タイトル.20「真夏のアイランド(前編)」
クルーラーアイランドへ予定通りチェックイン。
「揺れるぞー、気をつけてな~」
あれから結構な時間が経ったがシルフィの具合が良くなる気配はない。
三割程度のチャンスがそう易々と芽生えてくれるほど世の中は甘くはない。悪化する様子も感じないが、油断ならないのがこの難病。
「はい、足元注意~。はい、いっちにさんっし」
「いっちに、さんっし」
アイランド着陸後、シルフィを背負いながらカルラは梯子を下りて楽園の地に足をつける。
片手で彼女が落ちないよう支える。器用かつ力自慢が試されるこのワンシーン。無事成功したことにカルラは溜息を吐く。
『ご主人。そのまま、どさくさに紛れて尻を触ろうとしたり、胸の感触を楽しんだりはしないようにするのだ』
「言ってろ、クソガキ」
言われなくても子供の体に用はない。これ以上のセクシャルハラスメントとやらには手を染めないよう注意いたしますと、携帯端末に戻ったヨカゼ愚痴った。
「レイブラント」
「なんだ?」
「フリーランスのメンツ内のみで使用する無線電話だ。よほど離れない限りはこれで通話は出来る。迷子になったり、緊急事態が起きたりしたときはこれで連絡しろ」
いつの間にか用意していた四機目の無線電話。いや、元より予備として用意していたのだろう。
何より本人が言っていた、もう一人くらい腕の立つ用心棒を雇っておきたいと。巡った地で目星に叶う腕利きを見つけたらスカウトする気満々だったのだろう。
「分かった」
「なくすなよ? 高いのもそうだが、情報漏洩が一番怖いからな」
受け取った無線電話をコートの胸ポケットにしまう。
「んじゃ、一度リゾートへ向かうとするか」
シルフィをリゾートの病棟へと運ばなければならない。なにより自身たちの停まる宿の確保もある。
最初にやっておかなければいけない事。それを終えるために一同はリゾートビーチへ向かう。
「カルラでいいか?」
「ん、どうかしました? 盾のお兄さん」
レイブラントに声をかけられたカルラは首を傾げる。
「その姿勢では負担がかかる。もう少し姿勢を低くしてやったほうがいい」
「あー、はいはい。了解ですっと……」
小言がてらの指摘にカルラは腰を低くし、猫背になった。
『ご主人。女性への気遣いに気をつけよ』
「女の子をおんぶしたこと人生で一度もないのでね……」
悲しい事実にカルラは涙目。女の子の扱い方の難しさに心を痛めたようだ。
『まぁ、女友達はご主人には無縁であるからな』
「バッキャロォー! 俺にだって、女友達の一人くらい……!」
「えぇっ!? いるのか!?」
アキュラ、思いがけず声を上げる。いつも以上にオーバーなリアクション。
「失礼じゃねぇの!? それぇ!?」
こんな性格面倒くさい上にデリカシーゼロ。彼氏には愚か、友達として置いておくのも難しく感じるこんな男に女友達がいるのかと驚愕を露わにされた。
「まったく大将も存外失礼ですなぁ!?」
「わ、わりぃ。あまりに予想外でつい……」
誰も味方はいないのかとその場で萎れた。
「そうですよ、いますよ! 女友達くらい……そう、」
虚勢を張るような態度のカルラ。
「女友達、くらい」
その表情は次第に自慢げな態度から、落ち込むようなものへと変わっていく。
『あっ……!』
何かを思い出した。そう言わんばかりの声をヨカゼは上げた。
『す、すまない、ご主人……! そんなつもりではなかった!』
「え、ああ……気にすんな」
途端に謝りだすヨカゼ。そして、それに対し気にするなと一言のカルラ。
「ん……?」
早変わりした空気に、アキュラは首をかしげていた。
やっぱり彼に女友達など一人もいなかったのか。ハーレムは愚か、一対一のお付き合いすらも程遠いというのか。それゆえに落ち込んだのか。
「……言い過ぎたのなら、後で何か奢ってやるか」
やり過ぎたのなら謝るべきか。アキュラはそう思いつつ頭を掻いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リゾート地へ到着、アキュラが手続きを終えている間にシルフィを島の病棟のベッドへと運んでいく。
フリーランス内のベッドの環境が悪いというわけではないがアソコよりは寝心地は良いだろう。アロマと薬の香りがシルフィの体を落ち着かせてくれる。
「すみません。彼女をお願いします」
病棟の医者と看護師たちにシルフィを託し、カルラとレイブラントは受付へと向かっていく。
「しっかし、綺麗なビーチですねぇ。ハチきれそうな水着にマブイ姉ちゃん。どうせなら遊びにここへ来たかったものですよ」
窓から見える海の風景。そこには水着姿の女性がビーチではしゃぎまわっている。
そこには当然、彼好みの綺麗なお姉さん系がゴロゴロいるわけだし、ナンパのし甲斐がある若いギャル達もいるわけだ。彼にとっては天国ともいえる場所である。
「気軽なものだな」
「冗談ですよ。ヒーロージョーク」
その場を和ませるための冗談ですとカルラは口にする。その一言にどこまで本音があるかどうかは言うまでもない。
「よっす、手続きは終えた」
アキュラと合流。
「おや?」
その際、彼女の姿に若干の違和感を覚える。
「なんか、ヤケに開放的ですね? 大将?」
目の前にいたアキュラはいつにも増して開放的な見た目。
それもそのはず、いつも身に着けていた御洒落のジャケットを預けてきたようだ。黒い皮生地チューブトップにかなり短めのショートパンツと、コートがなくなればビックリするくらいアグレッシブな衣装が公になっていた。
「しゃぁねぇだろ。リゾート地ともなれば暑くて仕方ねェ。お前らも上着くらいは脱いどいたほうがいいぞ。薬草のある山岳地帯はここ以上に灼熱地獄だ。お茶のペットボトル一本じゃ足りねぇぞ」
脱水症状対策はしっかりしとけ。これ以上病人を増やすなと上司からの指示。
オープンなリゾート地。一般市民にも開放されているビーチの方は水分や冷房器具など熱射病を逃れる保険は幾らでもある。
だが人間の手があまり行き届くことはない大自然地帯。そこは水分と冷房器具も自己負担。ビーチ以上の灼熱が待っているのだ。
厚着なんかで突っ込むなら自殺行為である。
「了解した」
「自分はこのままで。暑いのは慣れてますので」
コートを脱いだレイブラントと違って、カルラは別に問題ないとアピールをする。
「本当にいいんだな? やっぱり暑いとか言いだして脱ぎ捨てた上着を持ってやるつもりはないからな?」
「ノープロブレムだって言ってるのです。 自分を誰だと心得てますか。天下無双のヒーロー・カルラ様! これくらいの暑さ、どうということはありませんとも!」
絶対の自信のもと、腹太鼓を叩きながらカルラは外へ出て行った。
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