第126話 最強は夢想する⑥

 全て売れるはずもない骨のトレードが終わり、やっぱりかと言う思いを抱えメインにキャラチェンジをする。


 renに戻り、ぼったくりの宿屋から狩場に向かう道中で、狩しているPTが見えた。

 遠目に見えるクランマークが同じなのでクラハンだと思われる。


 こんな過疎狩場でクラハンかと思いながら見えるプレイヤー達に焦点を合わせよく見てみれば、なんと胡蝶のところのクランマークだった。


 しかも、後方にいる使えなさそうな棒立ちの回復は、間違いなく胡蝶だろう。

 これは関わらないほうがいいと直感的に感じた私は、足を止めその場でトランスパレンシーを使ったのだが……既に認知されてしまっていたらしいと、相手からの白チャで知らされた。


「あら、renじゃない〜。こんな所で一人寂しく何してるの?」


 あぁ、面倒なのに絡まれた。ここはスルーするのが一番だと通り過ぎようとした刹那、胡蝶の取り巻きがディティクションを打ち上げた。


「チッ」

「ちょっと、何無視しようとしてるのよ!」

「ノ じゃぁ」


 舌打ちしつつバレたからには仕方ないと挨拶をして、そのまま通り過ぎようとする私の腕を掴んだ胡蝶が、イラついた顔と声で「何してるのか聞いたんだけど?」とキレた。


 めんどくさい……。


「代行のクエしに来ただけ」

「え? 今更なの? 代行?」

「……」

「ぷはっ、三次職カンストのあんたが今更代行のクエって……w どんだけ貧乏なの?w 草生えるw」


 あーやっぱり無視すればよかった……。

 人を小馬鹿にしたように、爆笑する胡蝶にジト目を向け、溜息を零し先を促してみる。


「で?」

「あー、おかしい。久しぶりに笑ったわw」と切り出した胡蝶が、真面目な顔に戻ると一緒にいた暗殺者の一人を指差し以前送ったメールについて礼を言ってきた。


 まさかあんなメールで胡蝶からお礼を言われると思ってなかった私は、驚きのあまり口をぽかんと開け呆然と胡蝶を凝視してしまった。


「ちょっと! あたしがわざわざ、お礼言ってるんだからなんとかいいなさいよ!」


 両手を腰に置いた胡蝶が、ツンといった感じで呆然とした私に答えを急かす。


 ハッと我に帰り、どう答えるべきか考え、これ以上話が長引くよりココで終わらせたほうがいいだろうと言う結論から「どういたしまして?」と伝えれば胡蝶の顔がポッと赤く染まりデレた。


 胡蝶の周りのクラメン達が、何事か呟く様子になるほどと納得する。

 彼女のこう言うところに彼らは萌えるのかと……。


 デレた胡蝶の右後方から私を睨む胡蝶信者に向け、胡蝶に全く興味はないから安心してくれと心の中で訴えつつ彼をみつめてみたものの、何かを勘違いしたらしい信者が更に視線をきつくした。


 これは面倒くさいことになるそう思ったのと私は、胡蝶に「ノシ」と、仮想キーボードを出現させてチャットで打ち込みトランスパレンシーを入れる。それと同時に、そそくさとその場を離れた。


 思わぬ相手と遭遇したことで大分、時間をロスしてしまった。

 目的地である島の南側の方へ向かいながら、イフリート山で見かけたクエスト表示を探し歩く。


 クエストを受けた当初、あれはケンタウロスの骨だと思っていたのだが、クエストを受けるのが二次職だと言う事を考えた結果、ケンタウロスの討伐はないだろうと言えた。

 現状、手掛かりがない状態であるためとりあえず、ケンタウロスの出現ポイントへ向かうしかない。


 ケンタウロスの出現ポイントは、島の中央で集落からだと歩いて約一時間の場所にある。


 街道沿いを歩いていた私の視界の遥か先。遠視を使って漸く見えるぐらいの距離に密林の中にぽっかりと穴が空いた空間が見えた。

 そこには、太陽の陽を浴びて馬の下半身に人間の上半身、天パの髪を潮風に靡かせ右手で木の実を齧るケンタウロスの姿が映るもクエストの表示は無い。


 このままケンタウロスを狩ってもいいが、あれを狩ったところでクエストは進まない上に、ドロップはクソマズイ。それに私とは非常に相性が悪いボスだ。


 近接を得意とする私の戦い方は、一対一になるように周囲の環境をデバフを使い作るのが基本。けれど、ケンタウロスの居る場所でそれを作るのは非常に難しい。


 善悪のように通路や壁がなく周りが開けてひらけていると言うのもあるが、戦いの最中ケンタウロスがそのHPの減り具合によって、手下であるヴェロキラプトル――一定の時間経てば自爆するモブを何度も呼び出すからだ。


 そのことを踏まえてケンタウロスを狩るのは無しだと考えた。

 ではどうするか……アテも無くウロウロとこの島を歩き回るよりは、一度落ちてクエストを調べ直した方が早いと思考した私は、集落に戻りログアウトすることを決断する。


[[ティタ] 船まだだよね?]

