第85話 最強は覇者を志す⑲ PT狩り@後始末

 キヨシとチカをPTに誘い二人と少しだけさっきの狩りについて話すことにした。今回やらかしたのは二人だが、やられた方よりやった方の方が気に病む事もあると考えたからだ。


 そんな私の考えを余所に落ち込んでいると思っていた二人は、まったく落ち込んでいなかった。

 話し終えた私は、過去の私にこう言ってやりたい……チカ、キヨシの二人は何処まで行ってもチカとキヨシだと。


『おー! renどうした~?』

『ぁ、もしかして心配してくれたりしたの?』

『……一応?』


 既にこの時点でPTを切ろうと思う程、二人の対応は明るく元気だ。自分の判断ミスであったことを痛感した瞬間だった。

 そりゃ、あれだけのこと言われてるんだし、凹んでるかなって……。はぁ、無駄な時間だった。


『そうだ、renに頼みあるんだよ!』

『そうそう』


 なんだろう? あまり良い予感はしないが……お金はもう貸さないぞ? と思いながら『何?』と聞けば二人は顔を見合わせニマっと笑う。


『狩りつれてけー!』

『俺も―!』

『理由は?』

『さゆに……装備買い戻しさせたいから?w』

『俺らのせいで消失しちゃったから?w』


 突然の申し出に理由を聞けば、至極まともだった! 草生えてるのは気になるものの二人がそれで気が晴れるのならば手伝っても良いかな? とは思った。

 が、キヨシとチカか……とカオスになりそうな予感がするのは気のせいだろうか?


『2Hぐらいなら?』

『マジ?』

『いやっほぉぉぉ~!』


 どこに行くかも決めていないのに、ベットから飛び降り扉へ向かおうとする二人の腕を掴み止め、何処へ行くのかを聞けば『さっきのとこ!』とダブルで帰って来た。


 二時間と言う制約をつけておいて良かった? かもしれないと脳内で自身を納得させ、走り去った二人の後を追う形で倉庫へと向かう。

 倉庫に着き、Mガムを補充していた私の肩を誰かが叩く。後ろを振り返り見れば、ちょうどいい引き役がいい笑顔で微笑んでいた。


 その笑顔に返すように微笑みを乗せて、PTチャットでキヨシとチカに5分だけ黙っててくれと頼み、強制参加させるべく、しつこく何度もPTへの招待送った。

 拒否されること五回目。漸く参加してくれた引き役が、怪しむ視線を私に投げかけならがらPTチャットで何? と聞いて来る。


『魔巣行こう。ティタ』

『え? 今から?』

『y。どうせまだ寝ないでしょ?』

『寝ないし、行くのはいいけど……? なんだろう凄く嫌な予感がするw』

『気のせい。準備して魔巣入口~集合』

『k』


 最近、クラメンの第六感? が凄く鋭くなってるような気がする……ティタにしても、黒にしてもいい塩梅で気付き回避しようとしてくる……何故だろう? 


 魔巣へのんびり歩き枯木が立ち並ぶどこか寂しげな風景を見ながら移動した。

 移動している間もキヨシ、チカは黙っていたせいかティタに気付かれることなく、魔巣入口に四人が集まる。


 キヨシとチカを見た刹那踵を返そうとするティタにキヨシとチカが走りより、両腕を各々が掴むと入口に引き摺るようにして連れて来た。

 ニコニコ微笑むチカとキヨシ。「騙した?」と言う死んだ魚の目をするティタに、首を傾げ「ん?」と返事を返せば、重く深い溜息を吐き出しどこか諦めた顔で「仕方ないか……」と呟いていた。


 入口でバフを開始する。今回引き役はティタに任せるとして 言いだしっぺであるチカには殴るなと伝え、回復するようする。更に、ダメ押しで回復しないならPOT代を後で請求するからね? とチャットで付け加えておいた。


 バフだけを入れ終え視線を向ければ渋々だがチカは頷いていた。それを確認してトランスパレンシーを入れると魔巣内部に進んだ。


 ティタを先頭に、キヨシ、チカ、私の順番で隊列を組み進んでいく。「てか、カンストしてから同じ場所に二回もPT組んでくるとは思わなかったよ」と言うティタの言葉に同意を示し、理由を説明すれば「二人とも頑張らないとね」となんともティタらしい励ましの言葉をかけていた。


