第83話 最強は覇者を志す⑰ PT狩り

 リアル水分などの補給のため30分後に【 ネキュレネ 】のポータル傍で待ち合わせと言う事で一度落ちリアルへ戻り、諸々を済ませてゲームへログインする。

 土曜日と言う事もあり深夜近いこの時間帯でもまだまだプレイヤーが多くいるのを見ながら、4時間ほど狩りするつもりで必要な消耗品を用意する。

 

 課金ガチャと呼ばれるリアルPCを使った1回500円もするクジ引きが、この病みゲーにも存在する。

 私は引いた事は無いのだが、経験者のクラメンたちの話しによれば、ボーナス全部突っ込んでなおSSSランクと呼ばれる装備類は手に入らなかったらしい。


 そんなものポンポン出していたら病みゲーなんて名前はつかないだろうが……。そのガチャのゴミアイテムとして常に大量に売りにでているのが魔法の籠められたスクロールだ。ディティクションなどがこれに該当する。


 その中でもひと際安い1枚50ゼルのスクロールであるゲッター サークルが入ったスクロールを2000枚取引所で購入した。


 ゲッター サークルは、範囲狩りをソロで行う私にとって必要不可欠と思うほど重要なものだ。引いたモブをある一定の範囲内に集めその範囲内から一時的――正確には20秒ほどだが動けなくする魔法だ。


 モブが散らばらないと言う意味で有用なのだが、このゲームをやる他のプレイヤーにとってその効果はゴミでしかないのだろうと考える。

 そのおかげで安く買えるのでありがたいところだ……。


 他に必要な物は大量のPOTとマナポーションソフトキャンディと名付けられた本気でマズイガムだ。このマナポーションソフトキャンディ――またの名を、Mマゾガムと言う――は、30分間のみだが15/秒でMPが回復する。


 POTとの併用もできるため有益なものなのだが……いかんせん口に含んだ瞬間から、牛乳にゴーヤ、イカスミ、梅干しを入れたような味がそれぞれ主張しつつ口内へ広がり、ツーンとしたお酢っぽい酸味が鼻に抜けると言うゲテモノなので、正直食べたいものではない。


 初期のころこれを食べた過去のキヨシは、生ごみの匂いと味がする! と吐き出し泣きながら勘弁して下さいと土下座していた……。

 これでも初期に比べ大分マシになっている。

 大量に届いたプレイヤーからの嘆願により運営も見直したらしく、今では我慢できる程度になったと言える。


 それを倉庫から取り出し終えたところで、どうやら皆が戻りポータルへ到着したらしくクラチャが賑やかになった。


[[キヨシ] 狩りじゃぁぁ。金じゃぁぁぁ!]

[[ゼン] マスターとの狩り緊張する]

[[白聖] ゼル分配無しのが良くね?w]

[[大次郎先生] ゼン。緊張しなくて大丈夫。

       基本クラチャで話してればいいからw]

[[†元親†] 金分配しないの?!]

[[ヒガキ] 先生。それどういう意味ですか?]

[[宮様] クラン資金でもいいけど? 

    って! クラン資金なんでこんなに入ってるの?]

[[ティタ] クラン資金でもいいよー? 俺も]

[[黒龍] 精錬したいから金欲しい……]

[[大次郎先生] 本当だ。クラン資金何でいきなり増えたの?]

[[さゆたん] あたくちは、どっちでもいいでしゅよ~]

[[ren] クランハウス競売用だから使わないでね]

[[ゼン] 先生……意味がわからないですw]

[[大次郎先生] ヒガキ> renひとりで勝手に狩るから、棒立ちするだけ。

       ren> 競売? 聞いてないけど?]

[[宮様] クランハウス競売?]

[[キヨシ] 買うの? 秘密基地がいいww]

[[†元親†] まじかぁぁぁぁ! 地下基地みたいにしたい!]

[[ren] 明日の夜結果判る]


 私との狩りに緊張すると言うゼンさんの言葉に、先生が棒立ちと伝えた。キヨシの言葉に不安を感じたのであろうシロがゼルの分配を無しにしようと言い出した。クラン資金にしようと言うメンバーたち……とそこで、宮ネェがついに気付いてしまった。


 できれば結果が判るまで内緒にしておきたかった、競売の件を仕方なくクラチャで伝えれば、先生と宮ネェから、早速お小言を言われる。


 それを無視するようにキヨシが秘密基地。チカが地下基地がいいと夢を語った。

 地下基地ってできるのかな? 買ってみないとわからない……けれど本人たちの部屋をそうすればいいのではないかと勝手に思っておく。 


[[ティタ] え? renが全額出すの?]

