転し、景色は一気に鬱蒼とした薄暗い密林地帯へと変わった。
大きなシダの葉が視界を塞ぐように生え、南国に多くありそうな太い幹の木々には大きめの蔦がぐるりと巻きつき、僅かに木々の合間に差し込む光さえ遮るように覆い隠している。
まるでジ○ラシッ○パークに迷い込んでしまったようなそんな感覚を覚えた。
定期船が止まった船着き場から西に進めば、そこは太古の民と言う原住民みたいなNPCの集落がある。
まずは、集落まで行きキャラチェンジを済ませ、倉庫から骨をクラン倉庫に移してしまおうと考えた。
早速、トランスパレンシーを入れ西へと向かう。集落までの道程度であれば、トランスパレンシーさえ入れておけば、モブに気付かれる事は無いので危険は無い。
のんびり風景を楽しみながら歩いていたのだが、何度も通い来た事があるからか海と砂浜と密林という絶景にも等しい風景に、早々に飽きてしまった。
暇だからとクラチャのBGMに耳を傾けてみるも、皆ログアウトしているのか自室で作業中なのか、そちらも静かで……ただサザ波と葉の擦れる音だけが聞こえていた。
歩く事15分漸く見えた集落の煙に少しだけ早歩きになり、長い散歩を終え集落の門をくぐる。
見える景色が少しだけ変わり、砂と言うより泥に等しい色をした地の上に、木を組みシダっぽい草を乗せただけの家々が10件ほど並んでいた。
集落の中央には一本の大木から、削り出したと思われる長髪にカールした髭のポセイドーンと男神の像が飾られている。
ポセイドンがどうかは微妙なところだが、足元にポセイドーンとカタカナで書かれているのでポセイドンなのだろうと言う事にしている。
像を中心に三時にある家が宿屋だったはずと記憶を頼りにその家を訪ねNPCに話しかければ、間違いないようで無事に部屋を借りる事が出来た。
こんな掘立小屋にも満たない家なうえ、葉っぱのベットで一泊50kはぼたくりに近い……けれど、ここしか寝るところがないことから仕方ないと諦めるしかない。
宿屋の部屋に入り。部屋自体どこにあるんだという大きさの家なのだが、きっと拡張しているのだと思いこむ事で違和感を感じないよう努力する。
こんな微妙な気分になるのは、久しぶりに来たせいと言う事にしてキャラチェンジボタンを押し、クランハウスに置いているサブキャラにチェンジした。
[[倉庫初号機] 骨何個欲しいの?]
[[キヨシ] renおけーりw]
[[ヒガキ] え? ま、ままますたーですか?]
[[黒龍] ネーミングセンスワルw]
[[白聖] 俺10kぐらい欲しい]
[[ミツルギ] あぁ、renさんっすか?w 俺、ある分だけ買うっすよ?]
[[宗乃助] 15kぐらい頼むでござるw]
[[宮様] ミツルギ。あるだけはダメ!
個数指定しないと、破産するわよ!]
[[黒龍] そうだぜ~。
肉だけでも300k越えで持ってる奴だぞ?w
骨なんていくつあるんだか……]
[[キヨシ] やっぱこのおばちゃんぽっちゃりじゃねーよTT
飯は美味いけど……納得できねーYO]
[[ミツルギ] あ……ちなみにいくつほど持ってるんっすか?]
[[白聖] おばちゃんの飯美味いからいいじゃん!
うちには必要だろ?w 料理出来る奴いねーんだしw]
[[倉庫初号機] 待って、倉庫]
肉よりも更にドロップしやすい骨は、一匹のモブあたり2~3個ほど落ちる素材だ。
一時期プレイヤー間に流れた恐竜から魔法書が落ちたらしいと言う噂に乗せられ、この狩場に籠り狩りまくったおかげで、現在も大量に不良在庫として倉庫に保管されている。
いずれ投具の代行で使おうとは思いつつ、その値段と手間暇が釣り合わないことから面倒になり放置していたものだ。
執事に話しかけ自分の倉庫を開いて、骨の個数を確認すれば1990万1265個持っていた。
ミツルギさんが全部買ってくれるなら、売っても良いな……1個あたり安くして200ゼル計算にしても、3Gと980Mにはなる……約4Gの収入か、悪くない。
早速、全部買いとってくれるようミツルギさんに交渉してみることにした。
[[宮様] 個数が怖いわ……何個だと思う?]
[[ヒガキ] そんなに貯まるものなんですか?]
[[白聖] 11Mは超えてる!]
[[黒龍] 10M越え!]
[[キヨシ] 7Mぐらいじゃね?]
[[宗乃助] 流石に5M以上はないと思うでござるがw]
[[倉庫初号機] 1990万1265個ある。全部買う?]
[[ミツルギ] 10M個って貯めれるんっすか?w]
倉庫にある骨の個数を素直に全部伝えたところで、クラチャが静かになってしまう。
数分の無言の後、キヨシを筆頭に「はぁぁぁぁぁ?」とか「頭おかしいだろう?」とか言う言葉が聞こえ、システムログがそのチャットログを表示した。
[[キヨシ] 数がえぐいw]
[[宮様] 良く、そこまで貯めたわねぇ~]
[[宗乃助] 多いでござるな……]
[[白聖] もう、笑えない数なんだけど?]
[[ミツルギ] 本当に、破産するっす……]
[[黒龍] まーrenだし?]
[[倉庫初号機] で、全部買うの?]
売り付ける気満々でミツルギさんに聞いて見た所、大層恐縮しながら破産するんで、100k分だけ売って下さいと言われてしまった。
折角の不良在庫処分を逃した私は、仕方なく執事前でシロ、宗乃助、ミツルギさんとそれぞれ取引をする。
一個あたりの値段はクラメン価格と言う事で200ゼルにしておいた――。
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