memory:6 少年少女、アメノトリフネへ
かくして三人の合流を見た訳だが、ある意味それが来るべき事態への備えでも
彼らは確かに宗家特区内に住まう一般人ではあるも、データで確認した限りでは間違いなく問題児指定を受けた子供達。そもそも連絡を取った時点で、冷ややかな扱いや彼らを使い己の懐を賄わんとした親御には心底呆れを抱いた所。
仮にも大切な家族たる彼らを、親御方は人権さえ無視した扱いに終始していたんだ。
「初めましてで、急な招待になった事をお詫びしたい。俺は
「……あんたは俺を利用するために声をかけたのか? 」
恐らくはその親御の態度が酷く影響していた彼ら。中でも大人の都合に引っ掻き回されたであろう彼……
故に彼への嘘偽りはその心へさらなる追い討ちをかける事になると……俺は言葉を選び、敢えて事実をまず告げる事とした。
「否定はできないな。特定の子供達と言う条件をクリアするためとは言え、君達を利用する形になるだろう。そもそも我ら機関が、これより君達へ一日体験をと集めた誘いは最終的にそこへと帰結する。つまりは、間違いなく君達を利用すると言う事実だ。」
アミューズメント施設駐車場で、彼を含めた子供達を乗せた
僅かの沈黙を挟み、
「ずばりそれを言ってくるぐらいだ、その辺の大人より全然信用は出来るな。どうせ俺もヒマだし、家に帰ろうと金づるに使われるのは正直御免だから。一日くらいは、適当に付き合ってやるよ。それ以降は状況を把握してからだ。」
「ありがとう、それで構わないさ。何より君達自身の意志こそが、今後の機関運用に拘わって来るからね。」
彼が洩らした事実で理解に至る。その親御は彼が持つ能力を金銭の絡む何かしらへと誘導せんとしている。事を望まぬ彼の了承も無しに。
昨今溢れた一部の子供のメディア進出の影では、子供達の
「……なんか他人の気がしないわ。そっちのニート確定さんも同じなの? 」
「い……一体その名をいつまで続けるんですか!?この友達いない子さんはっ! 」
「いやだから、名前まだ名乗ってないでしょうがあんた(汗)。私もそんな呼び方されてる内は名乗らないわよ? 」
と、彼の心情から今までの悲惨な家庭状況を推察していると……なにやらまた後で揉め始めてしまった。それも相性が悪いと言うより、互いが素直になれない感じは否めないが。
それを見やった苦笑の俺と呆れ顔の
そこへ着陸する輸送機より、彼らを我らが誇る守りの要……地球防衛施設〈アメノトリフネ〉へと招待するために――
†††
ジェット音が太平洋の空を振動させ、宗家が擁する輸送機が天を舞う。搭乗する少年少女を一時機内へと移した状態で。時間にして一時間もかからぬフライトであったが、子供達にとっては未体験の出来事となった。
「ちょっ!?雲、雲だよ!? 周り全部雲だよっ! こんなの初めてっポイ! 」
「……あーうん。すげぇな。俺も旅客機とか乗った事ないからな。けど初体験の空のフライトが、ガチ軍事輸送機ってどうよ(汗)。」
乗員用フライトルームでシートベルトに固定される
「何をはしゃいでいるんでしょう。これからもっとスゲェイベントがあると言うのに。ロボットですよロボット……それに乗ればきっと空なんか当たり前に飛行して、でっかいドリルにすんげぇビームをどかんと放ち――おっといけね、よだれが出て来た。」
「……うん。なんか、話には聞いてたけど……やっぱりあんた引きニート確定だわ。」
「ししし、失敬ですね!この友達いない子さん! ロボット物アニメを知らぬあなたは黙ってて下さい! いいですか、ロボット物アニメと言うものはですね、よく上辺の内容だけで語られる事も多いジャンルのSF作品ですが――」
「そこには人類への啓蒙や啓発と言ったメッセージを込められた、それはもう考えさせられる人類の至宝とも言えるサブカルチャーなのです! それを一つにまとめたかの名作ゲーム〈鋼鉄機大戦〉をなめてもらっては困りますね! 」
「おーい、そこの友達いない子さんよ。そのオタッキー機関銃を止めてくれねぇか? 」
「なっ……!? あんたにまでその名で呼ばれる
「バカにしてんのかよ……(汗)。」
未だ名乗りを済ませていない彼らは、互いに互いを特徴から来る勝手な名前で呼び合う中。
「まあまあ……今日は一日体験の仲だ、皆。今日ぐらいは協調性を重んじてもいいんじゃないか? まずそちらのゲームに没頭する彼女は
「「仲良くなんてありません! 」」
「ハモってんじゃねぇかよ。」
「はは……。そして彼は
強引な自己紹介が人任せに行われる中、憂う当主が言葉に混ぜた互いを傷付けるなとの注釈は、柔らかに……しかし確実に子供達へと刻まれて行く。それは彼らが、共に親御や社会に刻まれた深い心の傷を持つ同士と察して欲しいとのメッセージ。
憂う当主は、子供達が皆心へ傷を持つ者であると理解に足る様促したのだ。
それから暫しの時間輸送機がジェットの爆音を吐きながら太平洋上空を舞う。程なく彼らの視界には大小無数の島々が映った。当然、その中心に広がる未体験の光景に子供達は息を飲む。
「……く、草薙さん。ここ洋上ど真ん中だよな? なんであんなデカイ人工施設が? 」
「マジガチでデカイじゃん。何なの?これ。」
「……ひ、ひ……秘密基地!? 」
三者三様の驚愕が走る中、憂う当主は宣言する。これより少年少女へ一日体験と言う体で
「目にした通りだ。島は最長で2kmに達する人工島。しかし全体が失われた
当主の口にした
その光景を目にし、静かに洋上へ視線を移した憂う当主。何れ訪れるであろう未知なる脅威へ、険しき双眸で意識を飛ばしていた。
が――その脅威となる存在は、彼らの想像を上回る勢いで地球と言う大地への侵攻を開始していたのだ。
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