[[黒龍] それは前に無しになっただろ?]

[[宗乃助] 戻り~]

[[白聖] あー。300M位なら資産売却でなんとかできるから、俺も入れとく?]

[[さゆたん] あたくちも300Mぐらいしか出せないでしゅよ?]

[[大次郎先生] 聞いてない! て言うか、そう言うの相談して?

       副マスの意味無いでしょ?]

[[宗乃助] どうしたでござるか? 何か困りごとで?]

[[宮様] はぁ~。まったく!

    資産売却すれば私も500Mぐらい出せるから、後で入れておくわね]

[[ren] 売らなくていい。解散した時の分配面倒]

[[†元親†] 俺100Mなら出せるぜ―!]

[[白聖] renがクランハウス競売に参加してた←事後報告]

[[黒龍] 宮ネェ気付いてなかったら絶対、競売のこと言ってね―よ?]

[[ティタ] 気付いたらクランハウス持ってました状態ね……昔みたいにw]

[[キヨシ] 500kならだせるぜw]

[[さゆたん] あの時も、そう言えばrenちゃんが一人で出したでしゅ]

[[宗乃助] またでござるか……懲りないでござるな~。

     700Mでいいなら出せるでござる]

[[ren] 不要。2.5Tならすぐ取り戻せるからいい]


 終わったかと思っていたお小言を、今度は全員から貰うことになった。

 昔の事まで持ち出さなくてもいいだろうに……確かにあの時も事後報告だったけれども、もう既に無効のはずだ……なんて言い訳がきく訳も無く皆言いたい放題だ。


 落としても居ないクランハウスの為に、すぐにお金を用意する必要も無いし……仮に落ちていたとしても皆のお金を集めるのは非常に後々面倒なことになる。

 解散する時にクランハウス売却、その後分配をする手間を考えれば、自分だけで出しておいた方が楽なのだ。


 そう考え不要と伝え、出費は痛いが強がってすぐに取り戻せると伝えた。ポータルに全員集まったところでPTを組む。今回の参加者の人数を考え、先生、黒、私がPTLを務め3PTに別れることになった。


 未だジト目を向ける先生と宮ネェ、そこから視線を逸らしつつバフを入れそのまま出発となり歩いて向かった。


 魔巣は【 ネキュレネ 】から北へ徒歩15分、走れば3分ほどの所にある石造りの一見豪華な城型ダンジョンだ。城一階から地上五階まであり、最上階の五階にはボスがいずれ配置されるらしい。

 今はまだ未実装マップとしてしか表示されないが……。


 デバフなどはないがモブは全てアクティブで槍や弓など遠距離攻撃のモブが徘徊している。

 それに見つかれば黒でさえ一撃でHPの二割が持っていかれるほど痛い。そのため内部を移動する際は必ず、トランスパレンシーを入れる必要がある。


 早速中に入る黒たちの後について内部の移動を開始する。入口を右に進み絨毯に沿って歩く。

 モブが配置されたエリアに入ると内部の見た目は一変する。


 城のエントランスのような大理石などを用いた床や壁が、薄汚れ灰色の石に変わり、血痕、髑髏、死体などが所々にオブジェクトとして表示されるようになる。


 そのまま一階を通り過ぎ、二階、三階と登り現在の最上階である四階へと到着する。

 四階の奥、渡り廊下がある続き部屋に入りディティクションを打ち上げプレイヤーが使っていないことを確認する。


 その後バルコニー側にある渡り廊下へと向かい、廊下を渡った先の部屋を同じように確認。

 どちらにもプレイヤーが居ないことから「じゃぁ、ここにしよう」と言うティタの言葉に皆が頷いた。


 渡り廊下をバフ更新の拠点することを決めバフを開始。

 カンスト組に個別のバフを入れ終え、私、ゼンさん、ヒガキさんの三人が渡った側の続き部屋へと移動する。


 二つの部屋が繋がったバルコニーを二人の待機場所として活用することを伝える。ここなら徘徊するモブもでないし、最悪近くにモブが湧いたとしても動きさえしなければ感知されることはない。

 その場で二人に立ってもらい、狩りについての説明を開始した。


[[ren] 二人は、ここで待機して。

   近くにモブが湧いたら、その場から絶対に動かないで?

   私がモブ引いてバルコニー入口で処理する]

[[ゼン] はい]

[[ヒガキ] はい]

[[ren] 以上]


 二人が頷くのを確認した私は、自分にだけ個別の魔法職用のバフを入れるとトランスパレンシーを自分含め三人にかけ、モブを引きに向かった。

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