第4章
数日後、賀原絹代の母親と彼女のアパートへ向かう事になった。
母親はこちらの問いかけにも上の空の様な返事しかしなかった。
母親は部屋に入る時にボソッと
「間違いないはずだったのに…。」
と言った。
「え?部屋選びを占いか何かで決めたのですか?」
自分がたずねると、その問いに母親は
「いえ、イディブレインの方が決めてくださいました。」
「イディ?何ですか?」
「イディブレイン。思想組織です。どんな事も決めてくださいますから。安心でしょう?」
「はぁ。」
なんだか訳がわからない。
「私達夫婦は、ずっとお世話になってるのよ。どんな時も力になってくれるし、主人の病気の事だって、とっても親身になって聞いてくれるから、私達家族はいつも助けられてきたの。それなのにこんな事になって。やっぱり私達の元から離したのがいけなかったんだわ。」
母親は先程までのテンションとは別人のように喋りだした。
なんだか面倒臭そうな話だなぁ。
直感的に思った自分は、話を変えた。
「以前、お話ししたように、絹代さんは誰かに殺害されたのだと思われますが、殺害されたのはこの場所ではありませんので、荷物などのお引き取りとこの部屋について、解約などして頂く必要があります。まずはこちらにサインをして下さい。」
「はい。」
「部屋の中で、何か変わった物や、絹代さんの持ち物では無い物、逆に無くなっている物はありませんか?どうぞ確認して下さい。どんな些細な事でも構いません。おっしゃって下さい。」
「はぁ。」
母親は気が乗らないのか、ボソボソと作業を始めた。
それにしても、淡白と言えばそれまでだが、余りにも素っ気ない態度だ。
遺体が娘であると確認した時と、遺骨を受け取った時は身体が震えている様であったが、普通ならもっと取り乱したり、こう…必死になるようなものではないのか?
母親の態度にムカつきを覚えて来た時、母親があの下着の入った引き出しを開けて、
「ひゃあぁっ」
と悲鳴を上げた。何かおぞましい物でも見たような感じだ。
「どうしました?」
「この子、こんな派手な下着を!一体どうしてっ!こんなっ!こんっな
はしたない下着を付けていたなんて、信じられない!!」
「え?そうですか?絹代さんの趣味では無いと?」
「当たり前です。こんな物、あの子が好きで付ける筈ありません。どうなっているの?」
母親はイライラした様子で、下着を床に投げ捨てている。
床に叩きつけられた下着は、その衝撃でフワリと形を崩し、それはまるで花が咲きほころんだ様にも見えた。
色の無い部屋の中に次々と散らかっていく下着をぼーっと見ていると、母親は全ての下着を出し終わりこう言った。
「だからあの方々の助言が必要なんだわ!全てにおいて!
刑事さん、コレはあの子が買った物では無いわ!調べて下さい!こんな物を付けてるから殺されたのよ!
主人には絶対に言わないでよ!余分な神経を使わせたく無いから!」
「わかりました。そうします。他に気になった点はありますか?」
「ありません!」
部屋を出て大家の元へ向かい、解約の手続きや荷物の運び出しについて話しをした。ただ母親が余りにもイライラしているので、大家がビクビクしていて少しかわいそうだった。
母親は署に戻った頃には、多少落ち着きを取り戻した様子だった。
「あの、後日ご夫婦お二人に絹代さんについてお聞きしたいのでお時間取れますか?」
「二人ですか?主人にも聞くんですか?」
と、いぶかしげに言った
「なにかご都合が悪いですか?」
「病気なんです。主人は鬱病で、余り神経に負担を掛けたく無いんです。」
「わかりました。決して無理はさせませんからよろしくお願いします。」
母親はうなづいて帰っていった。
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