第14話 公爵令嬢は5歳になる 2

会場に入ると、皆が一斉にこちらを向き、静まり返る。


「本日は我が娘 フランドールの5歳の誕生日記念パーティーにご来場頂き感謝致します。」


お父様の言葉に続き、私は3人の一歩前に出て皆に挨拶をする。


「お初にお目にかかる方も多くいらっしゃると思います。

私、フィアンマ公爵家 フランドール・フィアンマと申します。

以後お見知り置きを。

本日は私の誕生日記念パーティーに足を運んでいただき、心より感謝いたします。

初めての公式な場の為、何かと不手際な事があるかと思いますが、お気を悪くなさらず頂けると幸いです。

是非、今日というこの場を楽しんでください。」


こんな感じかな。


うん、お母様いい笑顔だからよかったんだと思う。


「今日この場にある「ポテチ」というお菓子は、本日よりブリキッド商会で発売する新商品です。

このポテチを作ったのが、我が自慢の娘 フランドールなのです。

皆様是非、口にしてその食感をお楽しみください。」


な!何言ってんのお父様!


ここでそんな事言ったって、誰も信じる訳ないでしょうが!


ほーら、会場がざわ…ざわ…してるじゃん。




そんな微妙な空気を作り上げて、パーティーは始まった。


私はお父様と一緒に行動、お母様とお兄様は各々別々で行動してる。


すぐに周りには人の山が出来上がって、私は皆に埋もれていった(物理)


最初に声を掛けてきたのは、アンタレス侯爵と第一夫人。


私の祖父 ベルモント・アンタレスと、祖母 ティファニー・アンタレスで、私の母の両親。


「しばらくぶりだな、アーノルド。

相変わらず元気そうじゃないか。」


「ご無沙汰しております、アンタレス侯爵、侯爵夫人。

お二人ともお元気で何よりです。」


「フランちゃんもお久しぶりね。

お誕生日おめでとう。」


「おめでとう、フラン。

少し見ない間に、ずいぶん大きくなったな。」


「ありがとうございます、お祖父様 お祖母様。

フランは今日で5歳になりました。

先程の挨拶は上手に出来ていたでしょうか。」


「あぁ、とても素晴らしかったよ。

とても5歳とは思えない程、立派だったよ。

フランは本当に賢いなぁ。」


「ええ本当に。

それに、今日のドレスもとっても似合ってて可愛いわよ。」


フリフリドレスだけどありがとう。


お祖父様とお祖母様にとって、私は唯一の女孫で超デレデレ。


暇さえあれば、我が家へ大量のお土産と共に遊びに来る。


今日の誕生日プレゼントも、着れそうにない程の大量のドレスをくれようとしてたので、世界地図と魔物図鑑が欲しいと言っておいた。


最近は、伯父様たちの誰が当主を引き継ぐかとかで揉めてて、全然会ってなかった。


「ご家族はお元気ですか?」


「いやー、皆んな少々元気過ぎでね」


…貴族の公の場での会話って、京都のぶぶ漬けばりに遠回しで面倒臭い。


「それにしてもフラン、さっきポテチを食べてみたが、あの菓子はすごいな!

あんなに美味しいお菓子食べたの、おじいちゃん初めてだよ!」


「本当よ!

こんなに幼い頃からあんな素晴らしいお菓子を作れるだなんて、おばあちゃまは鼻が高いわ!」


2人とも、今日はいつも以上にデレている。


「食べてくださってありがとうございます。

お祖父様とお祖母様のお口に合って嬉しいですわ。」


祖父母と言ってもまだアラフィフ。


揚げ物だってまだイケる年齢だ。


俺の親父だって、「ビールとポテチで飯が何倍でも食える」と言っていた。


「あんなパリパリした食べ物、どうやって作ったんだい?

