第123話 最強は夢想する③

 石を探していた私の視界の右端に、ギリギリ見えるかどうかと言った大きさでクエストと書かれた黄緑の矢印の表示が見えた。

 急いで山を下りその矢印が注す場所を見てみれば、どうみても私が探していた石だ。


 以前やった時には無かった仕様に驚きながらも、周囲を見回しその採掘場所場所を確認すれば、なんとも微妙な気分になった。

 モブを狩る必要すらない……と言うより、狩り場にすらかかっていない道のすぐ脇だったからだ。


 冷静になって考えてみればおかしな話である。

 二次職や一次職の救済目的で作られた代行のクエストが、三次職の狩り場内で探し物をするなんて事になるはずがない。そう思い至れば、今回の行動は全て私の勉強不足と言うべきことだろう。


 反省しつつも、代行のクエストアイテムが表示されている件について考える。

 クエスト表示っていつからされたのかな? これは皆にも教えてあげるべきなんじゃないか? と考え、早速知らないであろう皆にクラチャで報告する。


[[ティタ] 出来た! レーヴァティン×オリハルコンソード]

[[ren] 聞いて。代行のクエストアイテム。

    クエストって表示される!]

[[ヒガキ] じゃぁ、宮さんの分も作りますねw]

[[宗乃助] おぉ! おめでござるよティタ+いくつでござるか?w]

[[大次郎先生] オメティタ。renそれ大分前から表示されてたw]

[[ティタ] +19! 俺頑張ったw

     ren> それ知ってる~w]

[[白聖] オメディタw]

[[キヨシ] おめでぃたーw]

[[ren] おめティタ。マジ?]

[[†元親†] オメディタ……オメデトウ……オメデタ?]

[[宮様] おめでとぅw ren> 知ってるわよ~w]


 折角報告したにも関わらず、皆既に知っていたらしい。大分前に代行の修業して以来代行について触れていなかった私だけが知らなかったらしい。 

 アップデートの内容は、しっかり書いてよ。そう今回何も悪くは無い運営に毒づき、発見した石を手に取ると帰還の護符を使う。


 街に戻り、石の名前を聞くために採掘をしていそうなNPCを探す……ヘパイストスの街の中を歩き回り、入れるNPCの家や店を全て虱潰し(しらみつぶし)にしながら、ツルハシを担いだもしくは、持っているドワーフの姿を探した。


 ようやく探し当てたそのドワーフは、無愛想な顔で、酒場のカウンターに座り、浮いた足元にはかなり年季の入ったツルハシを置き火酒を煽っている。


 見つけた! そう思いながらとりあえず、隣に座りそのドワーフのピントさんに話しかければウィンドウが開き、選択項目が出た。


 仕事について、酒をおごる、酒をおごって貰う。石を見せる。と言った感じで出た選択項目の中から、石を見せるをタップした。


 が……タップしたにも関わらず、何故か仕事の愚痴を聞かされた。

 ちょっ! 愚痴じゃなくて……石の名前教えて?

 

 私の選択が間違ったのかともう一度、石を見せるを凝視しながらタップした。けれど、このピントさん相当ストレスが溜まっているのか愚痴しか言わない。


 その後数十回、同じような愚痴を永遠とタップするたび聞かされ……ダメだこいつと立ちあがり扉へと向かう私の横をプレイヤーが通り過ぎる。

 なんとなく視線で追ったプレイヤーは、私と同じように隣に座りピントに話しかけた。


 彼が座って直に店員であろうドワーフ娘が、酒を並々注いだ木製のビアジョッキをピントの前に置き立ち去るとピントはそれをクィーと飲み干し上機嫌になった。

 そして、プレイヤーが差し出した石を手に取り何かを話しをするとプレイヤーは立ちあがり店を出て行く。


 ま、まさか……酒か? 酒を奢らないと永遠と愚痴を聞かされるだけのクエストなのか? 罠すぐ(ぎ)る……。


 まさかねと疑いながら、ピントに話しかけ今度は酒を奢るをタップしてみた。

 するとさっきと同じ様にドワーフ娘が現れ、ピントの目の前にビアジョッキが置かれる。それと同時に、チャリンとお金が落ちた音がなり私のアイテムボックス内のゼルが7000減った。


