魔術師triple
@yousoeki
第1話 二つの魂
目を開けると見慣れない天井があった。僕は事故にあって死んだはずだった。でもまだこうして生きてるってことはここは病院なのか。
「朝ごはんできたよ! 早く降りてきて! 」
そう下から声がした。おかしい、僕は怪我人だ。普通であれば朝ごはんはナースさんが持ってきてくれるはずだと。だがここで僕は気づいてしまった。"どこも怪我していない"ことに……。僕は確かにバイクにはねられたんだ。骨折だったとしても完治するには1ヶ月はかかるだろう。だが身体を動かすことが出来てしまうこの現状がわからない。事故のこと以外何も思い出せない。その事故で死んだとさえおもったし、自分の血が流れるところだって見えていた。最後は意識が朦朧となっていって……そんなこと考えてるうちに部屋に誰か入ってきた。
「お兄ちゃん何してるの! 早く行かないと学校遅れちゃうよ」
目の前には中学生ぐらいの女の子が立っていた。誰だこの子。というか、今なんて言った?お兄ちゃんって言ったか?おかしい。僕に妹はいないはずだし聞き間違いだろ。
「入学式から遅刻しないように起こしてって言ったのはお兄ちゃんでしょ!! 」
「お、お兄ちゃん? 僕が君のお兄ちゃん? 」
そう言った瞬間僕の目の前に水色の縞々パンツが……ドロップキックくらった。意味がわからない。このご時世にドロップキックで起こされることはない。多分。
「いいからさっさと起きて! お姉ちゃんがご飯作って待ってるよ! 」
ドロップキックをお見舞いしてくれやがったこの女はそういいながら僕の手を引いて下の階へと連れてった。
それにしても状況が全く掴めない。そんな時僕の頭の中で男の声が響いた。
『おはよう。そいつは西園寺ソフィア、15歳。僕の妹さ。他にもリーナっていう16歳の姉がいる。そして俺は西園寺レオ、15歳。つまりソフィアの兄ってわけ』
周りを見渡しても声の主はいなかった。可能性としてはテレパシーなのだが、もう僕の脳味噌では情報処理仕切れない。とりあえず心の中でそいつに向けて言葉を発してみる。
『君の名前がわかったところで君の姿が見えない。というかこの状況が全く理解できないんだが』
『話すと長くなるから重要な点だけまとめて伝える。いいか? これはまず僕の身体だ。そして今日は魔術学校の入学式。それと姉と妹に手を出したら殺す。以上だ。』
「いや、待て待て待て待て。一文として理解できなかったんだが? 」
「お兄ちゃん誰と話してるの? もしかして高校一年生にもなって厨二病になったの? うわ、引くわ……」
心の中で言葉を発していたはずだが、驚きすぎて口に出てしまっていたようだ。妹さんに痛い子呼ばわりされたのは正直悲しい。
『おいテメェ!! 妹にキモがられちゃっただろうが!! どうしてくれんだよ!! 』
『どんまい厨二病お兄ちゃん』
『わかった、今すぐにでもお前を殺してやる! 鼓膜破れて死ねやオラァ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ』
めちゃうるさいぞこいつ。頭の中でキーンとこいつの声が鳴り響く。つい頭を抱えて声を漏らした。それを見た妹さんは大層引いていた。厨二病特有の、俺の古傷が痛むぜ、的なものだと解釈したのだろう。僕の人生の中であそこまで人間を見下すような瞳を見たことがない。いい体験が出来たありがとう。そしてバカやってるうちに部屋についた。
「レオくん。あと30分しかないわよ! 朝食そこに作っておいてあるから。姉さんはもう学校に行くからね。後片付けもよろしくね」
「リーナ姉、待って! 私も一緒に行くから! えっと、お兄ちゃんはゆっくり朝ごはんでも食ってれば? あと厨二病感染るから治るまで近寄らないでね」
『だとよ、お兄ちゃん』