おじいちゃんにも教えておくれ。」


おういいぜ!と言いたいところだけど、口頭で作り方を説明しても信じてもらえないだろうし、油の取り扱いは危ないから、今度アンタレス侯爵家に行った時に目の前で作ってあげた方が…


「申し訳ございません、アンタレス侯爵。

ポテチはフランの自慢の一品、暫くは我がブリキッド商会でのみで販売して、フランの功績を多くの方に知って頂きたいと思っておりまして。」


え、お祖父様にも教えちゃダメなの?


てか、お祖父様が自分の所でポテチ売るつもりで聞いてきたとは限らんでしょうが。


「むむっ…しかし…いや、そうか…そうだな。

確かにフランの手柄を横取りするのは気が引ける。

ポテチは世の人々を虜にする最高の食べ物。

我がペンタニオン商会で売る事ができないのは非常に残念だが、ここは可愛いフランに免じて一旦諦めよう。」


本当に売るつもりだったんかい!


しかも、一旦諦めるって、まだまだ狙ってるって事じゃんか。


流石、国一番の規模を誇るペンタニオン商会の筆頭だ。


ま、その筆頭さんも自分の商会より孫娘の方が可愛いんだね。


私はポテチを一般化するつもりだし、いつでも教えてあげるから、早く庶民の味化へGOサイン出してね、お父様。


「フランちゃんはいつからお料理出来るようになったの?」


「初めての料理でしたの。

いつものように実験みたいに試してみたら偶然出来てしまって。

ですから、調理中はリッカやコック達をハラハラさせてしまいましたし、お母様にも注意されてしまいましたわ。」


「まぁミリアンたら!

自分は料理が出来ないのに、口だけは一人前なのね!」


お祖母様も料理出来ないでしょ。


それに、5歳児がいきなり火や刃物を勝手に使い出したら、俺だって注意するわ。


テヘペロ話のつもりだったんだけど、なんだかお母様の悪口みたいになっちゃった。


「お母様を責めないでください、お祖母様。

思いついた事を何でも試して心配をかけてしまう私が悪いのです。

お母様は私の事を思って叱ってくれたのですわ。」


「まぁ、何て優しいの!

可愛くて、頭が良くて、優しくて、非の打ち所がないわ!

ねぇ、おじいちゃま!」


「全くその通りだ。

こんな完璧な子なんて世界中探しても他にはいない。

フランよ、子供の自由な発想は時に世界に良い影響を与えるんだ。

何でも試す事はとても良い事なんだよ。」


子供の思い付きじゃなくて前世の常識なんだけど。


この2人、私の言動全てをポジティブに捉えて褒めまくってくれるんだよなぁ。


ずっと一緒にいたら、ダメな子になりそう。


いや、悪口ではないんだよ、常識ある素晴らしい方達なんだよ?


ただ、私に対して対応が甘過ぎる、激甘も甚だしい。


もう少し孫娘に対して自制心を保ってくれ。


「では、そろそろ失礼致します、アンタレス侯爵、侯爵夫人。」


「そうだな、またなフラン。

いつでも遊びにおいで。」


え、今家揉めてて忙しいって言ってたのに、いつでも行っていいのかよ。




2人は私達から離れて、次々と色んな人から声を掛けられていった。


かく言う私も、お父様と一緒に次々とお偉いさん達の相手をしていった。


内容は皆、お互いの腹の探り合いとポテチの製造、販売権についてばかり。


お祖父様にすら教えなかったポテチの作り方を、大したメリットも無さそうな輩に教えるはずがなく、お父様は適当にあしらっていった。


私も「どうして?いつもの癖」を出さないように、というか出る程興味が湧く人もいなかったので、とりあえずニコニコしてた。


何度か休憩を挟みながら、そんな事をただひたすら繰り返して、私の誕生日パーティーは終わった。


めっちゃくちゃ疲れた。


研究や調べ物をしてる時より短時間なのに圧倒的に。


その日の夜は、いつもの時間よりかなり早めにベッドに倒れ込み、気絶するように寝入ってしまった。

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