 ビアジョッキを美味しそうに喉を鳴らし飲んだピントに再び話しかけ、石を見せるをタップすれば、今度はしっかりと石について上機嫌に語ってくれた。


【 ほぅー美味い! やっぱりこの酒が一番美味いな。

  ふむ。石か……これはっ、これは”火のゴーレムの核”だな。

  これは、工房なんかで火を起こすのに使うんだ。 】


 そう言うと、石を私に返しまた酒を煽る――。

 空になったビアジョッキを見つめるピント。

 俯いた姿が何とも言えない哀愁を漂わせ、つい絆されお礼代わりになんとなくもう一杯酒を奢ってしまった。


 少しだけ良い事をした気分でポータルに向かいながら、視界に表示される時計を見ればもう少しでボスタイムと言う時間になっている。


 これで鑑定代行のクエスト残りは一つ……太古の孤島に向かうか、ボスに行くか……。

 ボスは行きたいだけど、善悪のボス行ってから、船で移動するのもだるい……やっぱ、このまま島に行くって、今日中にクエスト終わらせてしまいたい。

 

 脳内でボスに行くか、このまま島に向かうかを悩んで、金より後々のだるさを取り覗く事を優先する。

 その結果、このまま島に向かう事にした。


 ポータルに到着して【 ミューズ 】に移動する。そこから、徒歩でテティスの船着き場を目指す。

 SSで取っておいた船の時間まで、約1時間ぐらいある。急ぐ必要も無いだろうなんて考えながら歩いている私のBGMは今日もクラチャだ。


[[ヒガキ] こんな感じでどうですか?]

[[大次郎先生] どうせ買うならこっちの方がいいね]

[[宮様] あら素敵!]

[[ミツルギ] それ、結構な値段っすよ?w]

[[キヨシ] おー! カッコイイw]

[[白聖] 腹減ったw]

[[さゆたん] ただいまでしゅw]

[[宗乃助] その看板いいでござるなw]

[[†元親†] ヒガキそれさ、俺にも作ってw]


 ヒガキさん手造りの看板が出来あがったらしい。実物は見ていないけど、宮ネェが素敵と言う暮らしだし良いものなのだろう。

 先生はどうやらミツルギさんの代行用の道具を一緒に買いに行っている様子。結構な値段と言う言葉に、クラン費が底をついてそうな気がした。


 ま、この間のPKで装備品落ちたけど……ゴミ見たいな値段のものばっかりだったし、正直なところ、このままでは破産しかねないのではないだろうか? などと考えながらも足は、テティスに向かう。


[[黒龍] ボス]

[[ティタ] んー。属性なんにしようかなぁ~]

[[ゼン] 裁縫師の代行とろうと思います]

[[宗乃助] ボス行くでござるよ]

[[鉄男] いくw]

[[キヨシ] 金の時間だーw]

[[†元親†] 俺もいくー!]

[[ren] ボス。パス]

[[さゆたん] 参加でしゅw]

[[宮様] 行くわ~w 裁縫師マジ大変よ?]

[[ミツルギ] 参加するっすw]

[[大次郎先生] よし。こんなものかな? 他に居るものあったらいつでも言ってw]

[[黒龍] renこねーの? 珍しいw]

[[ゼン] 被り過ぎるのもどうかと思うし、雑巾ぐらいは縫えるのでw]

[[†元親†] ボスだひゃっほいw]

[[ren] うん。今から太古行くから行かない]


 黒の合図で一気に話題は、ボスに流れた。

 そんな中裁縫師の代行をやると決めたらしいゼンさんに途中で断念した経験のある宮ネェが本当に大変なのだと伝える。

 裁縫は、私の記憶が確かであれば……採取、織師、紡ぎ師だったはずの三つの代行習得が必要となる代行である。


 その代行修行にたどりつくまでがしんどいんだよ? そう脳内で突っ込みを入れつつようやく辿りついたテティスの船着き場。

 定期船の出向まで、残り45分ほど……このままここで船の到着を待ちながら、取引所でも見ようと取引所のマークをタップして開いた――。


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