第33話 死者の王 Ⅰ

 そんな嫌な出来事があってから数日。私たちは再びコミュニケーションをとる相手のいない孤独な旅を再開した。誰とも話すことも交わることも(交戦という意味での交わりはあるが)なく旅を続けると、あんな嫌なことがあった村ですら懐かしくなってくる。もし私が陰キャじゃなかったらとっくに音を上げていただろう。一方のシアも独りぼっちで長年生きてきたためか、それ自体には特に困っていない様子であった。


 そんなある日のこと。再び人間の村のようなものが見えてきた。私はおおっと興味をそそられる。

「ここはやはり魔王領です。誰とも関わらないが吉ですよ」

 先日の事件のせいか、シアの反応は冷たい。

「うーん……でももうすぐ食べる物もなくなるんじゃない?」


 私たちの食糧は最初はシアの手持ちで、後は適当に購入したもので賄っていた。魔王領ではあるが、本当にたまに商人をしている魔物もいる。幸い私は魔王城でコソ泥した宝石があるのでしばらくは保存食程度なら買い放題であった。とはいえ、荷物として運ぶ以上一度に大量の購入は避けたい。そんな訳で時々食糧が減ってくるタイミングというのはある。それが今だった。

「まあそう言われてみれば。でも出来るだけただの交易に留めておきましょう」

「うん」


 そんな訳で私たちはその村に近づいていく。やはりというべきか、村の中には人間・魔物両方の姿が見られた。ただ今回違うのは、人型の魔物だけでなくゴブリンからワイバーンまで色んな種類の魔物が見えることである。当然、ワイバーンは村を作って棲息することはない。

「何か……嫌な予感がします。不自然というのは大抵良くないことです」

「そうだね」

 私とシアは警戒しながら村に近づいていく。すると、ある程度近づいたところで村の中からわらわらと住人(?)たちが出てきてこちらへ歩いてくる。人間や魔物の混成軍であったが、武器を構えたりこちらに牙を向けたりしている。彼らは一様に目から光が消えており、操られているようにも見える。

 シアが無言で私を下がらせて前に出る。これが私を守ってくれようとしているのか、ドルヴァルゴアのせいなのかで評価が変わるんだけど。


 すると謎の軍勢(?)がぱかっと二つに割れて灰色のローブを羽織った魔術師風の男が現れる。例によってこいつも人間に見える。

「ようこそ、我が楽園へ」

「誰ですかあなたは」

 シアが険しい声で問う。

「我が名はディクセル。この辺り一帯の王だ」

「王? 魔物領に魔王以外に王なんていませんが」

「いいのかい? 彼らは皆我が軍勢だ。逆らうのであれば結果は明らかだが?」

 ディクセルは不気味に笑う。一見すると眼鏡をかけた優男風の魔術師だが、笑うと内面のどす黒い何かが漏れだしてくる。

「もしかして、皆あなたが洗脳しているんですか?」

「そういうことになるね。もっとも洗脳とは違うけど。彼らは皆死者だ。一度死んだ者たちに再びチャンスを与えてやっているのさ」

「そうですか。行きましょう幸乃さん、私たち生者には関係ないところです」

「そうだね」

 私もそう言うしかない。


「まあまあ待ってくれよ。君たちからは強い魔力を感じる。我と組んで一緒に新たな王国を築かないか? いずれは魔王を倒し、魔王領全体の魔物たちを我が眷属とし、人間領に攻め込むつもりだ。そうなれば我一人で全軍を指揮するのはさすがに無理がある。君たちを幹部にしてやろう」

「いや、別になりたくないけど」

 私は素で答える。するとディクセルははあっと息を吐いた。

「分かった。じゃあ言い方を変えよう。死んで眷属の一人になるのと、幹部として我が軍に加わるの、どちらがいいか?」

 気が付くと、私の後ろにも死者の軍勢が展開していた。うーん、闇属性魔法はこいつらには絶望的に利かない気がするな。すでに精神崩壊してそうだし。まあ、闇に閉じ込めればいいか。それともディクセル本人を精神崩壊させるか。……もう狂ってる相手にも利くといいけど。


「お、久しぶりにやりがいのある相手が現れましたね」

 シアはシアで不敵に笑う。するとディクセルは嫌な顔をした。

「ちっ、またドルヴァルゴアかよ。奴ら体がぼろぼろになるまで戦うから倒して眷属にしてもぼろぼろなんだよな」

「大丈夫ですよ、ぼろぼろになるのはあなた方なので」

 シアは好戦的に笑う。ちなみにこのモードになったシアはただの狂戦士と化すので私は自分の身は自分で守らないといけない。今まではそんなに大した相手が現れなかったので後ろで小さくなっているだけで良かったけど、今回はそうもいかなさそうだな。

 という訳で戦闘の機は熟した……かに見えた。そんなとき。

「待ってくれ、ディクセルは悪い奴じゃないんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます