タイトル.67「名物タワーへようこそ」
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この街全体の放送を操作する電波局塔の麓。一同は到着と同時に見上げている。
「ここに、奴が……」
アキュラとレイブラントは今すぐにでもこの塔へと足を踏み入れようとした。
レイブラントの旅の目的はオルセルを見つけ出し、街をメチャクチャにした一件の罪を贖ってもらう。
そして、彼以上にオルセルへの憎しみを深く持つのはアキュラだ。
便利屋同盟という裏の世界に足を運び、その手を幾度なく汚し続けながらも身を潜め……資金を集め、力を蓄え、あらゆる準備をした。青春を犠牲に揃えてきた。
「ようやく、だ。ついにこの日が来た」
これもすべて、故郷を焼き払ったオルセルへと復讐するために。
あの日耳にした残虐な言葉。政府へ逆らえぬよう精神的攻撃を主としたアピールの生贄として。特に価値もないと断言された街を平然と焼き払う宣言をしてみせた。
「お前をブッ殺す、この日がッ……!!」
あの日の屈辱、あの日の無念。その日々が怒りとなる。
ついにあのクソ野郎をぶっ飛ばせる日が来たのだと、心が躍り狂う。アキュラは無意識のうちに右手に炎を纏い始める。
「……レイア。試しにあの塔を撃て」
ス・ノーは塔を指さし、得意の高火力魔法でぶっ飛ばすよう指示を送る。
「えぇ? 僕は別に構わないけどそんなあっさりとしちゃっていいのかな? 演出としてはここまでのモノなのに過程をすっ飛ばすような真似なんかしちゃってさ」
「ドラマや映画の撮影じゃないんだ。見映えの問題を気にしている場合か……時間の無駄だ。早くしろ」
「は~い。リーダーはロマンがわかってないもんで」
そんなクソにもくだらない事に時間を潰している暇はない。こんなバカな漫才を繰り広げている間にもオルセルはアトラウスの雷を再び大地に落とすかもしれない。
オルセルの暴走で統一されていく世界。それだけは許してはならない。
「それじゃあ準備を進めるんで。護衛の方をよろしくお願いしますっと」
レイアはさっとステッキを取り出し、塔に向けて振り上げる構えをとる。
「……正直、僕も非常に腹が立ってるんだ。あまりにも下品で気持ちの悪い顔を画面いっぱいで見せられて、気分が悪いんだよ」
今までにない魔力を秘めた魔方陣をその場に展開する。
“破壊” “蹂躙” “討滅” “灰塵”
小声で早口。その口からは聞くだけでも物騒な言葉の羅列が目立つ詠唱を行っている。魔方陣の数は彼女の内側で秘めた苛立ちを体現するかのように多く禍々しく、鮮血のように赤黒い輝きを放っている……確実に殺しにかかっている。
「いくよ……〚パーフェクトアンドロメダ〛!!」
地面に展開されていた魔方陣が消滅。瞬時、魔方陣は塔の真上へとワープする。
魔方陣は別の次元をつなぐゲートのように虚空へ大きな穴をあける。穴の開いた先に見えるのは別世界でも何でもない未知の領域。
“宇宙”だ。
そして宇宙より召喚されたのは……“街一つ壊滅させるには十分すぎる破壊力を持った小隕石”。
「……おい、俺たちまでやる気か?」
「大丈夫だよ。あの塔を潰すと同時にワープホールを下に移動させて、また宇宙へと戻す!」
なんという原理もクソもないトンデモ魔術。しかし呼吸一つで超高火力魔法を撃ててしまう彼だからにこそ実現できてしまう荒業なのだろう。
「さぁ! 僕の芸術品に埋もれてしまえ!」
隕石はゆっくりと、塔に向かって落ちていく。
オルセルの待つ市長室のあるフロアへと……衝突した。
「やはりダメか」
しかし、衝突こそしたが。
「なっ!?」
“破壊”には到達しない。
受け止められた。目には見えない結界らしきバリアがレイア渾身の最大火力を受け止めてしまったのだ。
「おいおいおい。嘘だろ、マジかよ」
……隕石は塵となって粉々になっていく。バラバラに粉砕され、風にさらわれ消えて行ってしまった。
「やはり、そう易々とはいかせてはくれまいか」
ス・ノーは分かり切っていたような表情でこの結果に落胆していた。
ある程度の施しはしているとは思っていたが、まさかレイアの最大火力を受け止めるに至るとは正直思っていなかったようだ。
「ぼ、ぼくの芸術がっ……バラバラァアアッ……!!」
一番ショックを受けているのは真っ白に固まっているレイアであった。渾身の必殺技がこんなにあっさり不発に終わってしまったのだから。
「だったら、やることは一つだろ」
腕にしみついた炎を振り払い、アキュラは電波局へと歩き出す。
「直接殴り込む!」
「……やれやれ、結局はこの流れ、か」
戦略的な考えも何もない正面突破。しかしレイブラントは最早その空気に慣れたようにアキュラの背中を追う。
「行くぞ。少なくとも、お前はまだ役に立つ」
殲滅だけが取り柄ではないことを彼に言い残し、ス・ノーもアキュラ達に続いて電波局の入口へと向かう。
「……認めるものか! 僕の芸術があんな下品に負けるなんて!」
納得のいかないレイアも当然、この結果を払拭するべく背中を追いかける。
「ケリをつける」
正面入り口に待っているのは数体のパトロールロボットとバイオ人間ジャイロエッジ。やはりお出迎えはいたようだ。
「……
アキュラの右手が燃え上がる。
「
一発のファイアボールが正面のパトロールロボットに命中。
瞬間ダイナマイトに匹敵する大爆発。近くにいたパトロールロボットは勿論の事、ジャイロエッジの大群も爆散して消えてしまう。真後ろのオートロックの扉も容易く粉砕され、一同を歓迎するように全開となった。
「行くぞ」
アキュラの合図とともに一同は走り出す。
市長室まで前進。当然、その道を塞ぐためにロボットとバイオ人間が現れる。
邪魔するものは焼き尽くす。
邪魔するものは押し通す。
邪魔するものは凍らせ砕く。
邪魔するものは塗りつぶす。
突撃思考。撤退断固拒否。
総攻撃は今、ここに狼煙を上げた。
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