第103話 クランハウス②

 ティタの部屋を後にした私は、他のメンバーが未だ呼ばないことから一階へ戻った。

 リビング・ダイニングの横、階段側にある部屋の扉を開き見て、その広さと日当たりの良さ、庭を見渡せる窓の位置などからそこを、会議室に設定する。

 使うことはないだろうな……と正直な感想を思い描きながら、部屋を後に逆の扉へと向かう。


 会議室側とは違い、午前中は日が入りそうな作りの出窓。その窓が気にったのでここを私室にする。少し広いがまぁ、いいだろう。

 部屋を自分の部屋に設定したところで、宮ネェとさゆたんからお呼びが掛る。

 

[[ren] さゆたん少し待ってて]

[[宮様] 来たわね~wここよ~!]

[[さゆたん] いいでしゅよ~w]


 二人が同時に呼んだため、先にクラチャで声をあげた宮ネェを優先した。

 宮ネェが選んだ部屋は、三階にある黒部屋の隣。

 南向きのテラスが付いた部屋だ。この部屋は続き部屋ではないものの、広さは今までで一番広い。


 各部屋の広さは自由に縮小、拡張できるのだが……各自の居室となる部屋については、権限を持つものが部屋の広さの二倍までの広さ、高さであれば自由に変更できる仕様になっている。


 例えばだが、10畳ほどの広さから20畳までなら拡張することができるのだ。

 但し、部屋数は一個のまま変更はできない。

 その為もう一部屋欲しい時は、その都度、全権限を持つマスターに要相談となる。


 瞳を輝かせた宮ネェに見守られながら、壁に設置されたタッチパネルを操作して、権限を与える。


[[宮様] ありがとう~♪]

[[ren] k]


 余程楽しみだったのか権限を与えたと伝えるよりも早く、宮ネェが部屋の内装を変更し始めていた。


 窓に取り付けられたグレーから白へグラデーションしているレースのカーテン、更にグレーの厚手の遮光カーテンが取り付けられていた。


 内装を変更する際、現実世界と違いわざわざ脚立などを用意してやる訳ではない。

 予めアイテムボックス内に室内用の家具や小物などを入れておき、室内でアイテムボックス内のアイテムをタップする。

 すると、室内を縮小したようなウィンドウが表示され、何処に置くかの指定ができるのだ。


[[さゆたん] こっちでしゅよ~]


 二階ティタの二個隣の角部屋の扉から顔を出したさゆたんが、クラチャを使い私を手招きしながら呼ぶ。


[[ren] お待たせ]

[[さゆたん] いいでしゅよw]

[[ゼン] マスター。終わったらお願いします]

[[ren] ゼンさん> k]


 さゆたんの部屋は、意外とこじんまりとした感じだ。

 私の選んだ私室と変わらない広さのそこは角部屋らしく、L字型に窓が配置されているため日当たりは本当に良さそうだった。

 次が待っているため、さっそく壁に取り付けられたタッチパネルを操作して、権限をさゆたんに与える。

 

[[ren] 終わり]

[[さゆたん] ありでしゅよ~w]


 部屋の扉を開き退室する旨を伝える為、さゆたんの方を振り向いた私の視界に巨大な女の娘のSSが映った。

 まじかぁ……うわぁ……。


 可愛いぞ、うちの子マジ可愛い! とひとり褒めそやすさゆたんの姿に、ハッとする。

 そう、これは見てはいけないものだ。そう直感的に思った。そして、身体ごと視線を扉の方へ戻し、音を立てずそっと部屋を後にした。


 部屋の扉すら音を立てずに閉めていた私を見つけたゼンさんが、元気良く声をあげ笑顔を見せると手を振る。

 その笑顔に癒された気分になった私は、さっきの嫌な光景を脳内から弾き飛ばした。

 見なかったことにしたと言うべきなのかもしれない……。


[[ゼン] マスター。ここにしましたー!]

[[ren] うぃ]


 ゼンさんは、階段正面にある部屋を選んでいた。

 クランハウス色々を知っているかと聞いた私にゼンさんは知らないと答えた。そうなると多分だが、ヒガキさんも知らないはずだ。


 未だ部屋が決まっていない先生ではなく、内装をしているはずの宮ネェにクランハウスのあれこれの説明をクラチャで頼むと壁のタッチパネルを操作して、権限をゼンさんに与えた。


[[宮様] ヒガキは部屋決まったのかしら?]

[[ren] まだ]

[[キヨシ] ren~! 決まったぜ!]

