第26話 公爵令嬢は3日間休む

お父様から言い渡された謹慎中の3日間は、家庭教師の先生は誰も来ないので、私はひとり、我が家の書庫の本をただひたすら読み漁った。


それこそ、歴史書や文献、聖書等貴重な物から、学堂員の教科書や職業専門機関の資料等の教材、ファンタジーやラブロマンスの様な庶民向けの小説等々、ジャンルを問わず、文字通り端から端まで。


これまでに読んだ物以外だけだとしてもまだまだ沢山あるので、初日の午後から3日目の夜までずーーーっと本を読んでいた。


2日目、3日目はお母様も出かけていたので、誰にも邪魔されずに済むと思ってたけど、私の行動を知ったお父様が2日目の夜に「3日間休めと言っただろう」と注意してきたので、「言われた通り魔法の訓練はちゃんとお休みしています」と答えたら、「そういう事じゃなくて…」と頭を抱えていた。




因みに、家族が誰もいない昼食は、初日に続き残りの2日も私が作った。


お母様の許可を取るのは、忘れてたことにした。


せっかく揚げ物のバリエーションも増えてきた事だし、更に揚げ物料理を充実させていこうと思い、2日間で大量のレシピを教えた。


唐揚げ、とんかつ、エビフライ、コロッケ、天ぷら、フライドチキン、竜田揚げ風、メンチカツ、オニオンリング、アメリカンドッグ、ドーナツ…


イカリングと白身フライも作りたかったんだけど、フィアンマ公爵領は内陸で海産物は中々手に入らないらしい。


と言うか、イカ、タコ、海藻類はそもそも食べないと言う事に驚いた。


あんなに美味しいのに、勿体ない。


醤油がないので、唐揚げと竜田揚げは塩と胡椒で下味をつけて、天ぷらは天汁の代わりにレモンと塩と粉末抹茶を付けて食べた。


この3日間連続揚げ物料理に、試食を食べ過ぎて中年コックが胃もたれを起こすというちょっとしたトラブルがあった。


次からは味見をし過ぎない様に、毎日揚げ物は体に良くないから週2回まで、という決まりを作った。


てか、味見をし過ぎるコックってなんだよ。




このように、朝食後は書庫に引きこもり、昼食に大量の揚げ物を作る、夕食まで再び書庫に引きこもり、夕食後三度書庫に引きこもり、書庫が閉められる前に大量に部屋に本を持ち込み寝るまで読む、という生活を送っていた。


初日の夜こそ「そろそろおやすみになさった方が」と優しく注意してくれていたリッカも、3日目の夜には「いい加減おやすみの準備をしてください」と言い方がだんだん強くなっていった、


んん〜、自分を管理してくれる人がいるって、とっても幸せだ。


俺の時にはそんな人いなかったから、あんな事になっちゃったんだし。


失敗は成功の基とは言うけど、あれはやっちゃいけないやつの失敗だ。


でも、私にはリッカがいるから大丈夫。




さて、3日間で書庫の本を全てとは言い切れないにしても超大量の本を読み漁って、たくさんの知識と情報を得た訳だけど、気づいてしまった。


私、学童院に行く必要なくね?


そもそも、俺の記憶を思い出す前から、私は学童院で習う読み書きと計算、マナーや常識は家庭教師のケーラ先生に教えてもらっていて、今じゃケーラ先生に「私が教えられる事はもう何もありません、家庭教師失格です」と言わせた程に情報過多となった。


そりゃ、この世界の知識だけじゃなく、俺の37年間の記憶もあるんだから。


もしかして、この世界で一番の知識人なんじゃないか。


でも、フィアンマ公爵領の領民は、例外なく6歳から12歳までの間で最低2年間は通学義務があるから、私も行かなきゃならない。


めっちゃ頭のいいお兄様ですら、ちゃんと学童院には通ったんだもん、私だけ特別扱いはないだろうな。


そのお兄様は、クラスの子たちに率先して字や計算を教えていたらしい。


でもって、2年間学童院に通ったあと、魔法と剣の才能があると言う事もあり、騎士団研修生として剣術の訓練校に2年、10歳から騎士団に仮入隊、12歳から本格的に活動を始め、今じゃ騎士団の若きホープとして将来が期待されている。


因みに、学童院卒業後、成績優秀者は職業訓練専門機関へ行く人が多いんだけど、これは強制じゃなくて希望者だけ。


職人さんに直接弟子入りしたり、卒業後そのまま家業を継ぐ人もいる。


私の場合、どのタイミングで学童院生活を送って、その後15歳までどう過ごしていくのが良いんだろう?


俺の年齢合わせたらお父様より年上なのに、小学校に通い直さなきゃいけないこの屈辱…




よし、お母様の言葉を参考に、今は現実から逃げよう。


どうせその時になれば、きっと答えが出てくる…はずだ。


そして何より、まず明日の試練を無事にクリアすることの方が大切だ。


…上手くいくかなぁ。

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