タイトル.20「真夏のアイランド(後編)」


 ----一般市民立ち入り禁止区域。クルーラー・アイランド山岳地帯。


ファッキン・ホットクソ暑いッッッ!!!」

 お約束ありがとうございました。

「だから言っただろうが」

 一同は熱帯雨林のジャングルを超え、その先にある山岳へ。この上にヒヤリ草が生えているらしい。

 想像以上の灼熱地獄。たった一人ジャケットを羽織ったままのカルラ。しかもその服装は他のメンツと一緒に黒であるが故に熱を集めてしまうのである。

「あ、あの上着持ってくれたりとかは」

「「自分で持て」」

「はーい……」

 薄着姿になった二人は苦しむカルラを見て呆れるしかなかった。

 ジャケットを脱いで腰に巻く。それでもまだ暑くて仕方ない。今から戻ろうにも結構距離はある。いっそのこと全裸になるかなんて馬鹿なことまで考えていた。


 長い道のり、やがて周りの風景は山道へと切り替わる。


「……今のところ、何もないな」

 アキュラは薬草の生えている地点までの登り道で首をあちこちに向けている。

「ヒヤリ草はまだ上の方だろう?」

「いや、手続きをしてる際におかしな話を聞いてな」

 レイブラントの疑問に返事をする。

 ここへ向かう最中、観光ガイドから何やら注意をされたらしい。

「この地は特定のメンツだけにオープンされている。結構な頻度で収穫に来る奴らがいる……ただし制約があってな。半年に一回、そして収穫できる量も一人限度額が決まっている。乱獲は禁止されているのさ」

 この島の最低限のルールである。その辺に制約をつけなければ、あっという間にもぬけの殻になってしまうからだ。

 ヒヤリ草も万能薬の材料として高値の金になる。それ以外にも有名な収穫物はあるようで商人から見れば宝の山なのだ。

 一方的な収穫をさせないように限度を決め、そこから戻ってきた際には荷物検査まで行われる。それで今後、このエリアを贔屓にさせるか判定するらしい。

「その回収品の中でな、最近ヒヤリ草の発見報告が少ないらしい」

 ここ最近でヒヤリ草を収穫しに来たというメンツからの報告。

 発見こそ出来たとしてもそれは依然と比べて少ないらしく、最悪の場合は指で数えるくらいしか存在していなかったとのこと。

「何が起きているのかは分からないが、念のため気を付けろって観光スタッフが」

「鳥や動物が暴食をしている可能性が?」

「かもな。ライオンやらトラとか危険な動物の可能性もあるだろうな」

 何故、ヒヤリ草が少なくなったのかは現地スタッフも分からないらしい。

 ここにいるメンツはライオン程度の野生動物くらいには負けはしないだろうが注意しておく。中には熱射病で今にも倒れそうなアホがいるのだから。

「くぁあ、あっちぃ……ピザトーストのチーズのようにとろけちまいそうだ……」

 暑さで頭がやられているのは明白、判断が鈍ってそのまま獅子の餌にならないかが不安だ。

「情けない醜態も見せる奴だ」

「なぁに~?」

 ボヤけている頭だが、悪口を聞き取れるくらいの元気は残っているようだ。

「盾のお兄さん~? シルフィさんに大将、そんでもってウチのお世話係には結構紳士的に対応していらっしゃるみたいじゃないですか~?」

「それがどうした?」

「自分も一応先輩なんですよ~? ちょっとくらいは敬うとか気を遣うとか……それともアレですか~? その優しさは女性だけですかぁ~? 人種差別ですかぁ~!?」

 太陽で頭が溶け切ってるのかその愚痴はいつにも増して粘着質のような気がした。指にまとわりついた接着剤のような鬱陶しいトーンと喋り方でレイブラントへと接近してくる。汗まみれの頭と顔面を近づけて。

