第96話 最強は覇者を志す㉘ PT戦@少数

 カサカサ、ズチャズチャと移動するたびに音が鳴る。

 本当に好きにはなれない場所だ……と思考しつつも進行方向をマップで確認する。


 マップ上でだが、北西方向にどうやらススキやカヤが無い少し開けた場所があるようだ。

 その方角に、ティタ、先生、ゼンさん、チカの四人のマーカーが見える。と言う事は四人は既にそこを決戦の地として考えていることになる。


 上空に30秒おきに打ち上がるディティクションを見ながら、マップ上で既に場所はバレテいるだろうがしゃがみ作戦をどうするかPTチャットで話し合う。


『ティタと先生を引き離さないとこっちに勝機は無さそうでござる』

『先生にDP入れて足止めしたら、renがティタとガチで』

『その間に、チカとゼン沈めるって感じか~w』

『renとティタのガチ勝負気になるでござるな!』

『面白そうではあるよなーw』

『ミナギルぜ~!』


 ティタとのガチ勝負ね……双剣と二刀の戦いか、お互い武器の本数は同じだがHPとスキルが明らかに違うんだけど? 私バッファーだし、前衛職じゃないよ? と言いそうなところだが、私の本音を言えば、ティタとのガチンコ勝負にワクワクしている。


 スキルは勿論向こうの方が多いだろう、そこをどう避け、いなすかがこの勝負のキーとなって来るだろう。

 あぁ、早くはじまらないかな……。


 想像するだけで楽しそうだ。

 そんな考えについつい緩む顔……唇をペロっと舐めシステムログで残り時間を確認している私の様子に、メンバーからはいつも通り、凶暴だとか魔王降臨だとか色々クラチャで言われるもののそんなもの今はどうでもいいことだと切り捨てる。


 ティタと殺り合える、それだけでいい――。


『カウントいくぞー』


 シロの声に、個別のバフを入れ直す。ボス狩り用の軽鎧からPK用の軽鎧に変更し、二刀はダメージを与える事でデバフがつく、キヨシ曰く血に飢えた刀身である+28 オニキリ×オニマルクニツナを選択した。

 

 いつもより長い秒数である、20秒前からカウントが始まる。

 たった今走り去った宗乃助が、真っ先に背後から切り込む。

 数秒後に、私が右前方より切り込みティタをひきつける。

 

 0と同時に先生とゼンさんの足を、別々の場所に位置取りした残り二人が隠れた状態で止める手はずとなっている。シロがDPで、キヨシがフリーザーだ。


 くれぐれも同じ位置に留まるなとだけ注意して、カウント15で私も走り出す。


『15……14……』

『グッドラック!』


 走りだす私へサムズアップ状態のキヨシが見送りがてら声援を送る。

 振り返りつつ片手を挙げて、向き直ると全速力で右に方向へ向かって走った。


『5……4……3……2……1……いけー!』


 宗乃助が背後から、ティタと先生、ゼンさんとチカを切り離すかのようにスキルを使う。それに合わせて動いたのはチカと先生だ。

 大槌を横へ振り抜く先生と、左前から斜めに宗乃助へ上段斬りを仕掛けるチカの反撃に軽く身体を捻る事で避ける宗乃助の顔が、見えた刹那本当に楽しいと言う顔をして笑っていた。