[[大次郎先生] 他に、補助金受け取ってない奴いる?]

[[宮様] そう。じゃぁ二人共決まったら部屋で説明しましょうかw]

[[ティタ] ねね。庭にさ~、畑作ろ!]

[[白聖] 先生> 貰った。 ティタ> 誰が耕すんだよw]

[[ヒガキ] はい]

[[ティタ] 畑やればご飯美味しいいのできるかもじゃん?w]

[[ゼン] お願いしますw]

[[白聖] 誰が作るんだよw]

 

 キヨシクラチャで呼ばれ、言う通りに進めば庭に出た。

 あれ? 部屋の設定するはずなのに……そう思いながら進んだ庭の隅の方にキヨシがいい笑顔で立っている。

 

[[キヨシ] ここにしたぜー!]

[[ren] は?]


 キヨシが指示した先は、数本の木が密集している、ただの庭で……。

 木の幹にロープの様な何かで括りつけられた布が張られていた。

 まるで、サバゲーのテントの様な状態のそれは明らかに野営用の迷彩柄で作られている……。


「えっと……ここ設定要らない。ていうかベット置ける?」

「んー。ほれw」


 白チャでキヨシに設定する必要が無い事を伝え、ベットが置けるのかと聞けばキヨシは少し考え布を捲る。

 そこには、藁ではなく雑草を引きちぎり重ねた物の上に、布を乗せただけのベットと呼ぶには余りにも酷い物が置かれていた。


「ふふーん。いいだろー! この迷彩柄の布だけで80Mもしたんだぜーw」


 バカだバカだとは思っていたが……本物なのかもしれない。

 布に80M使うぐらいならベット買えよ! 本気で憤りを覚えつつ、彼がベットと呼ぶ雑草の塊を見ながら確認した。


「……これ、寝てみた?」

「いいやーw 後の楽しみにしてる~w」

「……寝てみて」

「え~! どうしよっかなぁーw」

「いいから、寝て? で、ログアウトが表示されてるか見て?」

「んな、怒るなよ~w 大丈夫だって~!」


 なんでこう言う時だけ後回しにするんだ! 怒るにきまってるでしょ? そう言いそうになるもぐっと堪え我慢する。

 折角後のお楽しみにしてたのにと愚痴を零したキヨシがベットと言う名の草に横になる。

 結果、言わずもかな……当然ログアウトの表示は出なかった。


[[†元親†] 俺は天才だ~! 実験室できたぁぁぁw]

[[黒龍] なぁ……チカ。聞いていいか?]

[[†元親†] なんだー?]

[[黒龍] お前……どこで寝んの?]

[[宗乃助] ren。決まったでござる]

[[†元親†] あ……]


 キヨシのアフォさ加減に苦笑いを浮かべるしかない私の視線が、あるチャットで止まる……ハッとなり慌ててクラチャで問いただした。


[[黒龍] ダメだこいつもう、お前宿屋で寝ろよ!]

[[ren] チカ! 補助金使ったの?]

[[†元親†] だって……宿屋は嫌だ―!]

[[大次郎先生] バカ……]

[[ティタ] え? ベット買わなかったの?w]

[[ren] あ……ごめん、もういいや]

[[宮様] ren……きっちり全額使ったらしいわよw]

[[ren] チカ。キヅナのベットを後でクラン倉庫に入れる]


 そう、私が慌てた理由は補助金を使い内装をしたのかどうか……だ。確認するまでも無く、黒たちのチャットで目の前が真っ暗になった。

 あぁ……なんで、ふたりして……はぁ~。


 本日何度目か分からない溜息を吐きだし、とりあえずチカの件を片づける。

 その後、キヨシに残りの御金は?と聞けば、テントを構成する紐やベットのシーツの布に使ってしまったとまるで、ある金融会社のCMの犬の如き瞳で自白した。


「キヨシ……ハウスの中で部屋探して、ここはそのまま使っていいから」

「でも……」

「ベットは、卑弥呼が置いていったのあるからそれで我慢して?

 後で、クラン倉庫に入れる」

「うん。ありがとうren」

「秘密基地作りたいなら作っていいから、部屋はハウスの中にして?」

「うん!」


 小学生じゃないんだから、いい加減団体行動する時ぐらいは考えて行動することを覚えて欲しい。と言うのが私の本音だ。

 これ以上クラン費からの出費を避ける為、元メンバーが置いて行ったベットを入れておくと伝えた。

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