最強はクランを作る②

 病ゲーの職業は、かなりややこしい。

 まず、ゲーム開始時に選択できるのは一次職の二種類のみ。

 一次職をLvカンストまで上げれば、二次職十六種類が選択可能となる。

 二次職の職業選択次第で、三次職の選択肢が変わる。


 二次職に転職すると同時にそれまで上げたLvはゼロになり、Lv百――カンストを再び目指す事になる。

 二次職になると取得経験値も大幅にかわるため中々しんどいのだが……三次職よりはマシ。


 カンストすると今度はサブ職業を選択できるようになる。

 サブ職業と言うのは、メインとは違うクラスを選択でき、サブ職業をカンストまで持っていくとメイン職業でサブ職業のスキルが幾つか使えるようになる。同じものを選んでもいいのだが、三次職の職業に選択幅がなくなるのでお勧めしない。


 サブ職業がカンストすると漸く三次職になれる訳だが、私は敢えて拒否した。何故かと言うと回復が欲しかったことと、三次職へ転職する際、表示された職業が公式に上がっている個数より少なかったせいだ。


 私の事情は置いておいて、三次職になるのを拒否すると第二サブ職業と言うものが選択できるようになる。それを選択すると、カンストした際に隠し職業が表示される。


 私が選んだドラマスもこの隠し職業の一つで、基本ここに居るメンバーは皆隠し職業を選択している。


 簡潔にドラマスになる方法を説明するとこんな感じだ。

 一次職をメイジ。

 二次職でウィザードを選択。

 サブ職業にグラディアートルを選び、三次職になることを拒否して第二のサブ職ドラゴンライダーを選ぶ。

 全てをカンストさせることで三次職にドラゴンマスターが表示されるようになる。

 結局、回復を取りたいと言いながら、全く違うものを選んでしまっているのだが気にしないで欲しい。

 

『正直、魔法書があるわけじゃないから、お勧めはできない』

『それな!』

『まー、マゾイわよね~』


『十』


 ティタの合図に、会話を止め攻撃準備をはじめる。

 纏める角に、設置型のデバフをしかけるのが私の仕事だ。

 水属性は風属性に弱いことを考え、設置するデバフ魔法は風系の魔法を選ぶつもりだが……風系にデバフ自体がない……。


 ・ポイズンクラウド(+20)

 ・バインド(+18)


 仕方なくこの二つを設置しておいた。


『来る!』


 先生の言葉と同時にティタと黒が大量のモブを引いて角に入り込む。


『ok』

『k』


 2人の合図と同時に、黒がレンジヘイト――まとめて一気にタゲを執るスキル――を使い。

 宮ネェが回復職だけが使える十秒だけ連合全員が無敵になるバリアを発動させ、さゆたんとキヨシが同時に風魔法テンペストで攻撃をしかける。


 タゲが流れるのを防ぐため、バインド(+18)を発動させると、宗之助、先生、黒、ティタ、シロが槍を使ってまとめてダメージをたたき出す。


 キン! キン! ボフ! キン! キン! キン! ボフ!


 クリティカルヒットの音――失敗の音が極まれに入るが――鳴り響くと、半分程のモブが既に黄色い粒子になっている。

 もう一度、設置型のバインド(+18)を設置発動させた。


 HPの減り具合を確認しつつ、宮ネェが回復を飛ばしていく。

 バフを切らさないよう、時間を確認しつつ個別にヘイストⅡ(+25)を更新していく。


 MPがきつそうな、キヨシ、さゆたん、宮ネェにMPドレイン効果のある、マジックオブアブソール(+25)をかけたところで一度目の狩りが終わった。

 大量に流れるシステムログを確認すれば、誓い(水)は五個ドロップしていた。


 モブを引きに行く前に黒とティタにバフをかけ直し、宮ネェたちとの時間を調整する。


『終わった』

『いってくる』

『ティタ、俺右回るわ』

『左、了解』


 簡潔に、会話を終えて走り去る二人を『てら~』と送り出す。その間に、クランマスターを他のメンバーにできないか相談してみる。


『マスター、やりたくない。誰かして?』

『え? ren以外無理じゃね?』

『ていうか、このクランの序列って、強い順でしょ?』

『真剣とかいてマジでござるか?』

『renがマスターでいいよ! ていうか宗、それ古すぎて、ほぼ伝わってないから!』

『あたし、序列で構わないわよ!』

『あたくちは、renがマスターでいいでしゅ』

『強いイコール序列! 良いわ』

『俺がマスターやれば、破産するぞ! くははははは!』


 黒が、押し付けてくる。ティタが強い順に、クランの序列が決まると思い込み。宗之助がボケをかましつつ、ティタに序列なのか確認し。

 シロが私を推しつつ、宗之助に突っ込みを入れる。宮ネェが序列を推すとさゆたんが私を推し、先生が序列を推した。と思ったらキヨシが破産宣告をする。


 マスターなんて、面倒なだけでボス狩りできなくなるから嫌だ。どうにかマスターを回避したい。 ここはティタの案に乗って、決闘で負ければ回避できるんじゃ……?


