第122話 最強は夢想する②

 ハウスに戻り自室に入ると、そこには既にシロがソファーに座り寛いでいた。

 さっきのチャットで、非常に言い難そうにしていたことから、何かあったのかと心配していたのに……騙された気分だ。


「おけーり」

「ただ」


 挨拶を交わして、シロと対面になるようソファーに座り話を聞く。


「で? 何?」

「あーあのさ、俺の知り合いか?

 ちょっと微妙な奴を一人加入させたいと思ってなw」

「職は?」

「えっとな……三次職のカンストで、盾なんだけど……」

「宮ネェと先生呼ぶから待ってw 一存じゃ決められないと思う」

「わかった」


 クラン加入に関しては全て、先生と宮ネェに丸投げ状態である私が、微妙な知り合いだと言うシロ相手を独断で加入させる訳にはいかない。

 と言う、たてまえの基二人をクラチャで呼び出した。


 自室に居たらしい二人が私の部屋に到着し席に着くと同時に、飲み物は何がいいかと聞けば全員が揃って「ミックスジュース」と言った。

 もう二度と出すつもりの無かったミックスジュースを取り出し、笑顔で目の前に置いてやる。


 無言で視線が絡み見つめ合い、そっと三人がミックスジュースを手に取るとアイテムボックスに仕舞った。


「チッ」


 舌打ちした私に、溜息をついた先生が四人分のコーヒーを取り出しテーブルに置くと宮ネェが、バームロールと言うお菓子をテーブルに置く。


「ここの美味しいのよ」

「へ~。そうなんだw」

「やっぱ、ヒガキの入れたコーヒー美味いw」

 