『ソフィアァァァァァ! お兄ちゃん拗らせてないから。健全で頼れるお兄ちゃんのままだからぁぁ』
本当にこいつうるさいぞ。頭の中でピーピーピーピー泣きやがって。しまいには入学式サボるぞ。
「では、行ってくるわねレオくん。戸締りもお願いね」
「さよなら〜。お兄ちゃん」
『ソフィアの『さよなら』にとてつもない悪意を感じるよぉ』
悲しい姿(姿は見えないが)をしているこいつを尻目に僕は朝食を食べ終え皿洗いを済ませた。そしてレオに案内され(脳内で指示された)制服を着てその他諸々の支度を終えた。
『ここから学校まで何分かかるんだ? その間に話してくれよ、君は知ってるんだろこのことについて』
『15分ぐらいで着くさ。あとさ、俺の事はレオと呼んでくれ。君と僕は多分一生このままだから親しみを持って接していきたいしな』
『わかったレオ。僕は…………すまん。今はまだ記憶が曖昧で名前が思い出せん。まぁ一生このままなら相棒とでも呼んでくれ』
『記憶が曖昧なのか……まぁいい、わかったさ相棒。じゃあこれから少し長くなるがここの事について話すよ』
僕はレオの家を出て学校に歩き始めた。外の景色はまるで見たことがなく、道行く人も知らない人だらけだ。桜も咲いてるし日本でいう春だろう。
『まずだ、なぜ相棒が俺の体に入ってるかだ。それについては俺にもわからない』
『わからないのかよ』
『まぁ聞いておけ。俺の姿が見えないのが何故かってことは分かる。それは俺が何者かに殺されたからだ。そして魂だけで彷徨ってそんときに神様に会ったからなんだ』
『神様? 』
『あぁ、そうだ。神様だ。そこで俺は神様に『もう1度生を与えてやろう』と、言われたんだ。でも俺は最後まで話を聞かずに、何度もわかりました、って言ってたんだよな。妹と姉に会いたかったからな。そして気づいたら俺の体が見えた。幽体離脱ってやつに近いな。傷も無くなっていたし犯人の痕跡も見つからなかったからわからずじまい。妹や姉に幽霊状態で会いに行っても気づいてもらえなかったんだ。仕方ないから俺の体の中に入ってみたんだが、体は動かせなかった。それからこの体から出ることも出来なくなって今に至るって感じだ』
酷く悲しげな顔でレオはそう告げた。再び生を受けたってのに家族にも認識されないなんて辛いだろうな。しかもこいつはシスコンとみた。気づいてもらえなかったことに相当なショックを受けたのだろう。いや、シスコンは関係ないけどね。
『レオのことは分かったよ。で、他にも聞きたいことがある。魔術学校って何だ? 今から僕はそこに行くんだろ? まず魔術という概念がこの世界には存在するのか? 』
『魔術という概念のない世界からきたのか。でもこの世界にはその魔術という概念がある。魔術についてはそうだな、百聞は一見にしかず。手を開いて前方に向けてウォーターって言ってみてくれ』
『こうか? ウォーター』
そういうと手のひらに魔法陣?が出現しその真ん中から水がチョロチョロと出た。その瞬間異世界に足を踏み入れたのだ、と脳髄に至るまで認知した僕は思わず叫んでしまった。周りの人がいたら本当に痛い子認定されてしまう。街の真ん中で叫んでるやつがいたら誰だってそう思うでしょ。
『すごい喜ぶな、相棒。それでそんなに感動するならもう今日死んでしまうかもしれんな』
『大丈夫!! 死にはしないぞ! 魔術ってものを初めて見て興奮しただけさ。あとで他にも教えてくれよな』
『そうだな。学校の恒例行事として入学式の後に奥義を授かるんだ楽しみにしておけ』
『必殺技の事ですか! うっひょーーー! マジでテンション上がるね、入学式早く終われ! 』
『入学式のことなんだがな……』
レオは何か言いたげにしていた。
『俺は今回の入学試験の首席で、代表者に選ばれたんだ……この意味わかるだろ? 恒例のスピーチがあるのさ。内容はもちろん僕しか知らない』
