タイトル.22「くの一・サイボーグ&乙女式ルネッサンス(前編)」
「よく見たら女が相手かよ。レディの扱いがなってねぇ野郎だな」
「貴公も女性ではござらんか」
至極真っ当な返事がくノ一から帰ってくる。
「妙に男ぶってる女が相手っていうのがおかしくってさ。意味の分からない背伸びをしているようで笑えるんだよ」
男もののスーツ姿の女性へ一笑い。
「背伸び、でござるか」
しかしてキサラはそれを恥じることをしない。
年齢とは相対的すぎる背丈をむしろ隠さず正面から堂々と見せつけるその態度。
「背伸びかどうかはその目で確かめよ」
「お前もじっくり目に焼き付けてから……塵になれ」
マッチ棒のように、アキュラの人差し指の先端から炎が噴き出る。
「では、お望み通り」
その場で両手を広げるくノ一・キサラ。
魔法か異能力。そのどちらかを飛ばしてくるに違いない。
炎に対して効果のある水か、それとも冷気か。はたまた、相性など特に関係もないビームかイナズマか。
「とっとと来な。飲み込んでやる!」
どれに対しても、喧嘩上等のスタイルでアキュラは身構えていた。
十分に覚悟を決めたはずだった。
「変形」
だが、その矢先だった。
「……んんん???」
目を疑ったのだ。
響くのはジャンクの擦れる音。耳も割れる金属音。
工事現場で日々なり続けるドリルを倍に増やしたような騒音が鳴り響く。
「機動」
-----彼女は変形している。
腕がよくも分からない方向へ。目で追いつけないスピードで体中のアチコチがゴチャゴチャと変化している。
「じっくり拝見してから、ブチのめすでござる」
変形を終えた右腕。それは人間のそれとは遠くかけ離れたモノ。
ミサイルランチャーだ。
重火器に変形した右腕がアキュラに向けられる。
「なんかメチャクチャ変形してるぅうううーーー!?」
「難攻不落・サイドワインダー。射出!」
合計40発。熱源に反応し追いかけるマイクロホーミングミサイルの雨。スズメバチの行進ともいえる大群がアキュラへと襲い掛かる。
「こ、この野郎ッ……!」
今この周辺で一番の熱源反応を持っているのはアキュラ本人。
脅しとアピールのため、デモンストレーション代わりに噴き出した炎が完全に仇となった。すべてのミサイルはアキュラのみをターゲットにしている。
慌てて両手に炎を出す。回避は間に合わない。ならば、やることは一つ。
「
回転。自身の体をその場で回転させながらジャンプ。
炎の纏われた両腕をプロペラのように振り回し、その火の粉を自身の周辺に撒き散らす。
着火。小型ミサイルは彼女に到達する前に起爆。無事、全て破壊する。
「どうだ! これでひとまず、」
「……お覚悟」
だが、一難去ってまた一難。
「四方八方・スラッシャー、両断でござる」
まただ。また変形している。
キサラの両腕は全長半一メートル近くの刃をもったカギヅメとなっている。
凶器を振りかざし、キサラが空から降ってくる。
「クソッタレが!!」
グローブには特殊な加工。カギヅメ程度なら受け止める事が出来る。
「しっかりと目に焼き付けているでござるよ。おぬしの姿」
「……どっちが先に塵になるかの勝負ってわけだ!」
二人は瞬時に距離を取った。
問答無用の殺し合いは始まったばかりだ-----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アキュラとキサラ、双方の戦闘が始まったその隅で。
「戦闘なんてとんでもない。そんなの平和じゃないでしょ」
呆れた表情でレイアがコンパクトを手に取り鏡を見る。
「だって、こんなにも可憐で端麗な僕が傷つき汚れてしまうんだよ? 愚かにもほどがあるじゃない? 野暮ってものだと思う……君もそう思わない?」
レイアは自身の相手となるレイブラントへ問う。
「……こちらこそ、レディを傷つけたくはないと思っている」
「ふふっ、見た目の通り紳士な騎士サマだね。僕は嬉しいよ」
コンパクトを閉じると、レイアは笑顔を振りまく。
「そう思ってくれているのなら……一撃でやられてくれないかな?」
それは提案。むしろ懇願と言えるべきか。
心が紳士であるのなら少女に華を持たせてやってほしい。プライド、精神的な問いかけがレイブラントへと向けられる。
「すまないが、その案には乗れない」
盾を構え、攻撃に備え始める。
「これから世話になる職場の一大事なのでな。すまないが、手短に終わらせる」
「そうかい、それは残念……!」
コンパクトを握りしめた片腕が強く光り始める。
紫色。その場一体を暗黒に染め上げる色濃く濁った光が少女の体を照らし始める。より美しくより鮮明に、その身を晒し始める。
「優しいお兄さんではあったけど、サヨナラだね……!」
紫色の光はその色を保ったまま、天空へ向けて飛んでいく。
それは人工的に作られた小型太陽ともいえる。太陽よりも熱く、月よりも暗黒。一種の球型波動砲だ! 球体は徐々に巨大になっていく!!
「溶け落ちろ! ビューティフル・マーズッ!!」
それは高威力による殲滅魔法。
その場一体を焼け野原に変えかねない破壊の砲台が落ちていく!
「……ッ!!」
発射された紫色の太陽はレイブラントの体を瞬く間に飲み込んでいく。それはほんの一瞬の衝動的な芸術。山岳の一部をえぐり取るような一撃だった。
「これで見る影もない、よね」
砂ぼこりで汚れてしまったかと、レイアは再びコンパクトを開こうとした。
あんな攻撃を浴びて無事で済むはずもない。敵の確認など不要と言いたげだ。
「……すまないが」
紫色の煙の中から、騎士の声。
「
耐えきった。
紫色の太陽をレイブラントはその盾一つで防いでみせた。耐えきってみせたのだ。
「……凄くタフなんだね」
コンパクトを再び握りしめる。
「世界が認めた芸術である僕の技、負けっぱなしじゃ癪だなぁ……次は仕留めるよ」
もしかしなくても、それは自称だ。
己惚れが過ぎる少女と、自身の誇りを信じる騎士。
矛と盾。プライドをかけたバトルが始まる-----
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