タイトル.13「マイナスメディアな世の中(前編)」
『よう、みんな元気にしているかYO!? 今日もノリにのったナンバーを流していくぜぇ! カーニヴァアアルッ!!」
フリーランス内で流れているのは、ヒミズより発信される【ハウンド・ドッグ・インターナショナル】と呼ばれるラジオ放送だ。ヒミズに登録された乗り物のみ、このラジオ電波を受信することが出来るのだ。何処にいても聞ける。
『今日のナンバーはァ……みんなの妹系アイドルのリンちゃんの新曲! 「ドキドキ! ヤル気? 超発起ッ!!☆彡」だぜぇ! 皆テンションあげて行こうや!』
ラジオの内容はそこらのB級ラジオと特に変わりはない。
主にヒミズで大活躍中の仕事屋の紹介やその活動内容の報告。ここ最近ヒミズで起きた騒動のお知らせ。後はゲストを呼んでトークだとか、頃合を見てオススメのヒット曲を流すとかそのくらいだ。
「……ケッ。またコイツの曲かよ」
今回流れた曲はアウロラ全域で超絶人気のネットアイドル・リンの新曲。
「好きじゃねぇんだよな。こういうキャピキャピしたノリのやつは」
操舵室でラジオを聞いていたアキュラは少しばかり不機嫌だった。
彼女曰くネットアイドルのノリはあまり好まないらしい。歌詞が薄っぺらだとか、可愛らしい絵で釣ってるだけだとか色々理由がモリモリあって。
「はぁ。チャンネル変えたところで、だな」
一度チャンネルを変えようとしたが無駄な事だと一息つく。
そう、この時間は……全世界で発信中の『リンちゃんラジオ』の時間。その名の通り、ネットアイドル・リンによる独占生放送ラジオである。しかもどのチャンネルも揃ってそれが流れるのだ。
「これの何処がいいんだか……分かんねぇな。今どきの男共の趣味ってヤツは」
ヒミズでもネットアイドル・リンの人気は絶頂。故に何度も曲が流れるし、彼女の話で盛り上がる。アキュラはうんざりしているようだった。
「まっ、いいか。もうすぐ目的地に着くし」
アキュラは立ち上がり、ラジオを切る。
「アイツらを起こしに行くか……」
カルラとシルフィ。二人にとって最初の仕事場となる場所へ-----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
繁栄都市メージ。総人口はおよそ10万ほど。
ロックロートシティと規模は小さい。科学的進歩に高度経済電気街としてのイメージが強かったアチラと違ってコチラはクラシックな街並みが目立つ。地球で言う、優雅な洋風な街並みのイメージだ。
「よっしゃぁ! ついたァ!」
フリーランスの出入り口から飛び降りたカルラは両手を上げアクビをかます。
空の長旅に慣れていないわけじゃない。だが長時間、空にいるとどうしても体は重くなる。外に出た矢先、解放的に両手を広げ新鮮な空気を吸い込んだ。
『ご主人。ハメを外しすぎるなよ? 気を抜きすぎると、前みたいに涙流しながら逃げる羽目になるぞ』
「はいはい。じゃあピンチになったら呼んであげるから、その間は体を温めて眠っておいてくださいなっと」
『そうさせてもらう。先輩と同僚を困らせるなよ』
スマートフォンの画面に映っていたヨカゼちゃんの姿が消える。
カルラの言葉一つでオンオフを思うがままにできるようだ。ご主人様に対して強気な態度で喋るようにプログラムされてはいるようだが……こういった面ではしっかり言う事を聞くように作られている。しっかりAIらしい一面もあるようだ。
「ここがメージ、ですか」
「おや? もしや意外にも来るのははじめてだったりするか?」
カルラとは違って、ゆっくりと梯子を使って艇から降りるシルフィ。
それとは真逆、アキュラはカルラ同様に出入り口から飛び降りて着地。上から恐る恐ると降りてくるシルフィを見上げながらの問い。
「自然遺産、政治的情勢など……他の都市と比べて穏やかな場所だと耳にしたことがあります。来るのは初めてです」
シルフィはアキュラを見たままスカートを押さえて降りてくる。覗かれたのではないかと軽く睨んでいた。
