第49話 最強は撲滅を齎す⑲

 さゆたんがインした後、ゲーム内で4時間ほど狩りをしてその日は解散になった。

 朝日が眩しい室内で目を覚ます。ベットから這い出して顔を洗い、モロモロ生きる為に必要な行動をすませると、立ち上げっぱなしのPCで公式掲示板を覗き、グランドロールの個人が出した謝罪文を確認する。


「残り20人ぐらいか……」


 髪を左肩あたりで結び、這い出たはずのベットへ戻る。ギアを被り早速、病ゲーへログインする。少しの浮遊感の後、視界が暗くなりノイズが入ると切り替わり、昨日落ちた際に使った宿屋のベットの天井が見えた。だるさも何もなく起き上がると、宮ネェとタイミングが被ったらしく「おは」と互いに挨拶を交しベットから抜け出した。

 

[[宮様] おは]

[[ren] ノ]

[[ティタ] おはー]

[[大次郎先生] ノ]

[[さゆたん] おはでしゅ]

[[ヒガキ] おはようございます]


 この面子なら、PKいける……な。


[[宮様] ren 顔、顔!]

[[ren] ?]

[[ティタ] どうせ、PKいけるなとか思ったんだろ?]

[[ren] y]


 楽しみすぎて口角が上がってしまい、顔が緩んでいたようだ。

 それをティタに見透かされ素直に認めれば、宮ネェのあきれた顔が視界に入った。視線を逸らしつつ宿屋を後にする。


 まずは、昨日買いそびれたお好み焼きを買いに行く。

 昨日ストックがなくなってしまったので、多めに買っておこうと思いつつ店へと到着すればそこに、ティタの姿を発見する。


[[ren] ティタ]

[[ティタ] お~。renも来たの?]


 名前を呼べば、クラチャで反応しつつ周囲を見回しこちらを向く。


[[大次郎先生] 何? どっかいってんの?]

[[ヒガキ] 狩場って俺ぐらいだと、どこがお勧めでしょうか?]

[[宮様] あんたたちどこいってるの?]


 右手を軽く挙げて互いに無言で挨拶を交しつつ順番待ちをしていると、クラチャで宮ネェと先生が私たちの会話を勘違いして即座に反応する。


[[大次郎先生] ヒガキ、二次のいくつ?]

[[ティタ] あー。お好み焼き買いに来てる]

[[ヒガキ] Lvは89です]

[[宮様] ティタ、私のもお願い~。お金渡すわ]

[[大次郎先生] ティタ俺のも。それなら、沼の浅瀬か善悪の10Fまでぐらいかな]

[[ren] ドワなら、牛狩り]


 牛狩りは二次職80~100までの間に行くには最適の狩場だ。と言っても私や、クラメンの間でだけだが……。ミノタウロスは動きが遅く急所さえキチンと狙えていれば、かなりお手ごろに狩れるし経験値もそれなりに美味しいただし……ドロップは非常にマズイが、ソロ向きのモブで狩場も不人気な上見晴らしも悪くないので快適に過ごせる。


[[ヒガキ] なるほど……沼も善悪もまだ一人ではきついかなと思うのですが]

[[大次郎先生] あぁ~。牛狩りいいね~]

[[宮様] そうよ! 牛狩りがあるわね!]

[[ヒガキ] 牛狩り? ですか]

[[ティタ] 牛狩り=ミノ狩り]


 その事をティタが説明している間に、お好み焼きを注文する。今回は全種を2個ずつ頼んでみた。

 お金を先に渡し、出来上がりを待つ。


 クラチャを楽しみつつ取引所を開く。

 毎日の日課と言うより時間があれば、取引所を開くのが常習化している。まずはスキル書の方を見ていく。二刀しかも刀スキルを探すも、こちらはやはり人気なのか、ひとつも売りが無かった……。


 次に開いたのは魔法書だ。魔法書の項目をタップしてスクロールして、ドラマスの魔法書を探す。先日購入した魔法書のカリエンテ、ウラガーンのような魔法書が欲しい!

 できれば、フルークトゥスかフムスが欲しい所だ。スクロールするウィンドウに一瞬、フルークトゥスと見えた気がして、急いでスクロールを戻す。


 逸る心を抑えつつ、慎重にスクロールすれば見間違いではなくソウル オブ フルークトゥスと言う魔法書があった。フルークトゥスは水を司るドラゴンだ。カリエンテやウラガーンのように使える魔法だろうと、値段も確認せず急ぎ購入ボタンを押す。


 そして気付く、ウラガーンやカリエンテの3倍の値段だったことに……それでも、欲しいものが買えた喜びを感じスクロールを繰り返していると、同じ物が三分の一以下の値段で売っていた。