『強い順なら、決闘?』

『でいいんじゃない?』


 そう言うことになった。

 どうやって負けようかな? と思考する。


『戻るぞ~』

『十二』


 黒の合図と、ティタのカウントが被って入る。

 マップを確認して、設置型の魔法を、さっきと同じように仕掛け終わる。

 少し時間が余ったついでに、先生、シロのウィンド ウェポン(+20)を更新する。


 引き役の二人が戻り、角に入る。

 間を置かず、モブのターゲット(以降=タゲ表記)を維持するため、黒がレンジヘイト――盾を持つ職業専用で、敵を挑発するスキル――を発動した。

 大量に引いてこられたモブの頭上を赤色の小さな球体が数周回り消える。


 モブに、ボコボコに殴られるつつ黒とティタが、装備を槍に切り替えたのが見え、ダメージを与えはじめる。そこへ、モブにとっては弱点属性のウィンド ウェポン(+20)を詠唱して二人にかける。

 器用な宮ネェが、タゲを貰わない程度の回復を飛ばす。


 さゆたんとキヨシが、同じタイミングで風魔法テンペストで、モブにダメージを与えつつ、それ以外の風魔法を使い攻撃するのだが、さゆたんのブラストで粒子になるモブが居るのに、キヨシのブラストでは、倒れない。


 そろそろ、レンジヘイトの効果が切れる。バインド(+18)で倒しきれていないモブの動作を止める。

 槍4本の攻撃と風魔法攻撃を受け、次々倒れ重なっていくモブの山。


 メイジ組みのバフを更新すると、ちょうど二回目が終わった。

 システムログを確認する。

 一回目より明らかに多かったはずなのに、誓い(水)は二個しか出ていない……。


 直ぐに、三回目を引きにいく黒とティタに手を振り見送った。狩り中に感じたことをキヨシに聞いてみる。


『あぁ……。強化の石があってさ……』


 曖昧に答えるキヨシに、宮ネェがロリ絶壁エルフの癖に、ピンヒールを履いた足で器用に回し蹴りを繰り出していた。


『ぶへッ』


 オーク並みに気持ち悪い鳴き声をあげたキヨシが、吹っ飛ばされ地面に顔面を強打し何度かバウンドして転がった。


『ふっ、また、つまらぬ物を切ってしまった……』


『宮、お前使ったの。足な!』


 ○右衛門風なセリフで決め顔する宮ネェに先生が、即座に突っ込んだ。

 非常に残念なことだが、私を含めキヨシの心配をする者は、この連合には存在しない……。


 遊んでいる間に、黒とティタから合図が入る。

 お決まりのように攻撃を開始する。

 回復、バフ、風魔法を使いそれぞれの役割をきっちりとこなせば、モブは黄色い粒子になり消えていく。


 一度で平均二、三個しか出ないアイテムを求め。流れ作業を繰り返すこと八回目。時間にして一時間十五分。システムログと自分のアイテムボックスを両方確認して、漸く誓い(水)のドロップが二十五個を達していた。

 引きに行こうとする黒とティタを止め、トレードで、ドロップの漸く誓い(水)を皆から受け取る。その数、合計で二十七個。


『集まった』

『漸く終わったか……』

『次はどこだっけ?』

『おつ。ドリアス南の森』

『おつ。調度リアル昼だし、飯くってから再開するか』

『賛同でござる』

『そうでしゅね。わたくちもさゆゆとご飯たべてくるでしゅ』

『了解。じゃぁ。二時間後にドリアス集合で!』

『うぃ!』


 次の狩場に行く前に、リアルで食事を済ませよう。と言うシロの案が採用され、話が纏まる。

 ナイアスの街へ戻るため帰還の護符を使い、宿屋で部屋を借れば、お昼ごはんタイムになった。


 ログアウトして何か食べようか、このままクエストしようか悩む。

 アイテムボックスの整理をしようと思い立ち、


 街の倉庫へと向う。

 倉庫は、個人用とクラン用のものがある。個人用は、同一アカウント内での共有が可能で、街中クエストをこなせば、初回に限り三十マス貰える。


 それ以上増やしたい場合、リアル現金(以降=課金と表記)をつぎ込み、十マス五百円で楽に増やす方法。もしくは、ゲーム内で反復のお使いクエストを十回ワンセットとして、十マスずつ増やす方法のどちらかを選択してやるしかない。


 アイテムボックスから、ゴミと素材を別ける。

 ゴミは、基本雑貨屋で買取をしてもらう。一ゼルでも売れれば儲けになる。

 そう考え、倉庫に素材になりそうなものを突っ込んでいく。


 そこで、グロイ試験管が目に付く……。

 あぁ。忘れてた。これって結局何に使うんだろう? 

 手持ちの鑑定スクロールを使い鑑定してみる。


 ============

  ゲイザーの体液

  重さ:2

  高級武器研磨剤の材料

 ============

 

 なるほど。武器の研磨に使うのか……これを? 

 ゴミではないことがわかり、倉庫に入れる。他にも、金属繊維や鉄鋼など鉱物採取で取得した材料を、倉庫に移動させた。


 次は、ゴミを捌きに行こうと雑貨屋へ移動する。

 と、ここで密談が届いた。


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