第90話 最強は覇者を志す㉒ PT戦@少数

 二次職相手にやらかした二人を含め、今回の戦いで消耗したものが無い私たちは、補充も何もする必要が無い状況で街に戻り、即座にNPCを通してエントリーした。


[[大次郎先生] なるほどね……って、リア充って理由で抹殺ってw]

[[白聖] PT戦開始カウント始まってイチャつく奴らが悪い!]

[[ヒガキ] 自分も、出来る事なら殺りたい派ですw]

[[†元親†] 俺、今元カノがめんどいw]

[[宗乃助] シロの言う通りでござるよ]

[[さゆたん] 寂しい奴らでしゅ]

[[宮様] 同意したくないけど、今回はシロの意見に一票かしらね……]

[[黒龍] 良くやった二人共!]

[[キヨシ] なんか、皆が怖いよhhhhh]

[[ティタ] 本当に良い試合だったw]

[[ゼン] 僕も頑張らないとw]


 戦いたくてうずうずする私を余所に、クラチャではさっきのPT戦について賛否両論で会話が行われている。と言っても、圧倒的にリア充は死ネ派の人数の方が多いのだけど……。

 これで、リア充がクランに入ったらキヨシのように深夜背後に気をつけろとか言うのだろうか? などと考えている間に、次の試合までのカウントが始まった。


『次は作戦通りね? 破ったらカリエンテ使う』

『え? それ、俺らも含まれるの?』

『拙者たちにはプロテク使ってくれるはずでござるよ……ね?』

『ドラゴンのダメージ凄そうですよね~w』

『プロテク× 全員抹殺○』

『脅迫だー!』

『脅迫でござる……』

『うわー。楽しみですね~w』


 シロと宗乃助の言葉を否定してやり、脅迫だと言われようとも気にしない。

 もう既に私の中で、カリエンテとトニトゥールスは脅しの道具のようなものになっている。こうしないと言うこと聞かないメンバーが悪いのであって、私が悪い訳ではないと思いたいと切実に思っている。


 ゼンさんだけが、楽しみらしい……そうか、彼は未だドラゴンの攻撃を受けた事が無かったか……なら是非とも受けさせてあげたいと思考していた私の後頭部をシロが叩きはたき、両肩を宗乃助に握りつぶされる勢いで握られた。

 

 肩越しに見たニコニコ微笑む宗乃助の目が笑っていなかった。これは本気で止めろと言う合図だろうか? でも、負けないよ? 

 私も超いい笑顔で笑って返せば、遠巻きに見ていた周囲のプレイヤーたちが何故か数歩後退りした。


 最近やたらと声を掛けられたり、避けられたりするのだけれどなんで? とクラチャで聞こうとタブを開いた刹那カウントが0になり視界がブラックアウトする。

 戦いの場に移動したのだと理解し、今は戦いに集中しようと思考を立ち切った。


 視界に見えた景色は、このトーナメント戦が開始されて初めてであろう火山地帯だった。黒く変色した大小の岩が一帯に散らばり、所々には溶岩と思しき赤オレンジ色の川のようなものが流れている。


『ここデバフありっぽいなー』

『少し触ってみるでござるよ』


 溶岩が流れているということは、火系のデバフである熱傷ねっしょうがある可能性が高い。それならばプロテクト オブ カリエンテをバフに追加しなければ、20秒毎にHPが減ることになる。

 移動する宗乃助が、溶岩へと差し掛かった宗乃助のバーにデバフの表示が追加された。その場を直に離れ聖水を使いデバフを消した事を確認してバフをかけた。


 相手のPTの確認を忘れていたことを思い出し、バフが終わって視界右端にある名前と職を見る。今回は、盾、重ATK、回復、軽ATK の四名だった。

 名前は順に、フルスク、順平、霞ヶ関かすみがせき白虹はっこうとなっている。

 

『軟いのが居ない……暗殺者、大剣使いに盾か……キツイなw』

『行けそうなら回復先にやるべきでござろう』

『盾と大剣メインで、動く』

『先に、回復と軽ATK潰す方向でいこうか』

『承知』

『はい』


 相手の姿が見えないことからトランスパレンシーを入れようと思ったが、遠目にディティクションが打ち上がったエフェクトが見えた事から入れずに進む。

 相手まで残り30Mといったところで、大きな岩に隠れる。既に相手のマップにも私たちが居る場所は見えているはずだ。軽ATKの動きに視線を合わせ注意しつつ試合開始を待った。


