地底の鱗
地底の鱗は2018年10月に文芸社から刊行されたハイファンタジーです。ウェブ書店等でお買い上げいただけます。税込み1000円。
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文芸社 作品紹介ページ
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-19778-4.jsp
「あそこには楽園があるのだよ」
「世界を汚し壊し搾取して、滅びに導いた悪魔どもが住まう、こんな世界で――」
天上と地上が憎しみ合う世界で
爬虫類を飼う国に生きる少女を描く異世界ファンタジー。
天上には“楽園”があり、地上では彼らを憎む者たちが都市連合を形成している。巨大爬虫類を飼育する穴の底の都市には、アルビノのニホンアシトカゲを駆る飼育員の少女・レセルタが暮らしていた。彼女に想いを寄せる幼馴染のムウィング他、移動貿易都市の若者たちは爬虫類飼育員として留学するが、天と地の戦いはやがて彼らをも飲み込んでいく……。壮大なスケールで描く長編小説。
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後の作品で
ただの趣味を存分に詰め込んだ展開に、非常に残酷で後味の悪い結末の本作ですが、
どれくらい趣味に走ったのか? 以下に記した本作の後書きをお読みいただければ
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ニホントカゲをご存知でしょうか?
ニホンアシトカゲではなく、ニホントカゲです。
つるりとした質感の、光沢のあるトカゲです。地域によっては生息していないこともありますが、大抵は似たようなトカゲが分布しております。コバルトブルーの尾の美麗さに目を奪われたことのある方も多いのではないでしょうか。成長すると尾の色は抜けてしまうので、成体と幼体とで別種だと思われていることもあるかもしれません。
本書を執筆するに当たっては様々な人や物、知識や経験、実話や物語、生物や無生物から発想を得ましたが、この場では生物について言及させていただきたいと思います。
まず何と言っても冒頭に紹介したニホントカゲです。一匹のニホントカゲとの出会いがなければ、この物語は誕生しなかったでしょう。
私がそのニホントカゲと出会ったのは数年前のことです。とある建物の廊下に、そのニホントカゲはいたのです。孵化してからさほど時間も経っていないと思しき幼体でした。
目を疑いました。形は紛れもなくニホントカゲでしたが、とてもニホントカゲとは思われませんでした。幼体特有の薄い皮膚の構造色を透かした血の赤が、まさにルビーのように輝いていました。背中を走る二本の線は白く縁どられた金色で、コバルトブルーの尾は滲んだような薄い青。あれほどまでに無機質的な美しさを備えた生物を、私は他に知りません。とても生物とは思えないような、美しい生き物でした。そう、アルビノのニホントカゲです。
昨今は爬虫類のペット化も進み、一部の爬虫類ではアルビノが当たり前のように売られてはおりますが、ニホントカゲのアルビノなど聞いたこともありませんでした。ニホントカゲは本来土の下に隠れているものですし、素早いので私のように鈍重な人間にはなかなか捕まえられません。極めて貴重な自然発生のアルビノ個体が私の前に現れ、しかもあろうことか逃げる場所も隠れる場所もない建物内の廊下を歩いている。スピリチュアルなものを信じない私ですが、この出会いに関しては未だに何かぞくぞくしたものを感じます。
現在ペットとして流通している爬虫類の中でもメジャーなものは品種改良が日進月歩で進んでおりますが、品種改良は簡単なことではありません。まず遺伝子変異個体を手に入れねばならなりません。私が拾ったアルビノニホントカゲは順調に成長していたのならば爬虫類史(?)にその名を刻んだことでしょう。残念ながら私の飼育技術が及ばず、ほんの数か月で死なせてしまいました。悔やまれてなりません。
そのニホントカゲに対する夢が、ヴェロキという形をとり、それを中心として物語が形成されたのです。あの子が大きくなっていたらこんな色になっただろうか。こんな組み合わせで繁殖させて、どれくらいの期間でアルビノの子孫が得られたのだろうか。そんな楽しい妄想が、この物語には織り込まれています。
他にも様々な生物にお世話になりました。ニホンアシトカゲの動きはフトアゴヒゲトカゲやキノボリトカゲ、グリーンイグアナなどを参考に妄想しました。幼少期のニホンアシトカゲはこれにスズメ等の小鳥の動きを加えてみました。
また、私のイメージするニグルマヤモリの姿は「指が肥大化したトッケイヤモリにヒョウモントカゲモドキの尾を取り付けて巨大化したもの」です。動きは飼育下のニホンヤモリやホオグロヤモリを参考にいたしました。餌の昆虫を入れた後に水槽から響くガンガンという音が結構怖いです。なにか妙な想像を掻き立ててきます。
コウラナシゾウガメばかりは現生の生物の姿を参考にしていません。白状すれば、あれは恐竜です。恐竜と爬虫類では足の付き方が違うのですが、私の脳内に生息するコウラナシゾウガメとニホンアシトカゲは恐竜の足の付き方をしています。爬虫類の足の付き方では体にかかる重みを支えられないのではないかと思います。幼少期は甲羅があるので爬虫類の足の付き方をしているはずなのですが、甲羅が消える過程で骨格も変わっているのでしょう。なお、卵の形はウミガメのものを、質感はキノボリトカゲのものを参考にいたしました。
このように私の知識と経験と妄想と偏愛をぐちゃぐちゃと混ぜ合わせこねくり回して生じた混沌を織り上げた今作が、読んでくださった方に何かを残せたのであれば作者としてこの上ない喜びでございます。かなりイヤ~なものを残したかもしれませんが。
もしもまた機会がございましたら、作者の頭蓋骨の内部にひしめく混沌の一部を開示いたしたいと思います。そんな機会を頂けるように精進してまいります。
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