タイトル.36「タイムイズマネーな世の中(前編)」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……美味いな~、コレ~」

 二日目。村長よりサービスで与えられたのは温泉宿の宿泊権。一日目から巨大ムカデを数体駆除という結果を出したために期待が寄せられたという事だ。

「美味しいね~」

 巨大だとは聞いていた。だがあんな宇宙怪獣張りの巨大生物なんて思いもしなかった。今でも夢に出てきそうなあの衝撃は忘れられない。

 二日目も変わらず駆除を行う事にする。そうだ、あの巨大ムカデは一匹二匹の問題じゃない。何処かで巣を作って大量繁殖してるという悪夢。それを解決しない限り終わりではない。

「今日から班をわけるって作戦だが」

 それをクリアさえすれば、無事報酬を貰えるというわけだ。

「三組ねぇ。まぁ悪くはねぇさ。バランス管理もよろしいのではなくて?」

 作戦報告書のメモを片手、飯を食べながらカルラは呟く。

 多額の報酬が絡む、その上利害も一致となれば手を組むことになる。アキュラとス・ノーは早速打ち合わせをしていたわけだ。金さえ絡めばライバル同士だろうと喜んで握手もする。話が早いと言えば魅力的になるか。

 話し合いの結果、三手に分かれて行動することになった。

 あんな広い森林だ。いつまでも束になって掛かっていたら時間がかかりすぎる。

 巨大ムカデの戦闘力はそう高くない。フリーランスとロゴスの面々で倒せない相手ではない。


 チーム分けを発表する。

 まずは高い打撃能力にも恵まれたレイブラントと、虫の苦手な炎を扱えるアキュラとレイアのチーム。

 次に風の魔法と氷の魔法を扱う幼馴染コンビシルフィとス・ノーに護衛としてキサラを添えたトリオ。


「でもさぁ……」

 んで、売れ残ったカルラは誰と組むことになったかというと。

「なんで、お前と何だよ」

「ん~?」

 今日の朝ご飯は焼き魚定食。お代わり自由の炊き立てご飯にシジミの味噌汁。

 漬物にコリっとした沢庵がセットと古き良き和食。魚の身を箸で穿り回しながら、この人員配置に不満げな表情を浮かべるカルラ。


 そうだ、残った二人はカルラと----

「仲が良いからだって~?」

 アイザ・クロックォルである。

 二人は交流がある。何より仲間割れをする気配がない。だなんて理由だった。

「何処からどう見てもそうは見えないじゃんよ……」

「えー、仲良いじゃん~?」

 この件についてだが、忘れないでほしいことがある。

「会えばに仲良しになったんだよ~? 私もかるらと、ずっと殺し合いしたいもん! かるらも私の事、いつも殺しに来てくれるから!」

「……俺の事大好きなのはわかったからさ。ひとまず、口の中に物入れてるときに喋るのはやめような?」

 ブーメラン発言ではあるが、彼女の場合は内容が内容なのですぐに黙るようにと告げる。公共の場で殺し合いだとか堂々とやめてほしい。

 そうだ、仲が良いとは言っているが場所を弁えているだけだ。

 カルラとアイザは元いた世界では敵国家の兵士同士。ライバル国家の最重要戦力ともあったが為に最前線では常に火花を散らしていた。

「まぁ……懐かしいもんだ。昔は二人してヤンチャしまくったもんでねぇ」

 その日々の事を思い出す。

 数年前、地球上にて、花をぶつけ合った日々を。

「楽しかったよね~」

「いや、楽しくはねぇよ」

 お互いトンデモ兵器を背負った者同士、並外れた身体能力を持った怪物同士。

その波長は合うのは戦場では常に惹かれ合う……のかも。

「制御の利く国同士じゃなかったら、俺達あっという間に宇宙人より厄介者扱いよ。アンタ? それ、承知しちゃってる?」

「アイザ、難しいことわかんない~」

「政治関連は大人に任せっきりのお子ちゃまめ……俺もだけど……」

 純粋無垢な彼女だ。命令でもない限りは無用な戦闘は避けるように教育されていなければ……今頃、いろんな場所が焼け野原になっている。

「今回もドンチャン始まって世界大パニックなんてオチになるかと思ったけれど」

 首輪を繋げてくれる飼い主がいるからこそ彼女はまだ安全なのだ。

 シャレにならない爆弾を抱えているこの彼女を飼い慣らせるトンデモない奴。あのロゴスの面々の肝っ玉の強さに脱帽したくなる。

「ホント。お互い頭の良い銭ゲバに拾ってもらってて助かった、って感じ。俺としてはスッゴイ助かる」

「ねぇねぇ~! かるらはご飯食べないの~? 美味しいよ~?」

 焼き魚定食を次々と頬張っていく。ご飯のおかわりに関しては既に十杯目。

 同じくおかわり自由の沢庵も大根二本分は平らげている。そろそろ自重も考える量ではないかと不安を覚える。

「言われなくても食べますよっと」

 既に残りのメンツは現場に向かっている。

ちょっと遅めの時間に起きたカルラとアイザ。生活習慣もどこか似ている二人が後の出発となったのである。簡単な話、遅刻だ。

「おさかな、美味しいな~」

「……」

 おいしそうにご飯を食べるアイザ。

