タイトル.30「渾身のフライ・ア・ウェイ(後編)」


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「空を自由に飛べる相手か……!!」

 舵を任されたレイブラントは唸る。

 その身に人の手も火の種も届くことはない。鉛弾と花火球を撃つだけの鉄塊はモノの一瞬で丸裸にされるだけ。そんな相手だ。

 それだけの敵が合計10以上。とてもどうにかなる状況じゃない。

「くっ……俺にも出来る事はないのか!?」

 今、艇の外の映像はモニターで映し出されている。そこには応戦こそするものの、数の暴力を前に苦戦を強いられるカルラとアキュラの姿。フリーランスの中でも戦闘力を持つ二人であっても限界がある。

 飛空艇に乗り慣れない彼には何処に砲台の発射ボタンがあるのかも分からない。

 このままではまずい。レイブラントはただ拳を強く握り唸るだけ。


「なななななな、何事ですかッ!?」

 数分、シルフィは遅れてようやく現れる。

 乱れた服装に水滴だらけの体。この水滴はきっと汗じゃない。彼女の体から漂う湯煙がそれを物語っている。

「シルフィ!? 今の今まで何をしていたんだ!?」

「シャワーを浴びてたら突然艇が揺れて……そのまま、足を滑らせて頭を打って動けませんでした」

 顔を真っ赤にしながら正直に告白。

 仕事前に汗を流しリラックス。その最中に突如襲い掛かったアクシデント。足を滑らせ頭を強打。その頭痛が収まるまでは動けなかったようである。

 髪に隠れているがタンコブが出来上がっている。体を乾かす時間もなかったのかバスタオルで水滴だけ拭き取ってきたようだ。そのせいでビショ濡れだ。

「そ・れ・よ・り!! 今、何が!?」

「敵襲だ! 例の依頼書の奴だと思われる!」

「見つけたんですね!? 犯人は一体……」

 シルフィはモニターへと目を向ける。黒幕の正体をその目にする。


「ッ!?」

 その矢先。シルフィの眼の色が変わったような気がした。


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 乱気流渦巻く飛空艇周り。

「ちぃいいっ! 四方八方鬱陶しい!!」

 ジェットブースターをうまく作動させ、蝿のようなフットワークで鳥人間たちの攻撃を回避している。

「全員撃ち落とすまでにエンジンが持つのか、コレ!?」」

 鳥人間が放つ風に振り回されながら姿勢を整える。あまりに不規則な空の世界に飲み込まれそうになっているが死に物狂いでアキュラ達はそれを堪えている。

「やるじゃねぇの! 俺を唸らせたのはお前で何人目かね!!」

 爪を立てて襲い掛かってくる鳥人間に村正を振り回す。

 どれだけ頑丈な鉄の爪を持っていようがトンデモエネルギーを纏った村正を前になら追い払うことなど容易い。

「コラァアッ! 逃げるなッ!!」

 その剣の破壊力に気が付いているのか鳥人間たちはカルラが接近するたびに回避を行う。そのたびにカルラは『空気をよめ』と逆切れを続ける。


「あと何分だ……あと何分飛べるッ!?」

 空に上がってから何分が経過したのか既に数えていない。

 最大稼働時間は四十分と聞いているが……その半分以下ももたない危険性は十分にあり得る状況だ。無理にエンジンを吹かしているのだから。

 時間がない。戦線を維持できる状況ではなかった。

「ヨカゼ! ビーム出せ、ビーム! 俺はどうなってもいいからコイツらを全員撃ち落とすぞ!? ほら急げ! ヨカゼ・ビーム!! ホラッ!!」

『あるわけないだろうがーーっ!』

 まだ研究所に頼んでもいないのにトンデモ兵器が搭載されているわけがない。状況を打破するのは厳しいことだろうとヨカゼからの処刑宣告。

「所詮は人間か、地面がお似合いだ」

 鳥人間たちのリーダー格とも思われる人物が勝利を予告する。

「そろそろ、終わりだ」

 疲労も近づいてきたアキュラに対し。

「人間!」

 その人物は容赦なく爪を振るい落とした-----






「はぁあああッ!」

 その攻撃は、アキュラまで届かない。

「なにっ!?」

 吹っ飛ばされた。

 見えないシールド。見えない何かに鳥人間のリーダー格は吹っ飛ばされたのだ。

「まだ空を飛べる人間がいたか、だが……その程度!」

 援軍が来ようが関係ない。鳥人間は再度攻撃の構えに入ろうとしていた。

「……あっ!」

 だが、鳥人間達のその前のめりの姿勢が。

 -----突如何か恐怖するような震えへと変わっていく。



「あなた達」

 援軍に現れたその人物。

 それはアキュラやカルラのようにジェットブースターを背中につけてはいない。


 飛んでいる。

 シルフィが二人の前に現れた。


「なっ!?」

「シルフィ、飛べたの!?」

 翼も生えていないのに空を飛ぶ。空にこだまする風の一族であるとおっしゃってはいたが空まで飛べるだなんて思いもしなかったのだ。カルラとアキュラもあんぐりと口を開く。

「一体、何をしてるんですか」

 空で仁王立ち。怒りを露わにしたシルフィがたった一人単独で鳥人間たちの前に立ちはだかった。




「そのお姿……もしや、シルフィ様!?」

 鳥人間たちの表情が青ざめる。

「なななな、なんと無礼なことを!!」

 先程まで偉そうな態度を取っていたリーダー格の鳥人間が頭を下げる。

「申し訳ありません!!」

 頭を下げる。一斉に頭を下げる。

 首がもげ落ちようと知った事ではないと勢いよく頭を下す。


「「え……?」」

 その光景はあまりに異様で突発。

 先程まで敵意丸出しだった鳥人間たちから殺意の波動が消えてなくなった。全員が頭を下げてシルフィへと謝罪の一礼を告げるのみ。

「「えっと、何が起きちゃったの?」」

 絶体絶命であった二人は今も助かった心地はしていない。

 目の前の状況に置いて行かれたことに対して首をかしげるのみであった。

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