タイトル.53「電波ジャック大計画(前編)」


 ヨカゼが指定した座標を確認する。

 人里から遠く離れた高原地帯。工業施設にも近い形で保護されているそのテレビ局の名前は【スカイ・クロス・TV】。


 一同が解説した通り、ここで撮影される内容は主にぶっ飛んだ内容とマニアックな線をいった番組のみである。とてもじゃないが、お昼の情報番組や夜のゴールデン番組では勿論の事、深夜放送すらも許されるか怪しいレベルの内容ばかり。

 ケーブルテレビのみでの放送だ。調査番組やコメンテーターの討論会は爆撃会と言われるほど鮮烈であり、バラエティ番組は過激なものがとことん多い。アダルトに至っては攻めるところまで攻めている。

 そのため、デモやテロなどを未然に防ぐためにここまで離れた場所に。


 あのテレビ局は----

 “政府によるプロパガンダを目的とした戦略施設”と呼ばれているのも風の噂。

 現在、テレビ局は最低限の護衛艦とAIによって封鎖されている。


『……?』

 一隻の小型護衛艦の指揮官と思われる人物がスピーカーの電源を入れる。

『各自警戒。前方より熱源反応だ』

『こちらも確認した』

『このスピードは戦闘機……いや、それにしては反応が小さいな?』

 護衛艦の数は全部で五隻。テレビ局の入り口前方に三隻と裏口に二隻。その周りには数体の歩行型巨大武装兵器とAIが数体徘徊しているのみである。

『これは……!?』

 彼等が視認したという謎の標的が堂々と正面より現れる。



「よぉ! サイバーテロの極悪人どもめ!」

 巨大なジェットブースターを背負い、片手には何処から持ってきたのかも分からないメガホンを持ったカルラが高らかに宣戦布告を掲げている。

「この国民的ヒーローのカルラ様が成敗しにきてやったぜ!!」

 カルラはフルに充電されたジェットブースターを使い、空から正面へ奇襲を仕掛けようとしていた。

「ねぇねぇ? あの艇を全部墜とせばいいの~?」

 その後ろには同じく。アキュラからジェットブースターを借りたアイザ・クロックォルが既にエネルギーの充填を終えたMURAMASAマグナム両手に首をかしげている。

「ああ、余裕があったら好きなだけ墜としな。俺達の仕事は“派手に暴れてやること”だからな」

「了解。殲滅戦、制圧、皆殺しは私の得意分野でござるからな」

 アイザへと向けた解答。代わりに返答したのは背中を巨大なウィングブースターに変形させたサイボーグくノ一のキサラである。

「……いきます!」

 そして最後の援軍。やはり空の戦いとなれば、空のスペシャリストであるシルフィがいなければ話にならないだろう。

 背中には風で形成された翼。シルフィは三隻の小型護衛艦と、地上から援護射撃をかまそうとしているAI集団へと攻撃を開始する。

『なんていうスピード……そもそも、どうやって空を!?』

『考えてる場合じゃない! 撃ち落とせぇッ!』

 護衛艦は一斉射撃を開始する。

 ビーム砲、ホーミングミサイル、ありとあらゆる攻撃が飛んでくる。中には魔法陣展開してエネルギー弾を撃ってくるAIもいる。

 さすがはサイエンス・フィクション&ファンタジー全開てんこ盛りの異世界アウロラだ。ここにきてついに政府へ喧嘩を売ってしまったわけであるが、その戦力の片鱗の一部を目の当たりにし背筋が凍り付く思いである。

