第55話 最強は撲滅を齎す㉕

 黒の周りでバインドが解除されたATKたちが、バインドの効果を解除され黒への攻撃を再開した。

 回復POTを使うも、徐々にHPが減らされた。

 バインド(+18)を再度、設置し発動させる。耐性用のアクセに切り替えられたのか今回は三人しか効いていない……。


「チッ」


 舌打ちしつつ、バインドからペトリファクションに使う魔法を変更する。黒の周りを囲むATKや盾にペトリファクションを打ち込んでいく。相手の回復が一人減ったため、MPが更にきつくなっているはずとこちらもMPの残量が気になるところだが、出し惜しみはせずやれるだけのことをやる。


[[キヨシ] ヤベ~。超楽しい!]

[[†元親†] な! マジでやめられない、止まらない~♪]

[[黒龍] そーだなぁ。こういうのマジいいな]


 あー。チカのせいでエビのやつ食べたくなった……PK終わったら、面倒だけどコンビニ行こう。とか下らないことを考えていれば、痺れを切らしたらしいATKがシロへと切りかかるのが見えた。


 華麗なバックステップでATKをかわすシロの横から、二刀で切りかかり庇えば私の背後からさゆたん、キヨシがアイス ランス、サンダー スピアを打ち込みダメージを与えていく。

 それに負けじと、左手の刀をわき腹から肩に向けて振り抜く。私の耳の横を通りシロの矢が通過すると、見事に敵ATKの額へと突き刺さった。


[[キヨシ] うぉぉ。今のすげ~!]

[[ティタ] 次、ドリアンナ]


 キヨシがシロを賞賛する。


 それに構わず、右手の刀で腹を切り裂く。

 私へ反撃しようとする敵ATKの剣を左右の刀で払い、いなしせば背後から敵ATKへ向け、無数の矢と魔法が叩き込まれた。そのまま反撃する間もなく、倒れ灰色となった。


[[さゆたん] LAでしゅ]

[[白聖] おめw]

[[キヨシ] さゆ。攻撃力あがってね?]

[[さゆたん] ふふふっ。攻撃特化のローブゲットしたでしゅよー]

[[キヨシ] おぉ~。いいねぇ~!]


 さゆたんが本日初のLAを宣言すると、同じ職のキヨシが攻撃力に関して質問していた。クラチャの会話も気になるが、バフのアイコンにカウントが表示されたためそちらを優先した。


[[ren] バフのち、マナチャ]


 黒のと宗乃助、宮ネェのMP残量が微妙な位置にあるため、ここでマナチャを使っていた方がいいだろうと判断し天気予報のごとくクラチャで宣言すれば、話すのを止めたメンバーたちが、魔法やらスキルやらを思いっきり発動させた。


 全体含め個人バフを更新し終わり、マナチャを発動する。

 その頃には、チカ以外のメンバーのMPゲージがほぼカツカツの状態だったため、いい具合に全体のMPが回復した。


[[ティタ] ren。タゲにAB]

[[ren] k]

[[黒] あり]

[[宮様] あり~]

[[大次郎先生] 残り15ぐらいか?]

[[ティタ] 残り2PTか]

[[黒龍] さっきから……何人かフリーズしてねー?]

[[白聖] 誰かGMコールしたのか?]

[[宮様] どうかしら、黒の周囲の盾がフリーズした状態で動かないわね]

[[黒龍] 表情も動いてねーから、多分落ちる]


 シロの問いかけに全員が否と答えた。では何故、フリーズしたのかと考えても私たちプレイヤーではわからない。


 神の目を使ったことを誰かが報告したとすれば、それで運営が動いた可能性はある。けれど、PKを楽しみたいメンバーしかいない状態で、誰かが報告したとは思えなかった。

 と言うか、以前にもこれと全く同じ状況でPKになり、PKを楽しみたいがためだけに、誰も報告していなかったという事実があるからなのだが……。


[[大次郎先生] まぁ、とりあえず。今は考えるよりも動いてるの優先でやろう]

[[ティタ] k]

[[黒龍] k]


 そう言うわけで、ティタのマーカーがフリーズしているATKから、現在動いているATKへと変更になる。


[[ティタ] 変更、森蜜]


 それと同時にアーマー ブレイク(+25)を叩き込むもレジられた……かっこよく決めたいところで、レジるな! と腹立たしく思いつつも二度目のアーマー ブレイクでエフェクトがあがった。


「ちょ……なんか、運営がっ……」


 攻撃をはじめて直、森蜜が白チャで何かを訴える。単語から推測するに運営がやはり動いたらしい。攻撃を止めるかどうかの判断を確認するため、皆の視線が先生へと集まった。


[[大次郎先生] ストップ]


