第52話 最強は撲滅を齎す㉒
全チャを流すも誰も取りに来る者はいなかった。
無駄な行為だと、クラチャでメンバーに言われるが性分だからと何を言われてもこのスタイルを変るつもりはない。
取りに来ない装備を預けに倉庫へと移動して、クラン倉庫内の中身を確認した。
既に40マスほどが埋まっており、その7割ほどが敵対の落とした装備となっている。
このまま放置すればそのうち、倉庫が圧迫されるのではないかと考えていると、密談のマークが表示された。
”ルリ姫” 全チャで呼ばれたので、密談しました。
”ren” Dog Runのマスター?
”ルリ姫” はい。
”ren” うちが宣戦布告して、グランドロールとPKしてるのは知ってるよね?
”ルリ姫” はい。全チャで見ました。
”ren” そっちのクラメンが、グランドロールのメンバーに手を貸してる。
”ルリ姫” え?
”ren” クランで戦争するなら受けるけど?
”ルリ姫” 早急に辞めさせます。
”ren” 明日16時までに、本人達に謝罪文書かせてメール。
”ルリ姫” 明日ですか?
”ren” y
”ルリ姫” できれば、数日いただけないでしょうか?
”ren” 既に2回PKしてる。もう猶予は与えない。
”ルリ姫” わかりました。出来る限りの対応をさせて頂きます。
”ren” よろ
ルリ姫との密談を終えて、次はクラチャに報告する。
一応時間を切った以上、その時間まで猶予を与えるべきだと考えたからだ。
[[ren] 明日16時まで、Dog Run 猶予]
[[大次郎先生] 了解]
[[宮様] クランぐるみじゃなかったのね]
[[ren] y]
[[さゆたん] わかったでしゅ]
[[黒龍] まー。謝罪すれば許すのは今回までだけどなー]
[[†元親†] なになに? 新しい敵?]
[[ティタ] 謝罪ねー。
謝るって言えば、グランドロールのメンバーあとどんぐらい?]
[[宗乃助] 今朝見たら、20人前後でござったよ]
[[キヨシ] 敵だー!]
[[†元親†] トキメクゼー!]
[[宮様] チカ……さっきあんたを殴ってた奴らよ?]
[[白聖] 今人数確認したら、グランドロール15人切ってるぞwww]
[[キヨシ] 何があったんだろうな?]
[[黒龍] 謝罪ねーなら、抜けても意味ねーけどなw]
[[ティタ] 15人以下なら、一気に叩く?]
[[大次郎先生] いや、今はまだ粘着しつつ嫌がらせしよう]
[[宮様] 一気に叩いたところで、クラン解散されても面白くないわ]
ドックランに関しては、明日16時まで待つとして、グランドロールには遠慮する必要は無い。
グランドロールが今更謝罪したところで、許すつもりもないので、1時間の休憩を取った後また、狩場へ探しに行こうという話になった。
宿屋内で、皆が落ちるのを見送り私も、リアルで食事などを軽く済ませ立ち上げっぱなしのPCで、公式掲示板を確認して病ゲーへログインする。
今回は、善悪に全員で登りましょう? と言う宮ネェの意見が採用され、善悪の塔へと移動する。
[[ren] バフ]
いつも通りバフをかけ、善悪の塔へと移動する。
久しぶりに来たチカのため、雑貨屋NPCへ立ち寄りトランスパレンシーをかけ、31から登りはじめた。
[[黒龍] なぁ……チカ]
[[†元親†] な~に~?]
[[黒龍] 何じゃなくてさ……盾より前にでるんじゃねーYO!
俺より前を歩く回復とかいねーだろ?]
[[ティタ] ……チカ……お前回復だろ??]
[[キヨシ] チカはやっぱりチカだwwww]
[[白聖] まぁ、チカだよな]
[[さゆたん] でしゅね]
[[宗乃助] でござるな]
[[宮様] はぁ~。頭痛いわ]
[[大次郎先生] 諦めろ? 黒……]
[[黒龍] 俺かよ!]
[[ティタ] 先生から投げられたら終わりだな]
[[†元親†] うははははっ]
黒を先頭に組んでいたはずの隊列だが……チカがいつも通り先頭を闊歩する。
黒やティタからすれば、守る為に自分たちの後ろに居て欲しいところなのだろう。けれども、チカはチカだった。
[[ren] キヅナ呼べばチカ止まる?]
[[†元親†] ちょっ! renちゃん。恐ろしい事言うなー!]
[[黒龍] あー。キヅナかぁ]
[[白聖] あいつ元気なの?]
