タイトル.22「くの一・サイボーグ&乙女式ルネッサンス(後編)」


「クソッ、このっ!」

 炎を纏った両腕を巧みかつ強引に。

 ステゴロじみたスタイルで正面から次々と一撃を殴り入れているはずのアキュラ。だが、こんな紅蓮の中で冷や汗をまき散らしながら舌打ちをかましている。

「おっと!?」

 飛んでくるはミサイルの雨。

「うぐぐっ!?」

 続いては、二対のレーザー光線。

「ひいいっ!?」

 そして続いては、片腕だけがロケットのように飛んでくる!

「あの野郎……最初の地点で気づいたが、オイッ!!」

 ロゴス。期待の新人便利屋ス・ノーが引きつれるその集団は特筆して変わり者ばかりがいると噂されていた。

 ロゴスの詳細を少しでも頭に組み込んでおかなかったことをここまで公開することになるとは思わなかった。だって、想像つくものか。


「あのロボ女くノ一!!」

 メンバーの一人が女性で忍者で……“サイボーグ”だなんて。

「これが拙者の剣術。拙者の銃。拙者の忍法でござる」

「何処が忍法だ!!!」

 問答無用。今度はキサラの片方の胸が大きくオープンする。

 そこから顔を出したのは内蔵されたガトリングガンが二門。

「本末転倒・スクランブル」

 その砲塔からして一発一発が重い。

 いくら装甲を固めたグローブであるにしても受け止められるはずがない。

 というか、あれだけの数の銃弾を片腕だけで弾き切れるものか。ハチの巣にされるのがオチだ。

「フザけやがって! フザけやがってよォオオオーッ!!」

 こうして叫びたくなるのも理由がある。敵が原理滅茶苦茶なサイボーグ以外にも理由がある。


「……このクソ野郎がっ!!!」

 くノ一・キサラ。なんと地面で戦っていない。

 目からビーム、胸からガトリング砲、ロケットパンチにミサイルの雨霰とくれば……当然の如くついているであろうジェットブースター。

 そんなノリでキサラは背中から炎をふかして空中に浮きっぱなしなのである。アキュラを空から見下ろしている。

「テメェの体どうなってやがるんだ! クソっ!!」

 中身の構造とか諸々無視したような変形を繰り返す。SF映画に詳しいロボット評論家がいようものなら総ツッコミを受けかねない戦い方を繰り返す。

「申し訳ないでござるが、それは出来ぬ」

 空中に浮いたまま、キサラはアキュラに返答する。

「お主、炎を纏う事は出来ても、放つことは出来ない模様」

「……!」

 図星、を突かれたような顔。

 降りて来いと必死になって叫んだ地点でバレていても仕方がない。

「テメェ……!!」

 アキュラは炎を自在に操ると口にはしているものの、それは両手に纏うだけであり飛び道具のように使ってはこない。

 炎と言えばファイアボールなどの牽制なども使ってくるようなものだが、彼女はそれに一切頼らず肉弾戦。

 実は飛ばせないのではなかろうか。キサラはそう決断したのだ。

「ならば、ここは安全な距離で攻撃を繰り返すだけでございまする」

 両手の指先からスモーク。目くらましだ。

「くっ!」

 アキュラの視界を遮った。

「これで終わり」

 またも変形。両腕が合体し、巨大な砲台へと姿を変える。

「風林火山・ジェノサイド」

 穴を開けることなど容易いレーザー砲が放たれる。

 ほんの一瞬だけ、撃ちっぱなしは体に負担がかかるのか照射は続行しなかった。一瞬の閃光を放ち、あたりは爆炎に包まれる。

「これで召されたか」

 徐々に変形を終え、キサラの腕は元の姿へと戻っていく。




 ----その瞬間。

 -----変形の瞬間が、彼女の命運を分けた。


「!!」

 煙が晴れる。

 煙幕の中から現れたのは……炎。

熱波豪吹グレンゴウカ

 煙が晴れた先にいたのは“口から炎を噴き出す”アキュラ。

「くっ!?」

 炎を直に浴びる。変形途中のキサラは正面から炎を浴び、背中のブースターにも熱気により大破。殺虫された蝿のように地へと落ちていく。

「くっ、うぐっ……」

 さすがはアンドロイド。あそこから落ちても平気なくらいには頑丈の様だ。しかし着地の時に足をやられたのか身動きが取れないでいる。

「へっ、勘違いしてくれてありがとよ!!」

 炎を放つ。それが出来ないと口にされたとき、アキュラは心で思った。


 『馬鹿だ、コイツ』と。

 わざとらしい図星の演技まで見せて引っかかってくれた。笑いを堪えるので必死だったのは内緒の話。心の奥底では大爆笑だった。


 何より彼女にとって墓穴となった行動派……目暗ましのために煙幕をまいたこと。

 ここまで好条件を相手から揃えてくれるなんて思いもしなかった。光線は間一髪で回避し、存在を悟られる前に煙幕の中から奇襲を仕掛ける。作戦は大成功だったというわけだ。

「くっ……最早、これまでか……!」

「しっかりと焼き付けな」

 片腕に炎を纏い、それをキサラへと振り下ろす。

 これにて勝負は決着。まずは一人、ロゴスのメンバーを仕留めることに成功----








「……アイザ、カバーに回れ。やらせるな」

「分かった」

 ずっと座ったまま動かなかった銀髪の少女。

 それが瞬く間、一瞬でその場から消える。

「……ッ!!」

 気が付いた時、それは感だったのか。アキュラの背筋に鳥肌が立つ。気が付けばアキュラはトドメではなく、防御態勢をとっていた。


 “もう一人の刺客が……後ろにいる”

(な、なんだ……!?)

