第9話 最強はクランを作る③
密談の相手はグランドロール――善悪の塔でボスにヒールした挙句、死んだ奴らのクラマスだ。
”アクセル” いる?
”ren” ?
”アクセル” ヘラクレスから、聞いて密談送ったけど?
”ren” グランドロールの誰?
”アクセル” マスター。で、用件は?
”ren” 昨日、ボス中妨害された。
”アクセル” それぐらい普通に皆やってるっしょ?
あんたこそ、うちのクラメンぶち殺しんでしょ?
”ren” ボスを回復するのがおたくの普通なの?
妨害って言うレベル超えてたら、殺すの当たり前だよね?
”アクセル” その場にいたメンバーが、ボスポイントで張ってたら。
勝手に移動させて、横槍入れてきたらしいじゃん。なめてんの?
”ren” 意味不。ボスの移動がダメなんて決まりあるの?
そっちが先に居たとしても攻撃して移動させることの何が悪いの?
アクセルの言い分は明らかにおかしい。私はボスを見つけた時点でディティクションスクロールを打ち上げて、周りにプレイヤーが居なかったことを確認している。
だが、アクセルたちは自分たちの方が先に居たと言う。
彼にクラメンが嘘を報告したと考えれば、おかしくはないけど……。
どのゲームにも暗黙の了解はある。病ゲーの場合、善悪の塔のボスに限って言えば最初に発見したプレイヤー以外が途中から攻撃に加わっても文句は言えないし、ボスのドロップも各自で持ち帰りコースだ。その理由は攻撃力――ボスにどれだけのダメージを与えるかでドロップが落ちる落ちないが決まるから。
ぶっちゃけ、途中で参加したらよかったのに妨害工作するグランドロールが悪い。
最初からけんか腰で、話にならないけど……。
”アクセル” 移動させる奴が悪いに決まってんだろ?
集合待ちしてただけで、先発は居たし、俺らの方が優先。
”ren” 馬鹿なの? FAも入れずに集合待ちしてました。で優先とかありえないしw
子供じゃないんだから通じるわけないでしょ?
”アクセル” FA入れた方が優先とか、お前の常識押し付けんなよ。馬鹿か?
”ren” はっ、常識ってどういう意味かわかって言ってる?
”アクセル” あーめんどくせー奴だな。もう終わった話だろ。
”ren” 敵対行為したんだから、謝るのが当然じゃないの?
”アクセル” 何で謝る必要があるのかわかんねー。お前、基地外じゃねーの?
これ以上はなしても無駄だと思い。密談を止めた。
アクセルに対してブロックをかける。これで、密談もチャットも見えなくなる。
次にやるのは、全チャに宣戦布告文――野良PTに参加する人は、争いを嫌うからだ。知っていてPTに入れている人は、クランが違おうが野良だろうが粘着して殺す。知らずにPTに入れてしまった人には、今後PTに入れないことを条件に一度だけ見逃すよと伝えるためだ――を流す
{[死神go] @@? マジ?}
{[ren] クラン、グランドロールに対し
この布告より二十四時間経過後、所属する全てのメンバーを
敵対とみなす。
敵対解除の条件は、猶予時間である二十四時間以内に
謝罪文を公式HPの掲示板に掲載すること。
公式でない限り認めない。時間を過ぎた場合も同様}
{[ゼウスマン] マジ! スキル書ゲットした!}
久しぶりの
一方的に会話を切り宣戦布告した私は、雑貨屋を目指し街中を歩く。街の中央にある広場には、大きな市場に露天が立ち並び活気に満ちている。
露天のほとんどは、プレイヤーに雇われたNPC――主に獣人だけど――たちが、指定された物品を売り買いするためのものだ。
病ゲー唯一の良い点と言えるだろうシステムにほっこりする。
何か面白いものは、売ってないかと散策しつつ販売専門の雑貨屋へ向う。
右へ左へと動かしていた視線の先に、魔法書が並ぶ露天を発見。
欲しい物がないか確認するため近付けば、店頭に居る獣人の頭上に噴出しマークが表示される。
吹き出しマークをタップして、四角い窓が開き【 販売リスト 】と【 購入リスト 】を出す。
今は販売しているものを見たいので、販売リストをタップ。すると直ぐに四角いウィンドウが表示される。