僕は全てを察した。この後全校生徒の前で恥をかくのだと。
『ま、まじかよ。で、でもさ、ま、魔術ならさどうにかできるんじゃないの? 記憶共有とかさ』
レオから返事は返ってこなかった。そうですか、恥をかけってことですか。アドリブで乗り切るんですね。いいじゃないか、やってやろうじゃないか。
『原稿はここにある。流れだけ覚えてビシッと決めてくれ』
『いや、きめれるかーーい』
僕は学校に入ってまずトイレに直行。そして式が始まるまでがむしゃらに覚えた。覚えまくった。校内放送で呼ばれて慌てて体育館へ移動した。
そして式は無事に終わった。極限状態に追い込まれると人間以外とやれるものだ。まぁ何回かレオが囁いてくれたわけだが。そんなことを思っていると、
「西園寺くん、さっきのスピーチよかったわよ」
こちらは僕のAクラス担任の桐ヶ谷サナ先生。おっぱいがでかい。
「ありがとうございます先生。これから一年間よろしくお願いします」
「わ、私も頑張って指導していくからね。ドーンと任せてちょうだい」
先生は22歳の新任教師らしい。緊張しているのだろう。にしてもおっぱいおっきい。さて始業のチャイムが鳴った。号令を済ませ、軽いショートホールルームが始まる。終わった。そして自己紹介に移るわけだが……先に言っておくと、このクラス4人しかいない。僕とその他全員おっぱいで構成されている。ごめんなさい、女子である。体育祭とかそういう行事はBクラスと合同して行うそうだ。
「では、自己紹介をしてもらいましょう」
早速だな。ここが正念場である。だが入学式を乗り越えた僕には自己紹介などeasy thingというわけ……にも行きそうにないな。女子が多い。僕にないものをいっぱい持っている異性はやはり僕には特別に映る。どこ見たらいいのかわかんないよね。
「では私から」
バカなこと考えてる間に始まってしまった。
「私の名前は伊藤ハルミですわ。私の専門分野は重力系魔術です。これから一年間よろしくお願い致しますわ」
清楚お嬢様だ。好みのドストライクと言っていい、その長く美しく黒いロングヘアーは僕の目をそこは釘付けさせ……そうになるがその実胸部にしか目がいっていない。
「次は私。私は涼風メイ。風の魔術が得意」
あっさりとした無口おっぱいメガネちゃんの紹介が終わった。髪は赤色で甘い香りがさっきから香ってくる。いいね。さてお次は僕の番だ。
そして先生に『西園寺くんどうぞ』と呼ばれ思わず、ひゃいっ、といってしまう。どうしよう、入学式でのスピーチの威厳ある姿をぶち壊し抜けた。ええい、こうなりゃやけだ。
「オ、俺の名前は西園寺レオ。クラスに男子は俺一人、その意味がわかるかい? んじゃ、そういうことでよろしく頼むぜ」
おい、いっそ僕を殺してくれ。バイクの事故で死んでいた方がマシだったんじゃないかってレベルで恥をかいた。何をいってるんだ僕は。あれ、母性の塊のような先生が苦笑いしてる。オワタ。登校初日に詰んだ。
『おいどうしてくれるんだ。死んだぞ西園寺レオという1人の人間が! 」
『本当に悪いと思っている。僕だって穴があったら入りたい』
この言い争いは日常茶飯事になりそうだ。
「お兄ちゃん……」
ん?誰だ?聞いたことある声が聞こえた。そうだ、朝にドロップキックされた時に聞いた声だな……え?
「私はソフィア。訳あって、今! この場で! 姓を名乗りたくない。あと補足させてほしいのだけど、横の席の人は絶賛厨二病らしいので、さっきの発言はなかったことにしてあげてください。そしてさっさと死んでください。一年間よろしくお願いしますね〜。先生を含め"4人"でやっていきましょう」
ツッコミ追いつかねぇ!なんでレオの妹のソフィアがここに!?というか先生含め4人って……あれ?一人足りなくないですかねぇ?
