ポイント還元5%

夏秋冬

ポイント還元5%

スーパーのレジでスマホをかざしてヒノマルpayで買物を済ませた。

買ったのは、魚の切り身とサラダ用の野菜セット、それに朝食用のミルクとヨーグルト。動物性たんぱく質と野菜は栄養バランスが良いはずだし、朝食も悪くないはず。栄養バランスの良い食事を摂取しないとヒノマルpayが警告を発するから毎日の食事には気をつけないといけない。


民間が運営しているとは名ばかりの『ヒノマルpay』は半官半民のQRコード決済だ。スマホでのキャッシュレス支払いはサービスが乱立したが、結局、政府が出資するこのサービスがどこの店でも使えるようになったことから一番普及することとなった。

最初からそうすればいいのに、いままで他のサービスで貯めたポイントはどうなるのか、そんな声もあったが、やはりどこでも使えるサービスが一番便利なのだから結局淘汰されてしまう。それに政府はキャッシュレスで買い物をすれば5%をポイントの形で還元するという政策を実施していて、それなら皆が使っているものを、という流れになるのは当然のことだ。


しかしヒノマルpayを使えば、日常の買物の履歴は全て政府に把握されていることになる。

食料品を買っても偏食だと思われればアプリが警告を発するだけでなく、この人物は健康的な食事をしていない国民だとカウントされてポイントが減点されてしまう。健康で勤勉できちんと納税する国民であることを政府はポイント還元の形で奨励している。


日曜日は近所の老人ホームへボランティアに行った。毎週ここに来て雑用を手伝うようにしている。所内の清掃と介護の補助を手伝う。そして事務所でヒノマルpayをかざして休日に8時間のボランティアを行った証明を受ける。ボランティアでのポイント加点は微々たるものだが少しずつでも足して良い国民でいなければならない。5%還元もさることながら低ポイントでは国民としての級数が下がる。マイナス200ポイント以下の3級国民にでもなれば医療や福祉も普通には受けられない。年金だって減額される。


街でゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱へ持って行って捨てる。公共交通機関ではお年寄りに席をゆずる。どんなに車が来ていなくても信号は守る。全部、街頭の監視カメラが見ていて顔認識で判断して小さなポイントを与えてくれる。ちゃんと認識されていれば、アプリが知らせてくれる。「あなたはゴミを拾って美しい街に貢献しました。プラス1ポイントです」って。


市役所に行った折にマイナンバーカードで自分のポイントを確認してみた。今のポイントはマイナス120ポイントだった。まだまだ普通の市民とは言えない。軽犯罪を犯した人間でももっと上のポイントになっているはずだ。こつこつ善行を繰り返して稼ぐしかない。


ふと思いたってSNSで、政府の政策はまっとうで今の自分達の良い生活は現政権のおかげである、といったことをつぶやいてみた。明らかにごますりで恥ずかしいというか屈辱的ではあるけれど。そうすると数分後に「あなたは国家に貢献できる素晴らしい国民です。プラス1ポイントです」とアプリが知らせてくれた。嗚呼こんなことまでしなければならないのか。


しかし消費税10%の増税反対デモに参加したのがいけなかったな。あれで随分マイナスになったから。不用意に政治を批判すれば3級国民に落されてしまう。

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ポイント還元5% 夏秋冬 @natsuakifuyu

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