ウィンドウの中には、販売している魔法書の名前と販売価格の一覧が。
スクロールしながら、欲しい物がないか探すも残念ながら無かった。
私の職業である、ドラゴンマスターは晩成型だ。
Lv五で、単体に強い攻撃魔法ブレスオフアロー――単体にのみ有効、ドラゴンマスター特有のドラゴンのブレスを圧縮した無属性の攻撃魔法で、その有効範囲は広い――を覚えるのだが、その後使える魔法を覚えるのはLv三十になるまでない。
その間、ただひたすらブレスオブアローとサブ職で選択した数少ないスキル、精錬魔法を駆使し経験値を獲得しなけらばない。
漸く範囲攻撃魔法ドラゴンオブブレス――名前の通り、前方に限り広範囲に攻撃が可能。その範囲は単体より広い――を覚える。
その過程で魔法書が手に入らないとか育ちが悪いとかで萎え止めてしまう者が多く、その職のキャラクターを育てていること自体が稀有なのだ。
おかげでレイドでしか手に入らない魔法書は、ゴミ同然の価格で売られるのでありがたい。本当に極稀にしか露店で販売されないのが、痛いところだけど……。
他に良さげな露天もなく、雑貨屋に辿り付きゴミを売りさばくと、次の街ドリアスへ移動するため、転移ポータルへ移動し乗り込んだ。
浮遊感の後、景色が一遍するとそこは、巨大な木々を利用したハウスツリーが連なる――エルフの森なんかで良く使われるような、見た目の街なのにNPCはヒューマンしかいない――街だ。
ぼーっと、街並みを観察しつつ、露天を巡る最中私の右斜め前を歩くプレイヤーの名前が視界に入った。
「あいつ、昨日の……」
気付かれないようこっそりと後をつける。
盾と思われる戦士一人、重戦士と思われる大剣を持ったのが一人、メイジ二人、背に弓を背負ったアーチャ一人の五人PT……。
会話を楽しみ、歩いて街の外へと出て行く彼らの後をつかず離れず20分ほど追い続け、狩場と思しき森林地帯についたのを遠目から確認する。
尾行されていることにも気付かず、アマゾンのような森林地帯を歩き進んでいく。
魔法のエフェクトが見えない位置で、自分にバフをかけ、トランスパレンシーを使い。ゆっくりと、音を立てないように慎重に道を選び、残り10Mぐらいの距離まで近付いた。
幹の太い樹をできるだけ選び、しゃがんで戦闘開始を待つ。
気持ちが逸り、口の端を舐めニヤっと口角が緩る。
まだかな? 早く! 早く……殺したい。
中々始まらない戦闘に、イライラする。
はぁ~。もう良いや……。
溜息混じりに、モブとの戦闘開始を待たず、立ち上がると腰に差した二本の刀を抜き、ファイアーウェポンを自分にかけた。
姿勢を低くして、ギリギリまで見つからないよう気をつけ走る。
カサカサと草を踏む音がなるが気にしない。
一気に走りぬけ、距離をつめ、ウサギ耳の獣人であろうローブを着たメイジ職に、右の刀をスライスするかのように、差し込んだ。
包丁で肉を切るかのような、感覚を感じる。踏み込んだ足を回転させ、右に回りその遠心力を使い左の刀で肩から腰に向けて切り裂く。
「ギャ」
短い悲鳴をあげ、うつ伏せ倒れ込むウサギ耳メイジに留めとばかりに、刀を突き刺せば灰色へと変化する。
突き刺した刀を抜き、弓を構えるアーチャに、無詠唱のブレスオブアローをお見舞いする。被弾はしたようだが、刀ではダメージが少ない。
間を空けることなく、もう一人のエルフと思われるメイジへ走りより、左の刀を腰から胸へと振り上げるが、辛くも避けられてしまった。
「チッ」
身体を回転させる刹那、エルフメイジを足で蹴り飛ばす。
「グゥッ」
弾き飛ばした、奴を追いかけようと重心を移動させれば、横から顔目掛けて矢が飛んでくる。
顔に到達する直前、刀を引き上げ切り捨てると同時にバンッと音が鳴り目の前で矢が爆発する。
あの攻撃は、デバフ専用だと判断し直ぐに、バフ欄を確認すれば、きっちりと火傷のデバフが付いていた。
追撃だとばかりに、攻撃をしかけてくる戦士二人を交わし、アイテムボックスから火傷の効果を消す、氷結のポーションを取り出し飲む。
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