『おいなんで、妹がこのクラスにいるんだよ! 』
『視点がお前と共有されてるからさ、女性の胸しか見えてなくて気づかなかったな。今回の飛び級特待生ってソフィアの事だったんだな』
『さらっと今言ってはいけないことを口走ったね! さっき目線に困るっていってたのが嘘みたいじゃないか! 願望ありまくりみたいじゃないか! 』
『ソフィアと同じ教室で過ごせるのか……ぐふ、ぐふふふふ、グヘヘへへ』
先生、僕よりやばい僕がいます。妹さん逃げて、超逃げて。
「え、えーと、自己紹介も終わったことですし、みんなで魔術広場へ行って奥義を得るための儀式を行いますよ」
そして僕らは移動した
魔術広場は想像以上に大きかった。この学校代々伝わる地下で奥義を授かれるらしい。生徒は順番に奥義を授かりその場で発動確認する。発動確認は奥義が暴発するのを防ぐために担任の先生の前で見せるためらしい。
「ここでは奥義以外の魔術は使用禁止です。といっても発動させようにもこの地下に埋め込まれた石に魔力を吸い取られてしまうのです」
先生はそういって中心の床に埋め込まれている石を指差した。その石はとても綺麗なエメラルド色をしていた。
「では始めますよ。では伊藤さんから順にこの石の上に立って、詠唱してください」
「先生、詠唱って何言えばいいんですか? 」
「いつものでいいですよ」
そのいつものってなに?知らないんだけど、というかさっきからレオが反応しない。魔術の一種だから吸い取られてるのかな?だとしたらさっき言った一生このままというセリフがフラグにしか聞こえなくなってきた。
『すまん。寝てた』
『生きとったんか、ワレ』
生きてました。ひとまずよかった。あ、僕の番が来た。詠唱で何を言うか決めてなかったな。まぁなんでもいっか。
「では西園寺くん前へどうぞ」
「はい。では、行きます」
僕は息を整え詠唱に臨む。
「我の声が聞こえるか我が同胞よ、聞こえているのであれば我に力を与え給え」
周りがざわめいているが気にしない。ソフィアの冷たい視線がささる。でもめげない。気にしない。
「なんだ、まだ詠唱が足りぬのか、くっくっく、ではまだまだゆくぞ。深淵より深き我が心の中に……」
とかいってる途中でエメラルド色の石が輝きだした。
「眠りし魂たちよ、今こそその眠りを覚ますが良い。我が全て解放された力を受け止めてやろう」
そこまで言った時エメラルド色の光が体を包み込む
思わず目を瞑ってしまった。やがて輝きを感じなくなったので目を開けると体がその色に光っていた。うぉーーー、興奮がマックス。さっきのどこか痛い詠唱もすっかり忘れていた。
その後ソフィアも詠唱を終え奥義を習得したようだ。さてこっからが奥義のお披露目タイムってわけだ。
伊藤ハルミ、奥義はインフィニティグラビティ、名前ではそういってるがその実、直径4メートルの円内の重力を5倍にするというものだ。なんというかしょぼい。インフィニティっていってるくせに5倍なのは何故だろうか。いや十分重たくなるけど。奥義というものは本人の魔術力の練度によって新しい効果が付与されたり、中には効果さえも違うものになることがあるらしい。だから誰でも伸び代はあるってことだね。よかった。
次は涼風メイ、奥義はハリケーン、風がもうすごい。女子のスカートが風でなびくからさ、ずっとそれ見てたわけさ。先生のスカートはOL風だから残念だったね…下から上に風を、そして先生のスカートを破け!とは思った。そんな卑猥な技じゃない。威力としては50キロの女性なら吹っ飛ばせる程度のものらしい。奥義としては重力のが強いかな。ただ、効果範囲が直径10メートル円型。かなり広い範囲で使えるって点がミソだ。
次は妹のソフィア。奥義は吸血。さっきからカタカナ技が多いが、漢字表記の奥義が一番強いらしい。つまり奥義名も成長すれば漢字表記になったりするんだ。やったね、妹ちゃん。最初から漢字表記だ。吸血は傷つけた対象の体力を吸い取り自分に還元できるらしい。とりあえず相手にダメージを与えれば良くて、常に発動しておけば良さそうだね。奥義なのに常に発動するっていうのはちょいとおかしい気もするが。
「では最後に西園寺くんどうぞ」
「おっす! やってやるさ存分に! 」
厨二病を拗らせてる僕は右手を前へ出し奥義を発動させた。だが予想していないことが起きた。
左手からも奥義が発動されてしまったんだ。
「先生! 右手から闇、左手から光の奥義が出てるんですけど」
「西園寺くん……いや、まさか本当に……」
『どういうことだ、なぜ二つ習得が出来たんだ……』
レオの様子がやけにおかしい。頭のおかしいシスコンがかなり困惑しているご様子。
『おいどうしたレオ? これってそんなに凄いことなのか? 』
『奥義は一人につき一つのはずなんだ。なぜ二つも……』
『じゃあ片方お前のだろ、俺たち"二人で二つ"だったわけだ』
周りの女子も先生も唖然としている。そう、普通ではあり得ないことなのだ、二つの奥義を持つということは。
「西園寺くん。これからはより一層鍛錬に励むのですよ。歴代で2つの奥義を発動させた者は、体が奥義の魔術力に耐えられず、"最悪1ヶ月以内に死に至ります"からね」
先生はそう告げた。突然の死の宣告。この先僕はどうなってしまうのだろうか。これがすべての序章に過ぎないわけだが、ここから僕とレオの学園生活が始まる。この奥義を完全に習得した先に未来があると信じて。
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