おのれ魔王軍 ~異世界転生したおっさんは特撮ヒーローの力で頑張るみたいです~

ヤドクガエる

第一章 白銀の戦士

01 男、最期を迎える

──ひとりの男が、呆然としている


──辺りに広がるのは破壊された家屋、魔人の死体、そして…

…赤い水溜まりの中にある、潰された肉塊恩人


──襲撃された村の中で、敵を撃退したその男はただ一人、怒りに震えていた


──魔王軍の残虐さと、己の弱さと未熟さに


──全ての始まり《終わり》は五日ほど前の銀行強盗事件であった…


▪️▪️▪️▪️▪️

「こちらマイザワテレビです!私たちは今、銀行強盗が立て籠っている現場に来ました。見てください!現在、強盗が人質を盾に、警察に交渉をしているところです!」

 時は平成も終わろうとしている頃、事件が起きた。静岡県舞沢市、とある銀行内にて強盗事件が発生。強盗たちはそのまま客を人質にして立て籠ったのだ。

 そしてこの彼、獅子浜勇は現場の最前線にいる。


「目の前に、助けを求める大勢の人がいるのにッ…どうしてッ…」

「落ち着け獅子浜、今は俺達が動かないことが、人質たちにとって1番安全なことなんだ」

「分かってますッ、でも俺はこんなの見ていられない!韮山さん!俺一人で彼ら人質たちの代わりになることは出来ないんですか!!」

「だから落ち着けと言っているだろうが獅子浜!今、俺達は上の決定を待つことしか出来ないんだぞ」

 彼の名は韮山雄大。獅子浜の上司であり、現事件現場を仕切る者である。

 彼もまた、強盗犯と対策本部の交渉をただ聴くしかできない状況に歯がゆさを感じている。

(この硬直状態はまずい…強盗犯の顔にも焦りが出てきてる…早くどうにかしなければ…)

「本部、聞こえますか、こちら現場の韮山です。こちらから直接交渉する機会を1度ください」

「こちら本部、韮山か、刺激を与えることだけはするんじゃないぞ」

「承知しました」

 本部もこの硬直状態をよく思わなかったらしい。韮山の頼みはあっさりと通った。

(韮山さん…俺が交渉する機会をくれるためにわざわざ…)

「ありがとうございます!俺、彼らと直接話し合ってきます!」

 韮山の電話の内容を聞いていた獅子浜は、自分のためにして貰えたのだと考え、礼を言った後に両手を上げた状態で犯人のひとりに近づいていった。

「おい待て、お前のためじゃない!戻れ!」

 無論、獅子浜のためではない。犯人たちの苛立ちお抑えるために、韮山自身が何かする予定だったのだ。しかしもう遅い、ここから何か自分で動けばさらに悪化する可能性がある。

 そう考えた韮山は、ただその場を見守ることとした。

「そこの犯人!銀行強盗をやった理由はもう聞いたぞ。君たちの辛い現状もおおよそ分かっている」

「なんだお前はっ!俺たちに何を言いたい!」

 獅子浜は迷いの無く、決意に充ちた目で相手を見る。そのあまりにも堂々とした態度に強盗のメンバーはたじろぐ

「俺が聞きたいのはただ一つ、何も罪のない、そこに居ただけの人達を捕らえて心が痛まないのかという事だけた!」

「ハッ!笑わせんなよ。まぁ、運が悪くて残念だったなとは思うけどな」

「なら俺から交渉が一つある!俺と引き換えに人質を解放してくれないだろうか」

「そんなことして俺たちになんのメリットがあるんだよ!とっとと戻りな!」

 強盗の考えは真っ当である。何人もの民間人を手放してまで、警察官1人を人質にする価値など殆どない。

「そこを頼む!俺には、罪のない人々が!恐怖に怯えるのを見ていることなんて出来ないんだ!」

「だったら本部にでも頼むんだな!」

 クソッと文句を言いつつ、獅子浜は元の位置に帰ると、怒りと安堵を含んだ顔の韮山に迎えられた。

「後で反省文だそ獅子浜。それと良い知らせだ。交渉が纏まったらしく、もう時期バスが来る。その時人質が半分解放だそうだ。」

「じゃあ10人くらいの人質がここで助かるんですね!」

「ああ、笑顔で迎えてやれ。それがお前の次の仕事だ。」

 獅子浜が話をする間に、話が一通りまとまったのであった。

(あと半分、あと半分の人質も絶対に助け出すぞッ…!!)


 …

 10分ほど経過し、バスが到着した。その後の展開はあっけないものだった。強盗たちは人質たちを連れてバスに乗りこみ、警察が道をあけたことを確認すると人質の半分を解放。バスは出発する準備を始め、銀行周辺は落ち着きを取り戻すかと皆が安堵した時だ。

「どうせ捕まるんだ!ここでひと暴れたっていいだろォ!」

「やめろ!」

 バスの中にいる強盗の一人が、解放された人質の1人に銃を向ける。と、同時に、獅子浜は迷わす人質たちの前に出た!


 ズガガガ!!


 その直後には、発砲された弾丸が何発も獅子浜の身体を撃ち抜いた。


 …

(人質は…無事か…?)

 撃たれた時でさえ獅子浜は、人質のことを考えていた。


「獅子浜ァ!!」

 薄らいでいく意識の中で最後に聞こえたのは、警官になって以来長きに渡って世話になってきた上司、韮山の悲痛な叫び声だった。


(あぁ、こんな、所で、倒れる、わけ に は……)

 最期の最期まで諦めない心に対し、身体は呆気なく、限界を迎えるのであった。


 …

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