[[†元親†] うん。毎日殴られてる……俺が]
[[宮様] 相変らずなのね~]
[[†元親†] あいつ容赦ねーからな……俺が死ぬ]
キヅナは、チカの実の兄で元クラメンだ。結婚を期に完全に引退してしまったのだが、チカを唯一押さえられる――リアル、ガチンコで――人と言っても過言ではない。
相変らず元気な様子に懐かしさを覚えつつ、40Fへと到着する。
私はソロで40Fを見て周り、他は3人ずつに別れ敵対を探す。
軽く1周したところでボスは既に狩られた後だったらしく、モブはいれど人気は無いことが判り、帰還の護符を使いポータルへ戻り、そのまま41Fへと移動した。
41Fからは、流石にチカを前に出すのは危険だと判断した先生が、宮ネェとチカを挟むように歩く。
44Fの階段を登り歩いているとマップの右に、一瞬だけプレイヤーのマーカーが映ったように見えた。一人、通路を曲がり右へと移動する。
[[宗乃助] ren?]
[[ren] マーカー見えた。ちょっと見てくる]
[[黒龍] わかった。待つわ]
[[ren] k]
私が突然右の通路へ進んだのを見ていた宗乃助にクラチャで名前を呼ばれ、事情を説明したところでマーカーが不自然な動きを見せた。
広いマップ内を縦横無人に走るマーカーを追いかけ、皆からかなり離れた路地で、突然消えたマーカーに嫌な予感がヒシヒシと伝わる。
見えるはずの無い、私たちがもし見えていたとしたら……? まさか……ね。流石に、そんな馬鹿なマネするようなプレイヤーはいないだろう。
そんなことを考えていると、突然ディティクションが打ち上げられた。
「よぉ~」
顔が歪み、凶悪な笑みを乗せたアクセルが、意気揚々とトランスパレンシーを使っていた私へ
バカだバカだとは思っていたが、ゲームの規約を破るほどとは……呆れつつアクセルへ確認を取る。
「あんた……神の目に手だしたの?」
「うるせー。だったらなんだつーんだよ!」
神の目とは、過去あるユーザーによって開発されたツールで、トランスパレンシーや透明マントの効果を無効化する運営が不正とし、規約で使用を禁じたツールのことだ。
まさか、ここまでするとは流石に思わなかった。
そして、この場所と状況が少しマズイと考え、どうにかクラメンが来るまでの時間を稼ぐため嫌々だが会話を試みる。
「それで? 不正ツール使って何がしたいの?」
[[ren] 神の目。グランドロール3PT]
「てめーさえ殺せりゃ、BANになろうがどうでもいいんだよ」
[[大次郎先生] わかった。方角は?]
[[黒龍] マジか……神の目使うとかバカだな]
[[宮様] これだから、ゴミは……]
「やっぱり、頭も残念だったのか……」
[[ren] 北北西 角]
[[さゆたん] いきるでしゅよ]
「はぁ~? てめーらの頭の方が残念だろーがよ!」
[[†元親†] ひゃっは~!]
[[キヨシ] いくぜ~]
[[宗乃助] 生きるでござるよ]
「ふふっ。基地外とは良く言われるけど頭が残念とは言われたことないなぁ~」
クラチャで、方向と人数を伝えれば、テンションの上がったらしいチカとキヨシが奇声をあげる。
アクセルから視線をはずさず、詠唱速度アップの杖から属性MAXの杖に持ち替え、右にいるATKたちの足元へ設置型魔法バインド(+18)を設置して、バフを入れるタイミングを計る。
「まぁ、そんなことどーでもいいんだよ。泣いて謝っても許すつもりねーからな」
「泣く? 私が??」
「あぁそうだよ。もう二度とでかい顔しませんって、土下座したうえで、1T渡すってなんなら考えてやてもいいけどな~」
[[ティタ] チカーーーーーーー。お前が先頭走るなー!]
[[黒龍] あっ……]
[[キヨシ] あっ!]
[[宮様] あ……]
[[白聖] 緊張感が足りないな……]
[[†元親†] 起して~]
バカじゃないだろうか? BANされるのに……1Tで許す? お金を受け取って何の意味があるのだろう? それよりも、クラチャの方がヤバイ……チカがどうやら死んだらしい……ウケる。
「ぶはっ」
[[大次郎先生] はぁ~。黒の後走れよ?]
[[さゆたん] バカでしゅ]
「てめー、何笑ってやがる!」
つい我慢できずに笑ってしまえば、私の態度が気に入らないのか、アクセルの眉間に深い皺が何本も刻まれた。周りにいるグラドロールのメンバーもニヤニヤしていた顔が、怒りの表情へと変わる。
「あ~。ごめんね? 1T程度で許すなんて……甘いなって思って――。
私なら、ゼルなんて要らないから、
「ふざけんなよ……クソがっ!!」
笑ったのはクラメンのせいだが、せっかくだからと煽ってみる。
口角を上げ、目を眇めて余裕だよ? と言う態度を見せれば、アクセルが怒りを籠めて「殺るぞ」と周りの仲間へ声をかけた。
次々と剣を引き抜き、杖を構え戦闘態勢をとる敵へ、私もまた杖を掲げた――。
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