[[白聖] 卵欲しいw]

[[キヨシ] 定期船なついわーw]

[[黒龍] ていうかなんで俺らまで?w]

[[†元親†] 太古で無双しちゃうんだぜ~w]

[[宮様] renのお手伝いしてあげましょうよw]

[[さゆたん] 船襲われないといいでしゅねw]

[[ヒガキ] 太古の孤島はじめてです]

[[ミツルギ] 卵も欲しいっすねw]

[[黒龍] renの手伝いねぇ……必要とは思えねーw]

[[宗乃助] 卵も必要でござる]

[[ゼン] 太古の孤島って恐竜なんだよね?]

[[さゆたん] ゼンとヒガキのLv上げには持って来いでしゅw]

[[大次郎先生] チカ、ケンタには気をつけてな?]

[[鉄男] チカvsケンタウロスか?w]

[[キヨシ] クラハンだぜえええw]


 集落に向かい歩く私の耳に、会話が聞こえ音量を少しだけあげればクラメンが船に乗ってこちらに向かっている事がわかった。


 クラチャで言っている卵とは、恐竜の卵の事を差す。卵の殻は採取ではなく、この太古の孤島に生息する恐竜を狩ることでアイテムとしてドロップする。

 卵の殻は、研磨剤の材料のひとつで、それを粉末にしてゲイザーの体液、光る草と言う草を10:2:5の配分で合わせれば研磨剤ができる。但し、薬師の代行をできるものがと付くけれど……。


 クラハンをすることは賛成だし、ゼンさん、ヒガキさん、ミツルギさんのLv上げをするのも良いと思う。けれど、クエストは進まなそうだ。

 どうせ、チカが暴走し無双といいつつタゲを引きまくり処理しきれずにこちらに戻って来る。それを全員でふざけんなーと言いながら、処理をする状態になるだろう。


 そうなれば、クエストどころではなくなる気がする。

 メンバーが来るまでにクエストを終わらせておく必要が出てきたと思い至った私は、集落に向け猛然とダッシュを開始する。


 行きの半分の時間で集落に到着すると同時に宿屋へ駆け込み、クラチャで少しログアウトすると伝え急ぎログアウトボタンをタップした。


 リアルに戻り、ウェブで『 鑑定 代行 骨』と打ち込み検索をかければすぐにその場所は見つかった。

 クエスト用の骨の出現場所は、島の集落から更に西へ行った崖の上にあるらしい。骨の画像と一緒に貼り付けられたSSをを頭に入れ、病ゲーへと再びログインする。


 ログインしてクラチャに戻った事を伝えつつ、定期船の出向時間をSSで確認すれば、クラメンが到着するまでの残り時間は後2時間半だった。

 これなら余裕で間に合うだろう。


 時間の確認を終え、気分的に落ち着いたところで、集落から西の崖へ向かい歩きはじめた。


 どうやら島の西には、モブが湧いていないらしい。集落からすぐの場所には畑と思われる棚田のようなものがあり、どこか懐かしい田舎の風景があった。

 その風景を眺めつつのんびりと歩く事25分。漸く、断崖絶壁の崖の上に到着した私は、周囲を見回しクエスト表示を探す。


 黄緑色のクエスト表示視界の右端に捕えそちらに歩きながら、焦げ茶色の岩肌をした崖の上の風景を見つめていた私の脳裏に聞き覚えのある音楽と、見知ったメンバーがあるシーンを再現した映像が流れる。

 

「ふ、ふ、ふーん。ふ、ふ、ふーん」


 鼻歌でその曲を歌いながら、探偵(先生)に追い詰められた犯人(チカとキヨシ)を思い浮かべてしまい凄くリアルな映像に思わずクスっと笑った。


 クエスト表示がされた骨を手にとり、それをアイテムボックスに仕舞う。骨が何の骨かを知るため集落へ向けきびすを返した――。

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