 米を頬張り、味噌汁を飲み干し、沢庵を放り込んで、焼き魚を頭から四分の一を一齧り。

「……お前、骨は吐き出せよ?」

「ん~?」

 ゴックン。口の中で噛みつぶした魚をそのまま飲み込むアイザ。

「美味しいよ?」

「クレイジー……」 

 彼女の食事は、あまりにも豪快だ。その能天気ぶりにカルラは頭を抱えている。

「あのね。口の中に放り込むモノには気をつけな? お前が大丈夫でも、体は正直にダメージ負っているわけなんだから」

 カルラの記憶している限りでは……

 ボンゴレパスタのあさりを殻ごと食べていたり、ローストチキンも骨ごと噛み砕き、林檎も芯ごと食べていたり----生卵もそのまま一口齧って飲み込むという。

 とんでもない鉄の胃袋。こんな不規則な食生活をやってスタイルを保っているのだから理解が出来ない。世の中不平等だと言いたくもなる。

「ふふふ~♪」

「聞いてねぇし……」

 銀髪のロング、黙っていれば大人っぽいミステリアスでクールな雰囲気。

 そして文句なしのナイスバディと三拍子揃ってはいる……が、好み真反対の子供っぽく無邪気でミーハーな性格の少女。

 カルラは相変わらずだが思ってしまう。なんと勿体ない事かと。

「まったく、もう」

 ウダウダ言っても仕方ない。

 面倒な事にならないことを祈り、彼女と共に任務を全うすることにした。

「おい……ご飯粒ついてるぞ」

 アイザの頬に引っ付いていたご飯粒を人差し指で摘み取り、それを口にした。

「あっ。ありがと~」

 お礼も言える少女。そういったところは評価で出来るものであった。



(ご主人、懐かれる理由はそういうところだと思うぞ)

 そんな風景を黙ってみていたのは、お世話係のヨカゼちゃん。

 それを指摘してやろうかと思っていたが、彼女としてもアイザはあまり得意ではないらしい。黙ってみておくことにした。

「おやおや……仲睦まじい事で。よく食べるねぇ~」

 二人に話しかけてきたのは食堂のおばちゃんだった。

「お嬢ちゃん、もっと食べるかい?」

 おばちゃんの手に握られているのは、黒ゴマのかけられた塩むすびだ。

「食べるー!」

「いっぱい食べるんだよ~?」

 おにぎりを受け取ったアイザは、これまた無邪気におむすびを頬張った。


「いやいや、仲良くありませんって」

 愉快そうに笑う食堂のおばちゃんの一言にカルラは笑って返した。

「おかわりが欲しかったら、いくらでも言うんだよ~?」

「うん! おばあちゃん、優しいから大好き!」

「おほほほ。まるでもう一人お孫が出来たみたいだよ~」

 アイザもまた、おばちゃんに対して親近感を寄せているようだった。

 本当に無邪気。子供のようなアイザの爛漫さにはまたも首を横に振った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 腹八分目に抑え、食事を終えた二人は裏山へと向かっていく。

 あれだけ食べたが腹八分目だ。誰が何というと二人からすれば腹八分目なのである。理解してほしい。


「移動はどうするよ? 運動がてら徒歩で行く?」

「面倒だから、ばいくで行くよ~」

「……俺、ヘルメットないんだが?」

「へるめっと、って何?」


【※ヘルメット未装着での二輪車両の運転は法律違反です。頭部の安全はしっかりと確保し、教習所で習った通りの安全運転を心がけましょう。肉体的にも社会的にも死にたくなければな。】


 温泉宿の受付で外出を伝えておく。部屋の鍵も渡し、トイレも軽く済ませて外へ。

「……ん?」

 と、その前に-----とある光景が目に入る。


「すいません。はい、今、この村は資金の調達が厳しい状況でして……どうか、資金回収の方は待ってもらいたいのですが」

「困りましたね。かれこれ、二か月は経過しています……あまり長引かせ続けると、我々としては」

「ムカデの原因を突き止めてみせます! ですので、どうかお待ちを!」

 村長だ。役所を離れわざわざこの場所へ。椅子から飛び上がり土下座をして、スーツ姿の眼鏡の男に何か詫びている。

「……分かりました。ですが、もうこれ以上は待てません。更に時間がかかるようでしたら我々政府は処置を取らせていただきます。あと少しだけ、ですよ」

「ありがとうございます……!」

 スーツ姿の男はその一言だけを残すと、頭を下げ続ける村長には何の一言もなしに宿を出て行った。

「ん~? どこかで見た、か?」

 スーツ姿の男に彼は目を尖らせる。

 気のせいかもしれないが、その既視感に首をかしげていた。

「あっ!」

 村長の驚く声。仕事受けている便利屋には都合の悪い話をしていたところを見られて困っているようだった。

「あ、あの、えっと」

 気まずい状況。どうしたものかと村長が焦る。

「ねぇねぇ~、どうして謝っていたの~?」

 そんな村長に追い打ちをかけるように、アイザの無邪気な問いがやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る