第35話 公爵令嬢は国王陛下とお話しする

冬になり、俺は遂に覚悟をする事にした。


と言うより吹っ切れた。


魔法の世界に科学があったっていいじゃない。


世の中が便利になるんだよ、素晴らしいじゃないか!


…いい加減、重曹とクエン酸の毎日から解放されたい。


もっと沢山魔法の実験がしたい。


という事で、お父様に私専用の実験棟を造って欲しいと直談判。


交換条件として提示した重曹精製機5台、用意しておいて良かった。


即答でOKを貰った。


「全力で造らせる、春までに造らせる。」


早く建ててくれるのはありがたいけど、実験とか色々するから丈夫に造ってね。


「建物を壊すほどの実験をするつもりなのか?」


…例え話だって。


可能性はゼロではないけど。




さて、今日は王宮へ招待されている。


恒例行事と化した王様との対談の日。


そして、この国の第三王子、ロナウド・アースフィールド王子と初対面するのだ。


緊張というか、落ち着かない。


王都からの迎えの馬車に乗って、お父様と一緒にお城へ向かう。


一応、専属侍女として、と言うか私のストッパー係として、リッカも一緒に来てもらった。


あと、大量の荷物を持って来た。


ロナウド王子と仲良くなる為のアイテム…になるはず。



お城へ着くと、いつものようにまず国王様の元へ案内される。


お父様と一緒に国王様へ挨拶すると、お父様とは別行動になる。


国王様と私は応接室のような部屋へ行き、いつものように二人だけで入る。


この二人っきりの対談ももう7回目。


ちっとも慣れない。


「相変わらず緊張しておるなあ、もっと気楽にしてくれて良いんだぞ。」


国王様は毎度これを言うけど、中々に難題なのだ。


「申し訳ありません、国王様を前に緊張をせずにいられる程の人間に至っておりませんでして。」


「全くもう、二人の時は儂に敬語は使わなくて良いと言っておるだろう。

国王のおじちゃんと呼んでくれたって良いんだよ?」


ここまでが毎回のやり取り。


どこの世界に国王陛下をおじちゃん呼びする奴がいるんだ。


国王様は私を姪の様に扱っているんだけど、それを私にも求めないで欲しい。


「そう言えば、先週辺りにブリキッド商会で新しい商品を出していたな。

儂も食べたが、あの芋はとんでもなく甘いんだな。

どうしてあんなに柔らかくて甘いんだ?」


え、国王様、お店に行って食べたの?


何でも、国の情勢を知るために、たまにお忍びで街や町に出向くらしい。


国王様が街中に出てきたら、大変な事になりそうだけどねぇ。


一応バレない様に旅商人に変装しているらしいけど、このオーラじゃすぐバレるでしょ。


今回は最後までバレずに並んで焼き芋を買えたらしい。


…並んだの?


「あの芋は、熱した石でじっくり加熱して作ったんです。

お父様には誰にも言うなと口止めされているので、内緒にして頂けますか?」


この人になら、言っても問題無い、と言うか無性に教えたくなった。


たかが石焼き芋如きでもう変装してまで並んで欲しくない。


「おお、儂とフランドール二人だけの秘密だな。

任せておけ、誰にも言わんさ。」


国王様楽しそう。


こう言うところが好感持てるんだよ、この人。


「しかし、やっぱりあの芋はフランドールが作ったんだな。

いつも思うんだが、どうやって新しい料理を思いつくんだね?」


前世で常食していた、とは口が裂けても言えないので、魔法の訓練中に実験していたら出来た、といつも通りの返答をした。


流石に、炭酸飲料の時は中々納得してくれなかったから、説得には苦労したよ。


泡立つ謎の水を、普通飲もうだなんて思わないからね。



「今日は、国王様に受け取ってもらいたい物があります。」


そう言って、国王様の目の前で、魔法を使い作っていく。


以前リッカに作ってあげた、発電機の改良版だ。


重曹製造機を作ってて気づいたけど、中身の構造がわかってたら組み立てた状態でも魔法で作れることがわかった。


その分、魔力もイメージ力もかなり必要とされるんだけども。


だから今作ってるのは、予め組み立てられた完成品。


しかも、リッカの時に作った重くて壊れやすくて全力で回さないと光らない粗悪品じゃなくて、軽量化して耐久性を上げて少しの動力で発電出来る様に作った改良品。


国王様の目の前で錬金魔法を使ったのは初めてだったから、すごいキラキラした目でその様子を見ていた。


錬金魔法を見るのは、人生で初めてらしい。


そんな国王様に、出来立てホヤホヤの発電機をプレゼントした。


「これは一体何だね?」


「そのハンドルを回していただけると、分かると思います。」


国王様がゆっくりとハンドルを回す。


そして、今回はしっかりと電球が光る。


「えっっ⁉︎」と言う顔をして、国王様がこっちを見てくる。


「これは、魔法を使わず科学の力で電気、つまり雷の力を起こす機械です。

私が実験を重ねて作ったものですが、雷魔法を使える国王様に、この発電機の事を知って頂きたいと思ったのです。」


さっきまでの和気藹々とした空気が一変して、緊張感漂う雰囲気に変わった。


…やっぱり、発電機は時期早々だったかな。


この国を便利にしていくには、国のトップの理解力が必要になる。


国王様には、然るべき時に然るべき方法で、この電気を普及してもらいたいと思っていた。


だからこそ、発電機について意見が欲しかった。


俺の覚悟吹っ切れを無駄にさせないように。


「…この機械の存在を知っているのは?」


「実験で初めて作ったものを私の専属侍女が持っているだけで、他の人には存在も教えていません。」


「その方が良い。

元々、雷というのは攻撃的な魔法だ。

使い方次第では便利になるのだろうが、今現状では危険だ。」


流石国王様、俺の言いたい事を言わずも分かってくれている。


「いつか便利な道具として使えるものを必ず作ります。」


「ああ、楽しみにしているよ。

くれぐれも危険な事はしないでくれ。

時々、無茶な事をして心配になると、お前の父から話を聞いておる。」


…私にはリッカがいるから、もう無茶なんてしてないのに。


お父様ってば国王様に話盛り過ぎ。


「交換条件を突き立てて、フランドール専用の実験棟を造れと言っていたそうじゃないか。」


お父様だってノリノリだったくせに。


「まだ5歳だということが、本当に信じられん。」


俺37歳だからね。


大人が読むのも難しい専門書を物凄い速さで読みあさって、初めての料理で誰も知らない調理法で国を代表するようなお菓子を作って、電気のない世界で発電機を発明した、国王陛下と仲良しの、50年に一人しか使えない錬金魔法が使える、国で最も名高い公爵家のご令嬢(5歳)て、どんだけチートだよ。


下手したら、そこいらのラノベの主人公なんかよりハイスペックかも知れん。


「儂の息子も5歳だが、フランドールと並べると霞んでしまうわ。」


5歳児にしてはかなり優秀と聞きましたよ、フランが異常なだけなんですって。


「そういえば、今日はロナウドと会うと言っていたな、そろそろ奴を呼ぶとするか。」


ついに来る、クロード王子が「問題児」と言っていた例の彼が。

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