「何故だろうな。お前に対してはそんな気遣いを見せる必要がないと体が反応してな」

「ぶー! やっぱり差別だー!!」

「なら先輩らしく振舞え。礼儀を見せるに値する見本ある先輩としての姿を見せろ」

 正直に言われたことで怒る以前に発狂。いや、やっぱり怒る。

「なんだよー! 俺だけそんなに頼りなく見えますかぁ~!?」」

「いや。頼り甲斐と言うのは違うと思うが、お前の実力は買っている」

「……んん?」

 突然の誉め言葉? 溶け切った頭のまま、カルラは首をかしげている。

「国のトップを前にしても堂々した面構え。奮闘する姿、あれだけの怪物を一振りで薙ぎ払った実力。見事なものだ。お前は異世界人ディフェレンターだと聞いている。そして向こうの世界でも戦士だったとか……ヒーローと自称できる当たり、相当な猛者だったのだろう」

 大絶賛。これにはカルラの気持ちも手のひら返し。

「……何ですかァ~! 随分と話の分かる騎士様でございましたかぁ~!!」

 ドンと背中を叩き、後輩を可愛がるかの如くレイブラントへ更に距離を近づけた。

「実際はただ周りの空気を読めない能天気という可能性もあるがな。あの怪物も実は大したことのない見た目だけの奴だった可能性も」

「だぁ~! やっぱ俺以外のイケメンとハンサムは嫌いですわ~!!」

 手のひらクルリの大反論。実は大したことのない奴で勘違いなのではと。

 これまた堂々と言いはったレイブラントを前にカルラは舌を出しながら距離を離す。やっぱり敵だ、と。

「もういいです!」

 そしてカルラは二人よりも先に前進。ヒヤリ草の収穫地点まで一番乗りになってやろうと駆け足で進み始める。

「だったら頼り甲斐のある男だってところ見せましょう! その減らず口と態度を、女子が気持ち悪く思うぐらいの猫なで声と媚を売る顔に変えてみせますとも! ですので、どうかご賢覧、」

 宣戦布告。その瞬間だった。

 


「って、ぎゃぁあああああッ!?」


 ----轟音。そしてカルラの悲鳴。

 刹那の一瞬。アキュラ達も状況を理解するのに時間をかけた。


 

 カルラが今まさに通ろうとした山道が、突然。

「あぁあああれええぇえええええええええ------」

 吹っ飛ばされてしまったカルラはそのまま、山道の崖下のジャングルの方へ真っ逆さまに落ちて行った。


「「……えええぇっ!?」」

 やられた。何故か知らないがカルラがやられた。

 墜落する人工衛星のパーツのように煙を立てながらカルラは樹林の海へと消えていく。

「「……」」

 崖の下を覗き込むが、カルラの様子はそこからでは見えない。

「よっと」

 太ももに巻き付けたホルスター。アキュラはそこから無線電話を取り出す。

「もしもし、生きてるかー?」

『はい、なんとかぁ……』

 奇跡。どうやら生きていたようだ。生存報告が二秒もかからないうちに向こうからかかってきたのである。

「頑丈だけなのは確かなようだな」

『腹も煮えるような悪口が聞こえますなー』

 皮肉交じりの悪口を拾ったようである。やはり地獄耳。

「どうする、そっちに行った方がいいか?」

『いえ、これくらいなら追いつきます。なんなら先に行っててくださいな』

 それだけ言い残し、カルラから電話を切った。


「だってよ。そういうわけだから先に行くとする」

 電話も切れたところで……無音。

「だがその前に、」「ああ、そうだな」

 今のはというわけではなさそうだ。


「そこで私たちの出迎えをしてくれた野郎は何者だ?」

 アキュラとレイブラント。

 二人同時、向けられている視線に対して臨戦態勢を取る。




「……すまないが、薬草目当てなら諦めて貰おうか」

 人影だ。その数四人。

 隣の崖上からアキュラ達を見下ろしている。

「金になるのでな。一つ残らず回収させてもらう」

 その中央にいるのはシルフィと同じ背丈の男。

 狐の耳と尻尾。しかし服装はそれには似合わないスーツ姿とサングラス。


「お前達もそれが目当てなら……ここで消す」

 妖狐ともいえる存在。不思議な男から言い渡されたのは宣戦布告であった。

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