クランハウス

第102話 クランハウス①

 ポータルで【 ヘラ 】に到着したところで、クラメンに囲まれた。

 早く行こうと急かす、キヨシとチカ。言葉にはしないがソワソワしている、ゼンさんヒガキさん、先生、ティタ。

 いつも通り「行きましょうか」と言う宮ネェの声に同意して頷く。

 私が購入したクランハウスは、ヘラのポータルから東の住民区に入り、南一つ路地を曲がったところに建っていた。


[[さゆたん] 流石に広いでしゅね~]

[[宮様] そうね~。こんな広い所だとは思わなかったわ……]

[[大次郎先生] はぁ~。凄いなw]

[[白聖] まじか……でかっ]

[[キヨシ] 庭にジャングル作れるぜw]

[[黒龍] はー。すげー]

[[ゼン] ほえ~]

[[宗乃助] 城でござるな……]

[[ティタ] いくつ部屋あるのここ……]

[[†元親†] 地下基地作れそうだなwww]

[[ヒガキ] 本当にここですか……?]

 

 流石元4T物件、その見た目は他のNPC貴族が住むような、ブリテン島にあるウォーバーン修道院のようなみためのカントリー・ハウスそのものだった。


 白を基調にした青い屋根の三階建てで、初期ながらも豪華な見た目だった。ハウスに到着して外壁からその姿を呆然と眺め、皆がその見た目に少しバカっぽく口を開け言葉を漏らした。

 皆が驚くのも無理はない……買った本人でさえ驚いてる……よ。


 家をもう1件建てても庭が取れそうなほど広々とした噴水付きの庭園に、白い壁に青い屋根のシックながらも豪華な建物だ。

 感嘆するメンバーを引き攣れ、ハウスを囲むフェンスを辿り門に到着すればそこでもまた「うわ~」と各々が声を発した。


 入口の両開きの門中央には既に、所有クランであるBloodthirsty Fairyのクランマークが大きく彫り込まれている。

 花魁姿に蝶羽を付けた赤い刀身を持つ、血飛沫が付着したキヨシ特製のそれが彫られた門を開け中に入れば、玄関扉まで一瞬で移動する。

 こう言うところゲームだな……なんて思いつつ、焦げ茶色の分厚い木製扉を開けた。


[[ren] 好きに見て部屋決まったら呼んで]


 玄関ホールで立ち止まりソワソワするメンバーに向けクラチャで、自由行動を伝えれば皆瞳を輝かせ、散り散りに散って行いった。

 一階は基本、メンバー用と言うよりは全員が使用するスペースとなるため、部屋の広さを確認しながら部屋の名前を決めて行く。


 玄関からすぐ右の扉を開き室内を覗き込んだ。

 側面窓側と言えばいいだろうか? その全てがガラス張りの扉になっており、横にスライドさせて部屋全体を開けるようになっている。

 部屋の中央をカウンターテーブルが仕切り、壁際には大きめの暖炉が据え付けられていた。


「ここは……リビング、ダイニングだろうな……」

 独り言を零し、室内の壁にあるタッチパネルを操作して、雰囲気的にリビング・ダイニングと名前を付け、権限を全員に与える設定にした。


「家具は……誰かに丸投げしよう」

[[†元親†] ren! 決まった!]

[[大次郎先生] 嫌な予感が……]

[[ren] チカどこ?]

[[†元親†] 地下だー!]

[[ren] うぃ]


 一番手はチカだった。先生が感じたらしい嫌な予感を同様に感じつつ、チカの説明で彼が今いるらしい地下に移動する。

 登り用の階段の下にある扉を開くと地下へ降りる階段が現れる。

 指示されるままに階段を下った私の視界に、お世辞にも綺麗とは言い難い灰色の壁と床が映った。


[[†元親†] こっちだー!]


 質素な木の扉を開けたチカが顔を出し、手招きして私を呼ぶ。それに答えチカの部屋になる予定の部屋へと入った。

 ラノベとかに出てくる城の地下にある牢屋を監視するための人がいる部屋みたいな雰囲気だと思った。


「本気?」

「うん! マジこう言う部屋最高!」

「……そう」


 その部屋は広さ六畳ほどの薄汚れた暗い部屋で、窓もなければ石がむき出しと言った感じだった。本当にここがいいのか? と真面目に聞き返せば嬉々とした声音で最高とチカは言う。


 本人がいいのであれば……それでいいけど……。この部屋には、きっと私には理解できない何かがあるのだろうと思考を切り、壁にあるタッチパネルを操作して部屋の権限をチカに設定した。


[[ren] 終わった。後は好きにして]

[[†元親†] よっしゃー! 俺の部屋だ~w]

[[黒龍] ren。決まった]

[[ren] チカ> きのこは飼育しないでね? 黒> 行く]

[[宮様] きのこってwwww]

[[白聖] え? ここ、生えるのか?w]

[[†元親†] さぁ、家具用意しないとなー。地下基地!!]