「ヒャッホォッ! いいねぇ! 演出最高だよゥ!!」

 だが、カルラは動じない。

 むしろこの界隈を楽しんでいる。自身をヒーローだと思い込んでいる人物アホだ。

 ジェットブースターの操作は勿論の事、この世界の温度差にも十分浸りきった今、最早これくらいの総攻撃はそよ風も同然。カルラは大笑いしながら突っ込んでいく。

「まずは一隻……ッ!」

 村正は既にフェーズ2へ移行している。

 ちょこまかと動く蝿相手。飛空艇側からすれば、遠く離れた場所からドンチャンやっていればいつかは叩き落せる。楽な戦いだとは思うだろう。

 しかし、こうやって懐に潜られてしまえば飛空艇はどうすることも出来ない。カルラは一隻の飛空艇の真下へと潜り込み、その刃を艇の体に差し込む。

「オララララララァアアアッ!」

 そのまま前進。飛空艇を引き裂いていく。

 両断、溶接。あっという間に一隻の飛空艇を戦闘不能にしてみせた。


『応答しろ! おい!?』

「うるさいよ」

 もう一隻の目の前にはアイザがいる。

 ……無線通話は内通によって行われている。つまりは聞こえない。その慌ただしい会話内容はアイザの耳には届いていないはずなのだ。

 しかし、彼女は耳障りだと口にする。

 それは戦場でドカスカと撃たれているミサイルやビームなどの発砲音に向けられたものじゃない。その視線は明らかに……艦首へと向けられている。

「【ファイアビー・スティンガー9.02】」

 いつもの最大出力の特大ビーム砲ではない。

 一線。人差し指一本分くらいの大きさのビーム砲である。何の前ぶりもなく、しゅんと現れた細いビーム砲は艦体に命中する。

 そして、貫く。

 どのような固い装甲であろうと一撃で貫くため、極限にまで出力を一点に集中したレーザー砲である。これまた陥落。次々と無力化に成功していく。

「よっしゃ! 予定通り、俺は正面からテレビ局へお邪魔するぜ!」

「私もいく~!」

 カルラとアイザ。二人は戦線を突破し、テレビ局の正面入口へと向かう。


「……おい! お前はここに残って、アイツらの援護してやれよ!?」

「だって、ここにいる人達、弱すぎて全然つまらない~!」

 子供のように駄々をこねるアイザ。

「ああ、もう! すきにしろや!」

 こうなってしまえば彼女は聞かない。それを悟ったカルラは溜息を吐きながらも、アイザの同行を許した。

「えっと、確か。バリアが張られてるって言ってたっけ?」

 このままテレビ局に突っ込もうかとも考えていたが、それは危険。

 テレビ局の周辺をかこっている金網と有刺鉄線。そこからは“エネルギー無力化のバリア”がテレビ局全体へ張られているらしい。

 近づけば一瞬でバリアの熱量で一瞬で溶接されてしまう。と、テレビ局の解析をしたヨカゼが口にはしていた。

「よいしょっと」

 試しにカルラがテレビ局に向かって硬貨を一枚。メジャーリーガーもビックリな速度で投げ飛ばす。


 エネルギー無力化。進入禁止。

 それは如何なる銃撃や砲弾であろうと溶解し、魔法や異能力などのエネルギーも分解する。物質や生命体などがそのバリアを通過しようとしたならば。

 一瞬で、その存在を“溶かす”。

 カルラの投げたコインは一秒も経たないうちに塵一つ残さず溶け切った。


「うっひゃぁ、松明に近づいた蝿のように消えちまった」

 自分もああはなりたくないなとゾッとする。

「正面から、ねぇ」

 正面入り口。有刺鉄線と金網の防壁のド真ん中には関係者以外は立ち入りを禁止されている認証式の扉がある。

 当然ながら彼等はパスワードやロックを外すアイテムも持っていない。となれば、やることは一つである。

 要塞の門のような作りでもないこの扉。金網の扉なんて、カルラ達からすれば……網戸と変わらない。

「よいしょっとォッ!」

 村正で一刀両断。その周辺にいたボディガードもついでに一掃。

 正面入り口の扉が真っ二つに切断される。

「おじゃましまーっす!」

 カルラとアイザは堂々と包囲網を突破、そのままテレビ局の正面エントランスへ……近代のマスコミでも真似できない突撃であった。

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