「No~」


 どこぞの外国人のように頭を抱えつつ、ガックリと肩を落としたところでお好み焼きを持った猫さんが、首を傾げながらもできたにゃーんと明るく声をかけてくれた。

 ありがとうと礼を言い、受け取ったお好み焼きをアイテムボックスに入れ、教官で三倍もしたソウル オブ フルークトゥスを覚えるとそのまま宿屋へと戻った。


 ソウル オブ フルークトゥスの効果については、ある程度予想通りで水流の竜フルークトゥスの魂の一部を5分間だけPTメンバー、クラン員、同盟員のうち1名に付与する。魔法回復力1.5倍、詠唱速度2倍、移動速度1.5倍。但し他竜のソウルとの併用不可。使用時、高級魔石20個が必要。再使用時間10秒というものだった。


 魔法を覚えたのは嬉しい……が、200Mの損失は痛い……そのことを考え、はぁ~。宿屋の室内で溜息を吐き出す。


[[宮様] どうしたの?]

[[ren] やらかした……]

[[ティタ] え? まさかお好み焼屋潰してないよね?]

[[ren] 違う!]

[[宮様] どうしたのよ?]

[[ren] ソウル オブ フルークトゥス売ってて、買ったら3倍値

    その後見たら、三分の一以下のやつ見つけた……]

[[大次郎先生] ヒガキ こっち]

[[宮様] あぁ……どんまい]

[[ティタ] 魔法書は、安いの探してる間に買われるからな……]

[[ren] ムカつくから、敵対探してPKしてくる]


 心配してくれる宮ネェとティタに事情を説明すれば、励まされてしまった。

 あんなボッタクリの値段をつけた奴に対して腹が立つものの、復讐のしようが無い。


 腹いせに敵対を探しPKしようと宿屋を出たところで、ティタが一緒にいくつもりなのか宿屋から出てくると、PTの申請を出して来た。

 ティタの顔を見ればニヤっと笑ってピースサインを作ってみせた。

 暇だったのか? 何を考えているのかはわからないが、盾代わりにしようと思い、申請のウィンドウの承諾を無言で押す。


『何処から周回する?』


『近いし、沼からかな』


『k』


 簡潔に沼からと決まりバフとトランスパレンシーかけ昨日、PKを行った沼へと走りはじめた。やはりティタの職は足が速い。移動速度の違いから置いていかれてしまった。

 それでも、2分と遅れずついたので良しとする。


『昨日の野良か、グランドロールか』


『y』


『とりあえず手分けして探すか』


『k』


『右から周って、地下入り口で待ってるわ』


『判った』


 ティタが右から周るようなので、トランスパレンシーだけをかけ直し左へと進む。ここは通路にモブは沸かないため、部屋の外からマップをみつつ探索できる。

 分かれ道を左へ進めば、二つ先の部屋に5つのプレイヤーのマーカーが表示された。岩をよじ登り中を覗けば、一般のPTだったらしく対象ではなかった。


 次に見つけたのは、10人もいるPTだ。ティタとの約束の場所から1分ほどの二部屋続きの大部屋と小部屋があり、中を覗き見ることができない場所だった。

 少し外れた壁の外側で、マップを見ていればディティクションが打ち上げられたのか、10人だったはずの表示が16人になり。その後、直に10人へと戻った。


『ティタ。見つけたかもしれない』


『かも?』


『y 透明マント持ちかトランスパレンシー使ってるのが6人いる』


『なる。何人?』


『16』


『多いな……』


『やろう?』


『判った。とりあえず中確認してからにしよう』


『k』


 ティタが来るまで少し時間があることから、中を確認しようと入り口の方へと移動する引き役が通る際中を確認するつもりで見ていれば、引き役の男のクランマークがグランドロールに手を貸していた、グランドジェイルと同じマークだった。


『引き役のクランマーク、グランドジェイルと同じ、身内?』


『中に隠れてるのそいつらの可能性が高いね』


[[ティタ] 宮ネェ忙しい?]

[[宮様] 宿屋にいるわよー]

[[ティタ] ちょい混戦になりそうだから、沼来れない?]

[[宮様] 人数は?]

[[ティタ] 16、内6 透明]

[[大次郎先生] 行くわ]

[[宮様] わかったわ]

[[ティタ] ren。見張りやっとくから迎えにいって]

[[ren] k]

[[宮様] チカもINしてるからついでに連れて行きましょう]

[[ren] 入り口向う。トランスパレンシー入れておく。

    ここディティクあたる]

[[ティタ] 了解]


 ティタと一緒に相手が見えない位置まで移動して、バフをかけ直すと同時にトランスパレンシーを入れた。元親を宮ネェが連れて来ると言っていたことから、かなり厳しい戦いになると予想しつつ、入り口へと向った。

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