 そんな宗乃助を見つめ草から飛び出し、ティタへと斬りかかる。

 剣と剣がかち合い、金属の撃ち合う音が鳴り響いた。


「クス」

「そんな顔して、凄い楽しそうだね。ren」

「うん……マジで楽しい」


 鍔迫り合いをしながら、ティタと言葉を交わす。その間に、シロとキヨシの攻撃が始まったようだ。


 チカにがDPに掛ると直に対象をゼンさんに変更する。

 その攻撃は容赦なく雷を纏ったオリハルコン アローが突き刺さったかと思えば、後方からアイス ランスがその身体を打ち抜く。


 先生と一番距離があるゼンさんの背後に現れた宗乃助が、エフェクトを纏った短剣でゼンさんの身体を切り裂くと同時にクリティカル音が響いた。


「二次職相手に、えげつないなw」

「ティタでも同じようにするでしょ?」

「ま、そうだけどw」


 クリティカル音を聞いたティタがえげつないと言うが、ティタたちでも同じようにするだろうと確認すれば、ティタもまた楽しそうに笑い同意した。


 笑顔の中に殺気の様なものを感じ、攻撃が来ると直感的に思った。

 その直感を信じて、ティタの動きを観察する。左手の剣を握り直す仕草を見せたティタが刹那、左下から振り抜くように持ち上げた。

 死角を狙ったつもりなのだろう……だが、甘い。


 ティタの腹に蹴りを入れつつその遠心力でバク宙し剣を交わす。

 うめき声をあげながらも、次の攻撃を仕掛けるため剣を振り上げ走りよるティタを視界に入る。


「あっ!」突拍子もない声をあげた私の腕をティタが掴む。ぬかるんだ地面に着地するもツルっと足が滑り無様にこけそうになったところを助けて貰う。


[[大次郎先生] ティタそこ、助けちゃだめでしょwww]

[[白聖] 人良すぎだろwwwww]

[[宗乃助] 久しぶりに、面白いものが見れたでござるw]

[[†元親†] ティタらしいwww]

[[キヨシ] うははははwww]

[[ティタ] つい……仕方ないでしょ!]

[[ren] あり]


 締らないティタと私の戦いを遠目に見てらしい先生のクラチャを皮切りに戦いの最中だとは思えないほど、ほのぼのとしたチャットが流れる。

 パっと握っていた腕を放したティタが、余程恥ずかしかったのか赤く染めた顔を両手で隠しながら、仕方ないといい訳めいた事を言う。


 そんなティタにお礼を伝え肩をポンポンと叩くと少しだけ距離を取り構え直す。

 私の意図を組んだらしい彼は、フーと長く息を吐き出した。

 その表情を真剣なものに変え、仕切り直しと言わんばかりにクロスさせた剣からスキルを飛ばした。

 

 ×印で飛ぶ青銀色のエフェクトの刃が私へと迫る。

 このスキルは横に避けるだけではヒットしてしまう。と言う事で、右手の刀を突き刺し左へ飛ぶよう視線だけを向けつつ右後方へ飛び更にバックステップを踏む事で効果範囲を避ける。


 私が左へ視線を流したことで、そちらへ着地すると読んだらしいティタが左へと走る。がしかし、予想に反して右後方へ飛んだのを見て慌ててこちらへと向かって来る。

 ニヤっと笑いを浮かべ、刀のままブレス オブ アローを打ち込みダメージを与えた。


「ゼン終わり。次チカな」

「容赦無いとか言われてそうだよなーww」

「renもう少しティタと先生離して欲しいでござる」

「k」


 距離を取りたがっているように見せかけるため、ブレス オブ アローを再度打ち込みバックステップを踏む。

 これが指示通りなどとは流石に思って居ないだろう。

 先生からの距離は未だ、30メートルほど……ドワの鈍足だろうともこの距離ではまだ安心できない。


 もう少し下がりたいところだが、未だ刀でのダメージを負わせていないため、デバフが一切入っていない。HPPOTを飲まれれば直に回復してしまう。

 これではダメだとどうにかティタへ一撃を入れるべく、シロへティタに矢を放って欲しいと伝え二刀を握り直した。


「いくぞ」

「よろ」


 ティタの左後方から、その身体を狙いシロの矢が飛来する。

 PTチャットで知らせられたらしいティタが後ろを振り向き矢の位置を確認する刹那、左手に持つオニマルクニツナを無防備なティタの身体へ差し込んだ。

 

『ナイス。シロ』

『おう』

『今のは良い連携でござった!』

『俺たちもやるぜええええーw』


 PTチャットでお礼代わりに褒める。不意に、イケメン顔でサムズアップしているだろうシロの姿が脳裏を過った。


 悔しげに歪むティタの顔を眺めつつ、漸く倒すための形が整いつつあることにひとりほくそ笑む。

 これでいい……これでティタに出血のデバフが入った。

 少なからず回復するためにPOTを飲む数秒と言う時間を稼ぐ事ができる。その間に攻撃を入れる隙もできるだろう。


 さぁ、ここからが本番だ――。

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