第53話 最強は撲滅を齎す㉓

 即座PK開戦の緊張感漂う、善悪の塔44F北西角で杖を掲げバフのタイミングを計りつつ、スロー レンジ(+5)をバインドに被らない位置へと設置する。


 緊張を悟られないよう、フゥーと細く長く息を吐き出しメイジ職と遠距離攻撃職の位置を確認する。

 正面後方壁際に、ATK5人が壁を作るようにして守る一角に回復職と思しきローブを着たのが二人。

 そこから左。アクセルの側にいる盾職の後に二人。右のATK側に弓職が一人。


 計5人か……、弓職にはバインドが入ると考えて、問題は正面後方にいるATK5人が守るメイジだ。

 あそこでは、範囲に入らない。どうするか……思考を巡らせている間に「シネェェェ!」と叫びながら、緊張から先走ったのであろう片手に短剣を持ったATKが突っ込んでくる。


「ばっ!! くそっ、仕方ねぇ。仲間来る前に殺っちまえ!」


 焦るようにアクセルが叫び、そのまま戦いが始った。


 何を焦ったのかは判らないが、煽るためニヤっと口角をあげ笑いを浮かべて見せ、ソウル オブ カリエンテ、ヘイストⅡ(+25)、ファイアー ウェポン(+25)を自身に追加する。

 急ぎ、杖をPK用の二刀へ持ち替えると同時に、正面から突っ込んでくるATKを巻き込むよう正面奥にいるメイジまで届けと願い、スキル一閃を発動させた。


 キーンと時代劇でよくあるような、鋼が鳴る音が上がり一拍置いて、短剣をもったATKが灰色となり沈む。

 その音を聞くだけで、テンションがあがる。


 巻き込んだ正面の三人ほどが、被弾するも誰も即死はしておらず、HPPOTを使う光があがる。そこへ間髪おかずにつっこみ、切りかかり右手の刀で中央のATKを狙いつつ、右端にいる槍を構えるATKへ蹴りを入れ吹き飛ばす。


 右手に持った刀をそのまま、ATKへ突き刺したところで、正面後からアイス ランスが飛来する。

 身体を捻り、無理矢理バックステップで下がった。


 出来る限り距離をとり、刀を杖に持ち替え撒いておいた設置型魔法を発動させた。


[[ティタ] もうつく]

[[ren] k シロついたら正面にDP(ダウン プル)]

[[白聖] k]


 周囲へ目線を動かし、エフェクトを確認すれば約6~8人に程度にあがっていた。

 予想より少し少ないか……。


「チッ」


 舌打ちしつつ、再度設置型魔法バインド(+18)を左にいるアクセル側へと設置する。


[[黒龍] 角着]

[[宮様] バリアと同時に突っ込むわよ]

[[ren] k]

[[大次郎先生] カウント3……2……1……Go]


 ヘイトを打ち込む盾へタゲが取られ、メイジを一瞬見失うとATKの攻撃を受ける。被弾と同時に、宮ネェのバリアが発動された。


 間髪入れずにシロがダウン プル、黒が、レンジ ヘイトを打ち込み、グランドロールのメンバーの方が慌てふためいている様子だった。


 ティタのターゲットマーカーが、アクセスの側にいるメイジを示し、宗乃助、先生、ティタ、チカが走りよると囲みこみエフェクトがあがり攻撃を開始したのが見えた。


 二歩ほど下がれば、さゆたん、キヨシが飛ばしたと思われるサンダー スピアが飛んだかと思えば、フリーザーの氷が足元の床に軌道を描くよう周囲の敵対ATKへと打ち込まれていく。


 HPを宮ネェによって回復してもらい、メンバーへ個別含めバフを急ぎ追加した。とここで、バリアーの時間切れとなり、黒、チカの一気にHPが減りはじめた。


[[ren] チカ、ATK用入れてる]

[[†元親†] 流石! 俺TUEEEEEEEEEできんじゃん!]

[[黒龍] チカ。バリア入れろ]

[[†元親†] え? 覚えてねーYO!]

[[ティタ] じゃぁ、なんでお前、前にでてんだー!]

[[ren] バフ、カキカエタ ホウガイイ?]

[[黒龍] チカ!! 回復しろとは言わない……

     けどな、せめて前でるなら、バリアぐらい覚えとけつーの]

[[†元親†] Nooooo!!]

[[さゆたん] いいでしゅよ]

[[ティタ] ウン。イイト思ウヨ]

[[白聖] もう職変えてこい]

[[キヨシ] チカは、最弱ATKだよな~]

[[†元親†] キヨシ! お前だけだぜぇ~!]

