第7章 ロッカーの中身
コインロッカーは大きな駅の中にあった。
ただ、賀原絹代が利用していたのはよくある一時的に荷物を預ける簡易的なものでは無く、1ヶ月定額制のレンタルスペースに近いものだった。
サイズは普通のコインロッカーと同じくらいで、契約書の内容物の部分には仕事道具と書かれていた。
それに加えて賀原絹代は別料金を払ってスペアキーの契約も結んでいた。余程大切なものを保管していたのだろうか?
管理会社によると、料金は現金で半年分を前払いしていたそうだ。使用に対しても全く問題無く、優良なお客様だったとの事だった。
「とりあえず、令状あるんで開けてもらえませんか?」
管理会社の人に扉を開けてもらう。
自分の心臓が早鐘を打つ。
中には箱に入った少し大きめの試験管の様なものが何本も綺麗に並べられていた。隣には白いシールの束もある。そして紙袋の中に、着替え一式が入っていた。
「なんじゃこりゃ。」
先輩がつぶやく。
「何でしょうねぇ?母親の話だと医療サンプルを集める、とか言ってませんでした?」
「あぁ、入れるの?コレに?ふーん」
先輩は考えながらも
「鑑識に回そ」
と言った。
自分はダンボール箱を取りに車に戻りながら考えた。
【あの容器は何に使うのだろう?医療サンプルだから容器が必要なのか…。でも一般の女の子がそんな簡単に医療サンプルなんて集めれるのかな?】
ダンボール箱を手にロッカーに戻ると、先輩が嬉しそうに
「おい!防犯カメラあるぞ!データも6ヶ月前まで撮ってあるって!」
と言った。
賀原絹代が殺されたのがおよそ4ヶ月前だから、もしかすると荷物を出し入れする彼女が映っているかもしれない。
我々はそのまま管理会社に出向き、防犯カメラ映像のデータを受け取り、ロッカーの解約手続きなどの為に賀原絹代の両親の連絡先を置いて帰った。
鑑識の結果、試験管のような物は、直径6センチ、長さ15センチ程の清潔なシリコン製の容器だった。
そして、頼みの綱だった防犯カメラにもしっかりと賀原絹代は映っていたのである。
日付けは遺体が発見される前日の12月15日だった。
賀原絹代は白いコートを羽織り、白いハイヒールを履いていた。コートの下からは黄色いスカートの裾がチラリと見えている。
自分は、
「え?コレ賀原絹代ですか?」
と聞いてしまった。
画像解析をした担当者は少し小馬鹿にしたように、
「別人だと言うんですか?」
と言った。
先輩も
「コリャ、なんかあるよなー。全然イメージ違うじゃん。コレさ、顔が一番映ってるトコ出力しといてよ、聞き込みで使うわ。」
と指示を出している。
部屋に掛かっていた服とは全く違う、鮮やかな黄色のスカートは、今まで何の特徴も無く、地味で大人しい印象の賀原絹代とは全くの別人のように見せていた。
顔は化粧気が無く実年齢よりも少し幼く感じた。
賀原絹代は着替えが入った紙袋をロッカーに入れると、中からシリコン容器とシールを取り出した。
小さめのトートバッグにそれらを入れた後、鍵を閉めてその場を離れている。
映っていた事に安堵はしたが、賀原絹代はあの服を着て、どんなバイトをしていたのだろう?
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