『カウント』

『7……6……5……4……3……2……1……gogo』


 シロのカウントに合わせ、5秒前に宗乃助とゼンさんが左右に分かれ回り込むように走った。相手の盾と軽ATKが二人を視界に捕え、盾がゼンさんを追いかけて行ってしまった。


『ゼン。そのまま走ってろ~』

『多分直にこっちに戻って来るはずでござる。逃げ切ってくだされ!』


 PTチャでシロと宗乃助が追いかけられたゼンさんを励まし、回復へと向かう宗乃助に軽ATKと重ATKはそれを守るよう武器を構え警戒を強めた。


 残り3秒で、シロが後ろへと走り大岩から10メートルほど後方の岩の上へ登ると、軽ATKにダウン プルを打ち込むため弓を弾いた。


 goの合図で身を潜めていた岩を飛び出し、大剣装備順平の足元にバインド(+18)スロー レンジ(+5)を設置し発動させるも、バインドはレジられる。

 しかし、スローが無事に相手の動きを鈍らせた。


 順平へ向かっていた足を、白虹へと向けアーマー ブレイク(+25)を詠唱し発動させる。それと同時にシロのダウンプルが白虹の動きを止めた。

 最近耐性積んでる人多すぎる! と内心愚痴を零しながら、再度白虹へとアーマー ブレイク(+25)を詠唱発動させた。

 

 白虹の頭上に鎧が砕けるエフェクトが上がり、宗乃助とシロの二人から『ナイス~!』とチャットで褒められる。

 ナイスじゃない……それ、4回目……なんだよ。なんてことは絶対に言えないなと思考して、視線を向け無言で頷いておいた。


 その後、スローで動きが鈍っている順平にバインド(+18)を設置発動させること7回目、漸くバインドが仕事をする気になってくれたらしく順平を固めてくれた。

 が、回復がしっかりと仕事をこなしてくれたせいで、順平にかけたバインドが解除される……。

 

「チッ」

『シロ>回復優先。宗>軽ATK押さえて』

『k』

『了解でござる』


 私の勝手な考えではあるが、デバフ解除をしっかりできる回復はかなり上手い部類に入るだろう。

 今までPKやPKK、トーナメント戦で戦ってきた回復はそのほとんどが、ヒールにだけ重点を置きデバフの解除まで気が回らないからだ。


 このまま、回復を放置すればこちらのMP消費が高くなると考え、回復を優先排除するようPTチャで伝え、バインドが解除された重ATKの順平をその場に放置し回復を潰しに走った。


 宗乃助が白虹を抑えている間に、霞ヶ関をシロと潰す。サイレンス(+25)が入る範囲に到着したところで、詠唱を開始し試す。今日は、ほぼほぼレジられる日だろうと踏んでの行動だったのだが、以外にもあっさりと入ってしまった。


『シロ、宗の方手伝っていい』

『kk』


 サイレンスが入った事で、シロを宗乃助の方へと回し杖を掲げ詠唱して、ブレス オブ アローを霞ヶ関に叩き込み、杖を二刀に持ち替え左手の刀で右上段、肩から腰にかけ大きく振り抜き、勢いを殺さないよう右手の刀で腰から胸にかけ斬り付けた。

 一気にHPを半分まで減らし走り逃げ回ろうとする霞ヶ関をシロがダウン プルで足止めする。


『あり』

『おうw』


 シロの機転のおかげで相手に対し数十秒の余裕を貰う。折角なので +28オニキリ×オニマルクニツナを使いデバフを入れておく。

 スキルを使おうかとも思ったが、思いのほかデバフが効いているためこのまま二刀で斬り付けることにした。

 左右上下から迫る刀身を避ける事も出来ずただ、斬られ続けた霞ヶ関は右手の刀で腹部を切り裂いたところでHPが0となり崩れるように倒れると灰色となった。


 残り三人――。

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