 “アキュラはその一瞬、死を悟った”

「クソッタレがッ!?」

 キサラに振り下ろすはずだった炎の腕を真後ろへと振り向けた。

「よっと」

 回避。その瞬間、銀髪の少女の姿が再び消える。


「だいじょうぶ? キサラ?」

 銀髪の少女は心配そうにキサラの顔を覗き込む。

 もう一度振り向いてみれば、さっきまでそこで倒れていたはずのキサラがいなくなっている。気を取られたあの一瞬で銀髪の少女に回収されたようだ。

「すまぬ、アイザ殿……」

「無事ならよかったよ~」

 離れた位置。キサラはすでに安全な場所に運ばれている。

 フラリと立ち上がった少女はそっと振り向き、人形のように首をぐらりと傾ける。両手には銃口の先端に刃のついたガンブレードが二丁。両手を広げ、ゆらりゆらりと動き出す。

(こいつ、一体……まずい、なにかがマズイッ……!)

 次の攻撃に備えて身構えた。

(イカれてる……コイツはァアッ……!!!)

 はずだった。備えたはずだったのに。

 だというのに気が付けば、少女はまたも眼前。

「っ……っがぁああ!?」

 刃を体に突きつけるのではなく、肘を腹に一発。アキュラにつきつける。

 眩暈がした。臓器を直接叩き潰されたような感覚。

 胃腸を搾りつくされたような得体のしれない痛みにアキュラは悶絶。口から胃液と血液を滝のように吐き出す。

 それだけの一撃。アキュラの体はいともたやすく吹っ飛ばされる。丸太のように転がるアキュラの体は無防備だ。

(なんなんだ、ありゃっ……滅茶苦茶とかそういう次元じゃねぇ……ッ!?)

 転がる刹那、視界に映るのは一切の変化もない表情の少女。

 感情の有無を感じない、目元以外が緩んで変わるだけ。アキュラは意識を失いかける直前に、少女のその不気味な雰囲気に背筋が凍る。

(気配も殺気も何も感じねぇッ……!)

 反射神経でどうにかなるとかそういうレベルじゃない。喧嘩慣れしたアキュラは多少の相手の動きを見て反応できる。。

 プロのボクサーは相手のパンチがスローモーションに見えると口にする者がいる。視界の強化、異常なまでに鍛え上げられた反射神経。そこまでのレベルに到達していないがアキュラもそれに似たものは会得していた。

 だがそれで解決するレベルじゃない。気が付いたらそこにいるレベル。

 気づく前にやられている。気づく前に接近を許されている。気が付いた時には自身が地面を転がっている。

(やべぇッ……コイツは、やべぇっ!?)

 また少女の姿が消えた。そしてアキュラの目前に少女が現れる。

 ガンブレードを構えている。今度は刺し殺すつもりのようだ。

「はい、おしまい」

(くっ……!!)

 またしても、アキュラは死を悟りかけた。




「あらよっと!」

 眼前。見覚えのある黒い両足が視界を遮る。

『緊急起動……間に合ったな!』

「だから、どうにかなるって言っただろ! 無理はしてみるもんさ!!」

『私の負担は眼中になしか、ご主人』

「分かってるよ……あとで休暇はプレゼントしてやるって!」

 さっきまで崖の下へ落ちていたはずのカルラが戻ってきた。

 騒ぎを聞きつけ猛ダッシュ。リーダーがピンチに駆け付けたというわけだ。機動も間に合いギリギリ到着。

「すんません大将! 遅くなっちゃって!!」

 受け止めている。

 トドメで振り下ろされようとしていたガンブレード。その刃がエネルギーを纏った村正によって受け止められている。


「やれやれ……見間違いかと思ったがそうじゃなかったか」

 目の前にいる無表情の少女へ話しかけるカルラ。

「いきなりいなくなっちまったもんだから俺の知らない間にポックリ逝っちまったもんだと思ってた……驚いたぜ。お前までこっちに来てるとはな」

 それは、感動の再会ともいえるような言葉。

「白銀の猛獣兎殺人ウサギ……【アイザ・クロックォル】!」

 そして……ライバルに向けるような視線。

 かけられる言葉。再会の挨拶。

 人形のように微動だにしなかった、少女の体がピクリと動く。

「……」

 そして、応える。






「かるらだぁ~っっ!!」

 満面の笑み。

 今までのように冷ややかで大人っぽいクールな無表情が嘘と言えるような……年相応以前に、幼児化したかのような無邪気な笑顔。

「また会えたね! かるらっ!!」

 突然の空気の変わり様。太陽のように眩しい笑顔に反して。

「あぁ……久々だなっ!!」

 カルラはいつもと違って……クールに笑っていた。

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