[[キヨシ] 理解はできないけどなっ]


 チカのバフを、書き換えてやろうかと思うような事実が発覚する。

 が、書き換えるだけのMPが、勿体無いと考え直しバフはそのままにして、先に撒いたバインドを発動させた。


 更にさゆたん、きよしの魔法から外れた正面ATKに対し、バインド(+18)を設置発動させる。

 これでもまだ残り、10人ほどが宮ネェ、チカ、さゆたんたちメイジ職へと狙いをつけているようだ。


 辛うじて、未だ攻撃が行かないのは黒のレンジ ヘイトのおかげだろう。

 早めに、近場のATKをとめなければならないが……ATKに守れたメイジが、ピュリファイを使いバインドを解除しているため、壁が以上に厚くなっている。


 シロに視線を向け、敵対のメイジにステフ プラウセスを入れられないかと問いかけるも、首を横に振られてしまった。


[[大次郎先生] くそっ、奥の回復うざいな]

[[ティタ] 次、アクセルいこうか]

[[さゆたん] これ以上前にでると、こっちが被弾するでしゅ]


 どうにか……いい方法はないだろうか? 必死に思考を巡らせ考えるも、現状奥のメイジに届く魔法がない。


[[大次郎先生] 仕方ない。renはできるだけ、バインドでATK固めて

        俺たちはこのまま独りずつ潰していこう。

        さゆ、キヨシもフリーザー入れまくって]

[[ティタ] k]

[[ren] k]

[[さゆたん] わかったでしゅ]


 誰も案を出さないことで、先生がこのまま潰していくと決断する。

 正直こうも手の打ちようがないと、MP戦になるのは目に見えている。相手の回復のMPが尽きるか、こちらのMPが尽きるかの勝負だ。


 こう言うPKも楽しい……。


 こちら側にジリジリよって来るATK三人に向けて、バインド(+18)を設置発動させる。

 ティタのターゲットマーカーが付いたアクセルへ向けて、アーマーブレイク(+25)を叩き込みエフェクトがあがるのを横目に、黒の周囲にいる盾やらATKやらの足元へバインド(18)を設置発動させた。


 こちらが範囲魔法であったことが、功を奏した結果となるかは未だわからないが現状、アクセルへやたらとヒールを飛ばしているし、宮ネェのMPは50%をキープしている。


 いずれ、向こうが先にMP枯渇状態になりきつくなるだろうことは予想できる。

 ならば、こちらはMPを使わせるようバインドとフリーザーでATKを固めていけばいいだけだ。


[[ren] バフ]


 5分が経過する前に、個別バフを全員へ回す。

 それを邪魔するよう、死角から敵対の弓職がステフ プラウセスを打ち込んで来る。


 それが見えていたらしい黒がスキル、プレベント アタック オール ――三次職盾装備のみ使用可能なスキル。5秒間のみ自身を含め、PT、クラン、同盟員すべてに対するデバフを無効化、そのダメージを肩代わりする――を使ってくれた。


[[ren] あり]

[[黒龍] おう]


 プレベント アタック オールの効果が切れた黒のHPが一気に減り、タイミングを合わせるように宮ネェのフル ヒールが飛んだ。

 バフの更新を終わらせると同時に、弓の方へバインド(+18)を設置発動させる。


 お返しとばかりに、PK用の二刀へ持ち替える。

 ソウル オブ カリエンテ、ヘイストⅡ(+25)、ファイアー ウェポン(+25)を自身に入れ、スキル:アマギリを発動させた。


 青白いエフェクトが立ち登り、霧のように細かい小雨がシトシトと降りはじめた。それは徐々に剣先へと変化する。次第に、大きく長く幾千もの刃となり弓職を中心として周囲にいた、ATKたちへとダメージを追わせた。


[[白聖] そのスキル俺には使うなよ。マジデ、コエー]

[[さゆたん] 味方ならカッコイイけど、敵だとマジ怖いでしゅ]

[[キヨシ] うわー。痛そう]

[[宮様] 味方で良かったわ~]

[[ティタ] アクセル乙。次、名前ミスってる奴、Grand Crose]


 私のアマギリに対して、怖いと言いつつも狙いすましたようにタイミングを合わせ、範囲スキルを使う二人の方が、私は怖い……。


 アマギリを受け、範囲攻撃を受けたATKたちが必死に、HPPOTで回復しているところに、ダメ押しとばかりに、キヨシのサンダー ストームが巻き起こる。

 流石にHPPOTだけでは間に合わなかったらしい弓職、ATK二名が灰色となり倒れた。


[[キヨシ] やっぱ、俺TUEEEEEE!]

[[さゆたん] いいとこだけ持ってたでしゅ]


 宮ネェ、シロ、さゆたんが、無言でキヨシにジト目を向けた――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る