タイトル.38「冒涜のルネッサンス(後編)」


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 村長は無事だ。かろうじてだ。かろうじてだが生きている。

 間一髪、あと少しでも遅かったら処刑されていただろう。


「……もっと美しいものが現れたかァ」

 大義。それを語る悪党たちは何かの目的があって動くロボットのようなものだと口にしていた。だがこの男はその他の黒装束とは雰囲気も何もかもが違う。

 感情がある。明らかな欲望がある。目的遂行の意思表示のみを行う感情なきロボットのような他の個体とは明らかに違う。

「いいじゃないか。もっと罪を犯せ。そうすれば、この村は芸術品で埋まる」

「……見間違い、であってほしいのだが」

 レイブラントは盾を構え、黒装束の男へと視線を向ける。

「貴様の腕の腕章……だったと思われるが?」

 自警団出身であったレイブラントは当然、政府関係の人間とも面識がある。

 アウロラ全域の法律の監視を目的とする政府組織本部の人間が、アウロラの中心都市であるロックロートシティよりメージへ来ることあった。


 故に彼は見たことがあった。政府に属する人間全てが装着することを義務付けられている……政府本部所属を意味する。その“赤い星空模様”の腕章を。

「……ああそうだ。私は政府本部に属する者」

「政府本部の人間が随分と惨いことをしているようだが……貴様、何処の所属だ」

 政府本部。アウロラの秩序を犯す世界には武力介入を試みる。

 最終的な勧告、そして交渉の全てを放棄した国家は容赦なく鎮圧を開始する。彼等が仮に政府本部の人間なのだとしたら、その法に従って動く鎮圧部隊なのだろう。

 だが、分からないことがある。

 この村は政府本部への資金調達を怠ってはいた。だがそれは巨大ムカデ大量発生による現場被害対処への横流し。

 どうしようもない状況だった、不慮の事態だったが故に滞っていた事である。

「簡単だ。そこの人間が法を犯した。それだけの事。私はそんな美しい人間を裁いているだけだ」

 実は資金には恵まれていたほうなのか。あの心優しい雰囲気の村長は建前だけを口にしていたというのか。

 レイブラントの視線が一瞬村長へと向けられる。

「ま、待ってくれ……今は金が必要なのだ……でなければ、この村が……」

「あまり動かないで。その傷だと血が噴き出す」

 村長はレイアの介護を受けながら必死に訴える。

 不慮の事態は真実。裏山に突如現れた謎の巨大害虫の被害によってアブノチは壊滅寸前であった事。むしろ政府本部より資金の調達を借金してでも頼もうとしていた状況であるという事を。

「何故です、か……何故、資金の調達の許可を……我々には、滅べというのですか……?」

「これ以上喋らない方がいいよ。傷が広がる」

 レイアはそっと村長を眠らせる。

 これ以上暴れられては出血を許す。今はス・ノーの命令通り生きてもらわなければ困る。面倒でありながらもレイアは村長の目を閉じさせた。


「その主張は本当なのか?」

「ああ、本当のようですぜ」

 甘味処の大広間より一人、助っ人が現れる。

「星空模様の腕章。この世界で一番偉い団体様がこんな粛清を行うとなれば……この村、実はとんでもない事をやらかしたのではと思った次第で軽く寄り道して調べものをしてました」

 カルラだ。彼は大量の書類を手にレイブラントの下へと現れた。

「不正らしき情報は一切見つからなかった。消された可能性も考慮して、ヨカゼを使ってデータの追跡も行いましたが……消されていたのは何の関係もない企業のメモデータだけだった。本当にギリギリで繋いでみたいですぜ。この村」

 巨大ムカデによる被害は本当。一切不正を働いていないこの村。政府へ救援を送ったモノの承諾されず全てガン無視。挙句の果て、ルール違反がどうだと罪に問われて、村全員が罪に問われる始末。理不尽にも程があると主張。


「それと盾のお兄さん……よそ見は一秒くらいに。まっ、一秒でも長いですけれど」

「!!」

 カルラはレイブラントの真後ろにいた。ついさっきまで向こう側にいたはずなのに。村正を手にした時には既に移動していた。奇襲だ。不意打ちだ。


 黒装束の男が“よそ見をしていたレイブラント”を後ろから切ろうとしていたのだ。


「言われなくても分かっている。俺も気配は悟っていた」

 レイブラントの言葉は去勢なんかではない。彼の言う通り、盾を突き出す準備はいつでもできていた。ほんの些細な物音ひとつで接近に感づいていたのだ。

「さすがはプロってところかね」

「……真実を知ったところで今一度聞こう。この粛清、意味のある事なのか?」

「そうだな。俺から見れば一方的な取り立て……いや、単なる強盗殺人にしか見えませんがね」

 第一印象。一方的なテロリズム。そう主張する。

「盾のお兄さん。巨大ムカデの巣、何か不自然なものがあったとかあります?」

「……強いて言うならば、妙な食糧が洞窟にあった。ムカデはそれを食して巨大化したようだ……キノコのようだった。そのキノコはこの周辺ではまず手に入らないものだ。何者かが意図して放り込んだようにも見える」

「マッチポンプって言葉知ってます? 俺、もしかしたらって思ってるんですよ」

 カルラとレイブラントの視線が黒ずくめの男へと向けられる。


「すべては世界の安定のために毒を取り払う。それが我々の仕事なのだ」

 顔の傷の入った男、黒装束は笑みを浮かべる。

 額には何か文字が刻まれている。それはこの世界の言葉。英語にも見たその言葉。翻訳するとこう書かれている……【ジャイロエッジ】と。

「そして貴様たちもその毒の一つ。世界で最も醜いモノ! すなわち、美しい芸術であることを私は知っている!」

 ニタリとした静かな笑みが、大きく口を歪ませた含み笑いへと変わる。

「君達も美しい芸術として、この世界の手向けとしてあげよう!」

 ……口が大きく膨らむ。水風船のように、ジャイロエッジの頬が膨れ上がる。


「!」

 瞬間。

 二人の体はジャイロエッジの口から放たれた

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