タイトル.44「もう一人の刺客はネガティヴ・シスター」
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「……全員無事か?」
それは突然すぎるハプニングだった。
噴き出した水は一瞬で止まった。しかし間近にいたフリーランスの三人は水に乗せられ空を舞っていた。
「何とかな。ありがとよ、騎士様」
小柄な体が仇となったか、一番上空を飛んでいたのはアキュラだった。
そこはレディに対しての紳士的対応が早いレイブラントだ。リーダーである彼女を空中ですかさずキャッチし、着地した。
「大丈夫ですか! アキュラ!?」
シルフィは空を飛べるためキャッチされる必要はなかった。空中でしっかりと姿勢を整え、アキュラの様子を伺いに降りてくる。
「見ての通りだ。全員無事で何より」
紳士的に助けてくれたレイブラントに礼を言いつつ。お姫様抱っこと随分居心地のよいシチュエーション。ナリではないと思ったかアキュラは彼の腕から離れた。
「……こんな場所でいきなり仕掛けてくる馬鹿がいるかよ」
その場の被害に考えず固有能力をぶっ放すことにアキュラは呆れて物も言えない。職権乱用とまではいかないが、秩序を守る組織の名が泣くと指摘もしたくなった。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
すると、どうだろうか。
「ああ、神よ……どうか、間抜けな私をお許しください」
シスターはその場で謝罪をしてきたではないか。
痛々しいにも程があるほどの頭の下げっぷり。秒で何回やっているのか、数えるには肉眼では難しそうだ。
「君は……政府の憲兵なのか?」
一瞬、疑いの籠った声でレイブラントが問う。
「はい、私は【ジャンヌ】と申します……罪人達を裁くのは私の使命なのです」
ジャンヌと名乗るシスターは自己紹介をする。
まだ謝り足りない様子を見せてはいたが自己紹介はしっかりとこなす。これは一人の人間としてなのか、それとも組織に泥を塗らないようにと気遣っているのか。
その空気の入れ替えの速さには驚いてしまう。
「こうしてオレ達に御指名で喧嘩を売って来たってことは」
「はい、その通りです」
怯えてはいるが、罪人を前にしてジャンヌはしっかりと胸を張って告げる。
「お三方はアブノチにて行われた政府の取り締まりを妨害したという報告があります。これは立派な公務執行妨害……処罰の対象へと含まれます」
「アレの何処が正式な取り締まりなんですかッ! 事情も何も、都合も考えないで……あんなの一方的な取り立てじゃないですか!」
あの状況。ちゃんとした理由があって、アブノチは村の維持費や支援金の調達が遅れていた。それを政府の人間も分かっていたはずだ。
しかし政府はその理由があったとしても、これ以上の滞納は大罪であることを告げたのだ。
そんなのは理由にならないと、一方的な大量抹殺まで仕向けてくる始末。ただ、理不尽に駆逐され続ける村人たちの苦しむ顔を、シルフィは今でも覚えている。
「……敵は暴虐な方々だと聞いています。話も通じるかどうか分からないと……私は貴方達を止めます。これ以上、罪を重ねないうちに」
「駄目だコリャ。話が通じないのが分かったな」
アキュラは片手で炎を噴き上げる。
「どうするんだよ。三対一で勝てると思ってるのか?」
「……その通りです。私一人で勝てるのでしょうか……このようなお三方に」
「おいおい、今頃ひ弱になっても遅いぜ! 喧嘩を売ったのはテメェだ!!」
火の玉を作り上げ、一人怯えているシスターへと容赦なく発砲する。
「
これは立派な公務執行妨害となるが、今更指名手配にされようが何の問題もないアキュラは容赦なく反撃する。
火の玉がシスターに迫る。まともに受ければ吹き飛ぶのは当然。
「あ、あああぁ……」
ジャンヌはその火の玉を前に怯えるばかり。
「いやぁああ!」
その場で慌ててしゃがみ込んだじゃないか。
……これが政府の憲兵の実力なのだろうか。
相手が大犯罪者となれば、それなりに腕の立つ刺客を送ってくるはずである。しかし送られてきたのはこんなにも臆病なシスター。
(なんだコイツ……? 反撃するどころか悲鳴上げやがったぞ?)
少し身構え過ぎただろうか。無様な姿を見せるジャンヌを前に、アキュラはちょいとばかり物足りなさすら覚えていた。
(やりすぎと言われようが正当防衛だ……悪く思うなよ。ここで捕まるわけにはいかねぇんだ!)
「ごめんなさーい!!」
その直後。シスター・ジャンヌは叫んだ。
「「……!?」」
シルフィとレイブラント。
両名、その“予想外の光景”に眼を広げる。
「ッッ!?」
アキュラも思わず、その場で固まってしまう。
----あるのか。
----こんなことがあるのか。
こんな“幸運”があるというのか。
「うううぅ……」
火の玉を回避しようとしゃがんだシスターは今もその場で怯えている。しかし火の玉は彼女の身に届いたような形跡は一切ない。
“受け止められた”。
アキュラが放った火の玉は……
命中する直前。
ジャンヌの眼前に突然現れた流水の柱が彼女を守る盾となったのだ。
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