「運営が何?」


「どうやら、マスターと今固まってる奴らが、不正ツール使用したことで運営から停止くらったらしい。それで、俺らもログアウトしろってGMからチャットで言われた」


「PKの邪魔すんな……」


 つい本音がポロっとこぼれてしまう。それを見ていたかのように、突然PK中の空間に黒い頭巾を被った怪しい宗教に入ってますよと言わんばかりの格好をした固体が現れた。

 頭巾の上には、ゲームマスター:Aと言う名前の表記がされている。


[[黒龍] やべぇ……せめてゲームマスターにも名前ぐらい付けてやれよ!]

[[ティタ] SS撮ろう]

[[†元親†] ティタ、俺とGMとって!]

[[さゆたん] かわいそうな名前でしゅ]

[[宮様] Aはないわよね……]


【 対人戦闘中失礼いたします。GMのA……青木と言います。】


[[白聖] やっぱAは嫌なんだな。草]

[[宗乃助] あれは、はずれないでござるか?]

[[大次郎先生] そうだろう……青木さんも大変だな]

[[キヨシ] 中の顔が気になる~]


【 この度、あるプレイヤーの方からクラン=グランドロール構成員及びマスターが、不正ツールを使用していると言う訴えがありました。 】


【 そのため、こちらでその件に関し、精査確認いたしましたところ、不正ツール使用が認められましたので、ツールを使用したプレイヤーのアバターに関して、現在凍結処理を行っております。 】


「PKは継続できるの?」


【 申し訳ありませんが、不正ツール使用者の関係者の方には一度落ちていただく手はずになっており……対人戦闘の継続は困難となります。 】


「それは、あんまりにも酷い」


 折角……楽しんでいたのに……とGMコールした相手に対し憤り籠め発言する。


【 申し訳ございません。こちらとしましても、不正ツール使用に関する社内での決まりがありますので、平の私にはどうにも…… 】


[[ティタ] うわー。平社員なんだな……]

[[宮様] ていうか、なんでrenに対してぺこぺこしてるのこの人]

[[黒龍] 元renに殺されたプレイヤーだったとか?w]

[[キヨシ] ありそーでこえーw]


 どうやら、このときを逃せばもう二度と決着は付けられないようだ。

 ここでどうにかしなければ、中断させられた挙句、殺りこめてキャラデリへと持っていけない。

 そのことに対して、非常に腹が立つ。


 そう考えたところで、いいことを思いつきニヤっと顔が緩んだ。

 直に実行するため、まずは宮ネェにクラチャでお願いする。


[[ren] 宮ネェ~]

[[宮様] どうしたの?]

[[ren] 敵対全員にピュリファイ入れて~]

[[宮様] 何するの?]

[[ren] スッキリしたい]

[[大次郎先生] 嫌な予感がするのは私だけか?]

[[宮様] わかった]

[[ティタ] 俺もなんか嫌……renの顔がすげーニヒル!]

[[さゆたん] あの顔はろくなことにならないでしゅ]

[[†元親†] 悪代官と越後屋みてーだー]

[[黒龍] お前……まさか……]

[[キヨシ] ガクガクブルブル]


 クラチャで色々言われるも、それを全部無視して笑顔を湛えたまま宮ネェが敵対すべてに対しピュリファイを使うのを見守り、自身にヘイストⅡ(+25)、マジック オブ アブソール(+25)、エレメンタルアップ(+15)、ソウル オブ ウラガーンを入れ、攻撃力を上げるため二刀を杖へと持ち替えた。


「イリュージョン カリエンテ」と詠唱すれば、善悪の塔なのにその天井に雷を纏った雲が渦巻きはじめ、狭い通路に巨大な赤い鱗を持つドラゴンが飛来する。


 全てのオブジェクトを踏み潰しながら降り立つとカリエンテは四肢を踏ん張り口を大きく開けた。

 そこで、クラメンを守るためプロテクト スケイルを発動、間髪入れずにカリエンテの口から煉獄の炎が噴出し辺り一面を火の海へと変えた。


 炎が消えカリエンテがその巨体を赤いエフェクトに変化させ消えれば、呆然と佇むゲームマスター青木さんと仲間たち。

 そして、グランドロールのメンバー十数名の灰色となった死体と元に戻ったオブジェクトがあった。


「仕方ないから、今日の所はこれで許してやってもいいよ?」


「ren……恐ろしい子……」


 呆然と呟いた宮ネェの白チャがチャット欄に表示された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る