『ていうか、さゆの靴っていくつだったの?w』

『さぁ?』

『不明』

『……え?』

『は? 普通まずそこ聞くべきじゃないの?』

『だって、さゆ直に落ちたじゃん? 聞く暇なかったんだよ~』

『聞こうとしたら、娘と寝るでしゅって落ちてった……から……』

『あぁ……』


 当然知っていると思っていたさゆたんの消失した靴がなんだったか? について話を聞けば、それすら判っていなかったと言う事実が発覚する。

 二人のいい訳を聞いた私は、倉庫から宿屋へ戻るさゆたんがスキップしてた姿を思い出した。


『そう言う事なら仕方が無いね』とティタが言ったところで、四階の狩り場に到着する。

 今回の狩り場はさっき使ったところよりも広く、モブの数は200~300体。

 巡回する痛いモブも弓で、部屋の中央を数分おきに通る場所だ。


『バフ』と一声かけ、バフをかけ直す。『半分ずつね』と言うティタに『k』とだけ返し弓の通過を確認し、トランスパレンシーをかける。引きに行くティタを見送り、ティタが入ると言っていた場所から1メートルほど離れた距離に設置型の魔法を配置した。


 この狩り場の狩りは、基本さっきと変わらない。手前側のモブを半分だけ引いたティタが戻り、その後ろを100~150体ほどの悪魔とも死体とも見て取れる一見、ゾンビのようなモブがズルズル手や身体、足を引き摺りついて来る。


 タイミングを計りつつ、ゲッター サークル スクロールを2秒ずつずらし5枚を使用する予定で準備しつつ、ティタ以外に個人バフを入れモブの先頭が、ティタまで1メートルに迫ったところで、1枚目を使用すると同時にバインド(+18)を発動させた。


 次々と押し寄せるモブにゲッター サークル スクロールを予定通り使いつつ、フレイム サークル(+20)、スロー レンジ(+5)、ショック ボルト(+19)、ポイズン クラウド(+20)の順に設置型の魔法を発動させる。


 設置型の魔法を全て発動させ、ティタからタゲを奪った状態になったところでティタが槍に持ち替え殴りはじめる。そこへ、個人バフを追加してやりキヨシに視線を向ければ、頷き範囲魔法を詠唱発動させた。


 ブレス オブ ドラゴンを詠唱発動させること2回、1枚目のゲッター サークル が檻のように連なったエフェクトを消滅させ効果を失う。


 その後2秒ごとにゲッター サークルの効果が消え5枚全てが効果を失ったところで、引いたモブが黄色い粒子となり消えていく。

 再度引きに行くタイミングを計るためマップに視線をむければ、巡回ではなくプレイヤーの表示が現れた。たまたま通りがかったらしいそのPTは、私たちのを無言で見つめている。


 怪しむ視線をそちらへ向けていた私へ、ティタが自分のフレだと伝えた。

 視界を遠視に切り替え、棒立ちするPTを見れば今日戦った柿PたちのPTだった。


『バルコニー渡った逆側使ってもいいか? って聞いてるけどいい?』

『いいぜ~!』

『ok!』

『k』

『伝えるね~』


 ティタと柿Pが、密談をする間棒立ちで待つのも勿体ないと考え、トランスパレンシーを入れマップで巡回が居ない事を確認して、残り半分を引きに行った。


 最奥に居るモブにギリギリ届く範囲で、ブレス オブ ドラゴン を詠唱発動させジグサグに走り逆サイドの端へと向かう。そこでもまた端に居るモブに当たるようブレス オブドラゴン を詠唱破棄で発動し、逃げ帰るよう元のティタたちの位置へと戻った。


 直に設置魔法、五種類を設置。チカとキヨシに逆サイドに移動するよう伝え二人へ攻撃が当たらない位置へとモブを引き寄せ、1枚目と同時にバインド(+18)を発動。以降1枚使うごとに設置魔法を発動させた。


 ブレス オブ ドラゴンを入れたところで、初めてチカからヒールを貰った。

 ただヒールを貰っただけ……当たり前のことなのに、なんでかはわからないけど感動する……。本人が良く言う”やればできる子”……だったんだと、ただのヒールで感動させられ、思わされてしまった。


 私の感動を余所に、モブの処理は進み先に倒したモブが湧く前に処理を終えた。

 その後、三時間――本当は二時間のつもりだったが、時計を見たら三時間経っていただけ。

 特に焦る事態になる事も、事故が起こる事も無く順調に狩りを行い帰還した。

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