短編詰め

やちちち

第1話 不思議な骨董屋

この骨董品屋が開くのは月が出ている晩のみ。

新月になると共に姿を消し、新たな街へと向かう。

旅の目的は君と共にあることで、君がここに居たいと思ってくれるようにすること。

そのために僕は何時だって新しく、面白く、可笑しくなくてはいけない。

ワンパターンな芸人はすぐに廃れてしまうのと同じように、飽きられてしまうから。

だから今日も僕は燕尾服を着て、腰に刀をさしてソファーで寝そべり1日中惰眠を貪る。

君が起きてくれるのは月が隠れた新月の日だけで、僕はその日が来るまで君が笑ってくれるような素敵な品物を仕入れるために旅をするのだ。

今回の旅の成果は結構自信がある。

時を戻せる懐中時計を手に入れたのだ。

これを君にあげれば君は昔のように毎日起き上がって、ご飯を食べて、走り回って、疲れ果てることができるはずなのだ。

とうの昔に時を止めた君の身体を繋ぎとめてしまった僕に君は困った奴だと大笑いしたけれど、その夜大泣きしていたのを知っているんだ。

君は僕のような化け物ではなく人間であるべきだった。

僕のエゴで君を永遠に縛り付け、自由を奪った。

君が新月にしか目を覚まさないのは月を住処とする僕に対する罰なのだろうか。

まんまるじゃない三日月が好きなんだと微笑む君から月を取り上げたのは、どちらへの罰なんだろうか。

不確かな延命措置を施したのは紛れもない自分だというのに、君のいない夜はそんな馬鹿なことばかりが頭をよぎる。

桂男として生まれた僕は満月でない月を見続けた君の命を吸い取らなくてはいけなかった。

僕が君を見つけてしまったから。

「おはよう。まーたなんか変な事でも考えてるの?」

べしんと強く頭を叩かれ落ち込んでいた思考と頭を上げた。

「おはよう!!もう君が目覚める時間か!待ち遠しくてぼーっとしていた。」

いつ見ても綺麗な猫目を本当の猫のようにすぅっと細めて忘れてただけじゃないよね?と睨んだ。

「ま、お前が忘れるわけないか。僕の事大好きだもんなぁ」

「勿論だよ!……ねぇ君はもし、僕と出会う前に戻れるとしたらどうする?」

見たくなくてずっと懐にしまってあった懐中時計を取り出して尋ねる。

「別に戻れなくたっていいよ。だって、僕は何度だってお前を探して月を眺めるんだから」

懐中時計を奪い取った後くるくると物珍しげに眺めてぽいっと放った。

「君はもうその月を眺めることすらできないのに?」

用済みと言わんばかりに放り出された懐中時計を見つめ情けない声を出す僕に君は大笑いした。君の笑い声なんて聞き飽きている僕でも驚くほど大きな声で笑った。

「月ならもうずっとここにいるでしょ?それとも、僕がこんな時計で喜ぶとでも思ったの?」

目に涙を浮かべるほどに笑った君は僕を月だと言った。

その姿は眩しくて、美しかった。

「僕の太陽は君だよ…」

君の涙はみるみるうちに笑い涙から嬉し涙なのか悲し涙なのかわからない涙に変わっていった。

「太陽と月ならずっと一緒にいられるね」

ってぐずぐすの顔で僕に告げた。

そんな君に僕は何度だって恋に落ち、永遠に愛するんだろう。

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