「国立図書館、千年樹、街はずれの山岳に神秘的な滝の数々。街中の川は泥で濁ってはいるが遊び場として有名だ。この街だけで観光案内に登録されている名所が幾つもある」
睨んでくるシルフィに対し、謝るように片手を添える。
「まぁ知ったように語るオレも初めて来るけどな。ココ」
しかし表情は全く悪びれもしていない。存外可愛らしいモノを履いてたなくらいのノリで小馬鹿にしてるようだった。
この街の滞在期間は二週間。それがタイムリミットとなる。
それまでに仕事が終わるかどうか。一同の腕が試されるわけだ。
「宿は取ってます?」
「現地で探す。ここに来る間に目星はつけた。今の時間なら予約取れるだろ」
二週間の停泊を手続きを電話で行う。宿側からの返答を待つ。
「空いてなかった場合は?」
「艇で寝る。野宿だけはさせないから安心しな」
「それだったら艇で過ごしたほうが安上がりでは?」
「仕事の合間に観光を楽しむのもオツなもんだろ?」
折角の観光地。現地の身の楽しみを味合わないのは勿体ない。
現地の食べ物に現地の文化、そして現地のホテルで一泊。少しくらい遊んでもバチは当たらないだろうというのがアキュラの意見だった。
「それは同感。ハメの外し方を理解している上司で安心しますな」
「そういうオレはお前が以外にも仕事熱心だってことに驚いたぜ」
「仕事の出来て、融通の利く男はモテる。偉い人が言ってたものですので」
以前に料理や音楽の事についてもモテるのが理由でやっていると口にしていた。
仕事云々についてもこう語るようでは人助けとやらもモテるのが理由なのかどうかと不安にもなる。シルフィのふとした思い込みだ。
「チェックインしてから依頼主の待ち合わせ場所へ向かうぞ」
そこでようやく宿側が電話に出た。軽く手続きを終わらせていく。
アキュラが宿をとっている間に仕事内容の確認だ。
この街の政治の大半を取り仕切っているという伯爵階級の男が裏商売に手を染めているという情報を自警団の一人が入手したのだという。
相手は伯爵階級。あらゆる手を使って調査の妨害をするはずだ。行動するのには人手が足りず、周りの連中に迂闊な口を出せば密告の恐れもあるなど身動きが取れない状況らしい。この街は民の上下関係にやたら厳しいようだ。
そこで、裏世界で動き放題の仕事屋へと依頼を送ったとのことだ。
今回の仕事は裏商売の証拠を掴む事。
待ち合わせ場所は国立図書館。指定された時刻に顔を出すためそこで落ち合う。
「よし、宿は取れた。荷物を置きにいくぞ」
スケジュール通り行動は迅速に。
どうやら宿の部屋は空いているようだ。現地ならではのハプニングの恐れもなくなったところでのんびり宿を目指す。
「さぁーて! 一発目のお仕事頑張ると致しますかー!!」
気合十分! これから始まる最初の仕事にカルラは空気を入れ替える!
----その矢先の事だった。
「おいっ、来るぞ……!」
「やっべぇ、逃げろ逃げろっ」
さっきまで街中をウロついていた住人達の様子がおかしい。
何かが目に入ると顔色を変えて一斉にその場から去ろうとする。
「アレ? 何々?」
「どうしてみんな、急に隅へはけて……?」
気が付けば通路の真ん中に堂々と立っているのはアキュラとカルラとシルフィの三人のみ。取り残されたようにポツンと。
「なぁ、アイツラどかないけど、もしかして観光客なんじゃ……」
「言った方がいいんじゃないのか?」
「もう遅いっ。見て見ぬふりするしかねぇよ……!」
道の真ん中に立っている三人を見るなり、住民達は焦っているように見える。
「んん~? なにがどうなっているの、」
「……そこの者達」
呆気にとられていたに一同に声がかけられる。
「邪魔、であるのだが?」
声のした方向へ振り替える。
羽飾りのついた扇を手にするドレス姿の女性が一人。
高圧的な態度で見下ろす女性は道の真ん中に佇んでいるカルラ達に……ゴミを見るような視線を送っていた。
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