[[キヨシ] 生えたら食おうぜ!w]

[[大次郎先生] 地下って設定できたの?w]


 元気に「あんがとなー」と手を振るチカに手を振り返し、黒の元へと向かう。

 黒が選んだのは、三階奥にあたる南側の部屋で、日当たりもいいしチカの部屋に比べれば広さは三倍ぐらいあるだろう。壁際にもう一つ扉があり、続き部屋になった二つを使うらしい。


 部屋の壁にあるタッチパネルを操作して、権限を黒に設定した。

 設定が終わったことを伝えれば、腕を組んだ黒がニヤニヤと笑いを浮かべ、さっそく家具を並べはじめた。


[[ren] 他はまだ?]

[[白聖] 頼む~]


 楽しそうに家具を並べる黒に「じゃ」と一言伝え部屋を後にする。

 シロの案内に従い階段を降りながら、先ほどの黒の様子に持ってる装備を一つずつディスプレイして、毎日磨きながら眺めてそうな気がした。

 あくまでも、私の妄想なのだが本当にしそうな気がしたのだ。


[[白聖] ここー]


 二階に降りてすぐの部屋の扉に寄りかかりながら待っていたシロに呼ばれる。待つ姿でさえイケメンだった。アバターが――。


 シロの選んだ部屋は、西向きで広さは黒と同じなのだが、階段から近く移動のしやすさだけで選んだようだ。

 室内の壁に備え付けのタッチパネルを操作して、シロに権限を与え部屋を後にしようとする私へシロが、言い難そうに問いかけた。


「内装の金ってさ……クラン資金で補助金でないの?」

「んー。どうだろ? 聞いてみる」

[[ren] 先生、宮ネェ]

[[大次郎先生] ん?]

[[宮様] 何~?]

[[ren] 部屋の内装の補助金出していい?]

[[大次郎先生] それはクラン資金でってこと?]

[[宮様] 内装って……部屋のってことよね?]

[[ren] y]

[[大次郎先生] んー。今うちの倉庫いくらあるんだっけ?]

[[宮様] 確か3G位だったかしらね?]

[[大次郎先生] それなら全員@100で]

[[宮様] そうね]

[[ren] わかった。宮ネェと先生が皆に配ってね?]

[[キヨシ] マジで?! 100M分配?]

[[黒龍] ありがてーw]

[[ティタ] 助かるw]

[[さゆたん] 貧乏……なのが湧いたでしゅw]

[[ヒガキ] え? 100Mも?]

[大次郎先生] k]

[[白聖] 借金王、精錬破産、強化破産?w]

[[宮様] k]

[[宗乃助] シロw 流石でござるw]

[[ゼン] いいんですか?]

[[黒龍] 黙れw精錬破産とか言うな?w]

[[ティタ] ちょっと、強化破産って俺の事?w

     ren> 決まった]


「@100で出すみたいだよ」とクラチャで話しを終えて直、シロに伝えれば「見えてたからw」と笑っていた。

 シロと同じ二階を選んだらしいティタの元へ向かいながら、シロの言葉に感謝する。今回シロが言われなければ、完全に補助金に関して失念していた。


 補助金を出す理由としては、家具類に関して趣向品と言う扱いとなる為、かなりの金額がかかってしまう事。

 クランハウスに部屋はあっても、ベットが無ければ宿屋へ向かうしかない。


 ベットの上で横になった状態でのみしかログアウトの表示が出ないこのゲームの仕様のせいで、必然的に部屋を持つ=ベットを購入せざるを得ない。


 けれど家具は趣向品、ベットもそれに含まれるため一台のベットを購入するだけで二次職ならメイン武器を購入できるぐらいの値段になってしまう。そのため補助金を出す必要があると言う訳だ。


 ひとり100Mと言えば相当な金額だとゼンさんとヒガキさんは言うが、100M程度の金額で買えるものと言えばベット、ソファー、ラグマットぐらいだろう。

 選んだ物によっては一つの家具でGが消えたり……などと言うこともあるらしい。


 装備よりも高いのが趣向品で、以前可愛らしい黒猫のぬいぐるみを見つけて買おうと値段を聞いたところ、一つで30Mと言われあまりの値段にそっとぬいぐるみを元の場所に戻し、店を出た事がある。

 それほどまでに趣向品である家具、小物、服などは高い。


「ここにしたんだ~」

「うぃ」


 ティタが選んだ部屋は、シロの部屋の斜め向かいにあたる北東向きの部屋だ。

 広さは、シロに比べ少し狭いものの部屋の奥にある壁にはレンガ造りの暖炉が設置されている。

 庭に突き出すように設置されたテラスもあり、ティタらしい選択の部屋のような気がした。


 ニコニコ笑うティタに見守られながら、壁際にあるタッチパネルを操作してティタに権限を与えた。

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