 なかった事にされたミックスジュースが可哀そうだ。まぁ、私も飲まないけど……。


 宮ネェが美味しいと言うバームロールを摘み口にすれば、甘酸っぱいベリージャムがふんわりとした甘めのスポンジに合っていて本当に美味しかった。


 少しだけ喉が渇く感じを覚え、先生が出したコーヒーにミルクを入れカフェオレにして飲飲んだ。先生が言うようにヒガキさんの入れたコーヒーは本当に美味しい。

 自然と一息ついたような心地になるほど、ほっとする香りを味わい話の続きをシロに促した。


「で、さっきの話の続きだけど、加入希望してきた

 三次職カンストの盾について話して」

「うん。そのな……そいつ、空気読めないんだよ。

 なんつったらいいかなぁ~。良い奴なんだけど、正義感がやたら強くて……

 ”である”って語尾に必ずつく奴で……」

「その人、ってあの人?」

「あー。もしかして、テオドガルラ?」

「あぁ、居たわねぇ~w さゆたんの天敵w」


 名前が出てこない私の代わりに、先生が名前を言えば宮ネェがさゆたんの天敵と笑った。それに苦笑いしながら、頷いたシロの様子から間違いないと判断する。


 テオドガルラさんは、以前のクランで仮加入していた人で、ひと月もしないうちに脱退の理由すら言わず抜けた人だ。


 さゆたんが良く絡んでいたし、一緒に狩りに行ったりして面倒を見ていただけあって、非常に優秀で即戦力としては優良物件ではある。

 けれども、空気が読めないのに正義感だけは強く……面倒な性格の人だった。


 彼が抜けた後、さゆたんがマジクソだと本気でチャットに打ち込んでいた事から二人の間に何かあったのだろうと私は考えていた。


「本人が俺に密談送って来たんだけど、入りたいらしいよ?」

「さゆたんに世話になってたのに、何にも言わず抜けた子でしょ?」

「ん~。難しいわねぇ~?」

「そこなんだよ……とりあえず、先生、宮ネェ、renに相談するつって

 今待って貰ってるから、回答して欲しいんだけどw」


 正直な話ここで、さゆたんにまた話を振って決めて貰うのもありだろうが、嫌な思いをさせてしまう可能性もある事から、今回は話をせずこちらで即決する。


「無理。断って?w」

「そうね。今回は断りましょう」

「だね。正直クラン内でもめる可能性ある人間を入れるのは止めよう」

「だよなー。そう言うとは思ったけどさ……はぁ、メンドクサイ」


 さゆたんが良いと言ったとしても、以前理由も告げづ抜けたと言う過去がある。運営する側としてはやはり抜けるならそれなりに理由を伝えて貰いたい。

 少なからず理由を伝えて貰えれば改善することもできるのだから……。ま、今更言われた所で意味は無いけど。


「じゃぁ、話しは終わりでいい?」

「あぁ、いいぞーw」


 よし、話しは終わった。さくっとヘパイストスの火山に行ってこよう。イソイソと部屋を後にする私を先生たちは不思議そうな顔で見送る。

 まぁ、何かあったらクラチャで知らせてくれるだろうとクラチャのタブを開いたまま、ポータルを使い、ドワーフの生まれ故郷であるヘパイストスへとやって来た。


 流石ドワーフの生まれ故郷と言うべきか、少しだけ他の街より低いと感じる煉瓦造りの街並みに、煙突から上がる煙の柱。

 街の至る所に、炭の元となる薪が積み重なり置かれている。そんな街から見える火山が今回私が目指すイフリートと呼ばれる火山だ。


 イフリート火山は勿論狩り場として設定されている山で、常時デバフに火傷がつく。

 出てくるモブは火属性攻撃が得意なゴーレムやサラマンダーで、中ボス的存在と言えばクルアーン。

 全身に炎を纏った人型ではあるものの、手足が異常に長く尻尾を持つ魔人だと言われている。


 実際に見たのは、数回で周期で沸く訳ではないため出会ったら狩る程度のボスだ。毎回食べたいと思うほど強くも無いし、ドロップも美味しく無い。

 山に向かいながら、イフリート火山についての復讐を終えて足を踏み入れた。


 火山と言う事で、耐火のバフであるプロテクト オブ カリエンテーードラマス専用のバフ。その身をカリエンテの鱗が包みこみ炎に関する全てのデバフを無効化する――を入れておく。


 杖を片手に、博士に見せて貰った石のSSを元にその石を探す。石を見つけたらそれをヘパイストスの街中にいるNPCに持って行って何かを確認すれば正解が分かると言う仕組みだ。


 地面を見ながら似通った石を探し始めて20分。

 この狩り場は人気が無いのか、モブが良く湧くし良く釣れる……面倒に思いながらも、それを魔法で処理しながら気長に探していた私をティタがクラチャで呼ぶ。


[[宮様] そう言えば、ミツルギと鉄男部屋の内装終わったの?]

[[大次郎先生] そうだった。部屋で思い出したけど

       代行出来る人はそのマークの看板下げておいてね?]

[[ミツルギ] はい。内装おわったっすよ~]

[[鉄男] 無事終わった~。さんきゅ~w]

[[ティタ] ren~。いる~?]

[[ヒガキ] 看板って、あのバンキングサインでいいんですか?]

[[ミツルギ] 代行っすか? 俺も投具は持ってるっすよw]

[[ren] ?]

[[宮様] バンキングサインってどんなのなの?]

[[大次郎先生] ミツルギも代行やれるなら、道具揃えようw]

[[ゼン] 僕も何かしたいけど……うーん]

[[ティタ] 双剣制作図って、ヘパイストスだよね?]

[[キヨシ] バンキングサインってヨーロッパ風の看板だぜw]

[[†元親†] 俺は薬局やる~w]

[[ren] 双剣は、NPCが違う。ドドイル探してみて]

[[ヒガキ] キヨシさんの言うものですね]


 どうやら、強化に成功したらしく双剣の制作図を探していたようだった。

 二刀はドルアスさんだが、双剣はドドイルさんで名前が似ているその二人を間違えるプレイヤーも多い。


 その事に思い至り一応間違えているのではないかと名前を打ち込んだ。流石鍛冶の神であるヘパイストスと言うべきだろうか、ここには武器の種類、防具の部類ごとに制作図を売ってくれるNPCがいる。


 看板か……クラチャで上がっていた看板の話に少しだけ足を止め思考する。

 正直な話、製本の代行をクラメンに対してしたいかと言われれば否だ。良いように使われた挙句、ただ同然の格安料金もしくは借金でと言う嵌めになりかねない。


 自分の稼ぎ以外の代行をするつもりはないけれど、ヒガキさんの言うバンキングサインと言う看板が非常に気になった。

 キヨシ曰くヨーロッパ風の看板らしいが、私はそれを知らない。もし気に入れば看板だけはつけてもいいかもしれない。

 そう考えて、思考を止めクエストを完了させるべく石探しに戻った――。

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