闇属性ラノベ作家志望JKの異世界召喚

今川幸乃

序章 転生

第1話 落選

『登場人物の容姿やファンタジー世界の風景など全体的に描写が淡白で読者に伝わってきません。特に魔法の描写が下手で、読んでいて白けてしまいます』


 上の文章は某ラノベ新人賞に応募した私の小説に対する評価シートの下の方、『総評』という欄に書かれていたものである。私の名前は今川幸乃、県内ではそこそこ名の知れた高校に通う高校二年生、陰と陽で言えば陰の者。他人とのコミュニケーションが苦手で読書が好き。そんな全国にごまんといそうな陰キャオタク高校生のうちの一人だ。ただ、もし私に他の同類との違いがあるとすれば、ただ読むだけではなく書くこともしているというところだろうか。


 今回私が書いたのは『人間不信勇者と愉快な仲間たち』というファンタジーラノベである。主人公の男は勇者として優れた力を持ちながら、パーティーメンバーを信じて背中を預けることが出来ずに魔物の討伐に失敗し、パーティーを解散したという経緯がある。

 冒頭、主人公が酒場でくだを巻いているところから始まるのだが、そこに明らかに訳ありそうなシーフの少女が現れる。シーフは主人公にとあるマジックアイテムの存在を告げ、そのアイテムを一緒にとりにいかないかと持ち掛ける。そのマジックアイテムとは、所有者の意のままに動く人型のゴーレムであった。主人公はゴーレムとなら人間関係のいざこざなく冒険が出来ると、怪しいシーフの言葉に乗ることを決意。一緒に冒険の旅に出る。途中で清楚系腹黒神官や禁呪に手を染めている魔術師と出会い、それに対し主人公が過剰に不審がる様子がコメディタッチで描かれている。

 しかし冒険を進めるうちに四人は少しずつ仲を深め、洞窟の一番奥に辿り着くのだが、奥にいたのは封印された魔王であった。実はシーフの女は魔王の封印を解きたかったが、遺跡の奥まで一人で行くのは危険だったので主人公をだまして同行させたのだった。

「ありがとう、騙したのは悪かったけど、ここまで連れてきてくれたお礼に新生魔王軍の幹部にしてあげる」

「やっぱ人間なんて信用出来ねえな。俺は帰る。魔王復活でも何でも勝手にしろ」

 が、そこへシーフを追っていた近衛騎士団が現れる。魔王復活を企む要注意人物として指名手配されていたのだ。ついでに一緒にいた他三人も協力者として同行を命じられる。当然拒否する主人公たちであったが、騎士団は容赦なく攻撃してくる。その攻撃をかばってシーフは倒れる。

「騙したのは目的だけで、仲間だって言う気持ちに嘘はなかったから」

「いや、仲間なら目的も騙すなよ」

 結局主人公は“仲間”三人を護るために騎士団と戦い、シーフも騙した相手に守ってもらえたことに感謝して魔王の封印を解くのはやめる、というストーリーである。


 ストーリーだけ見ると今でもおもしろそうなのだが(自画自賛)、残念ながら私の文章力は私の妄想力についていけないようで、冒頭のような評価になったという訳だ。


 現在私は高校二年生。そろそろ受験勉強も本格化してくる(というかもうしてる人はしてる)時期なので、今回書いた小説は受験前の最後の挑戦になるはずだった。そんな訳で夏休みに、ここまでの人生の集大成として書いた訳である。それがいとも簡単に敗れ去った。


 ラノベ新人賞は狭き門ではあるが、最終的に受賞するのが狭いというだけで、そこに至るまでには一次、二次、三次といった選考の段階がある。一次だけで言えば賞にもよるけど応募者の上位二~三割は通過できる。逆に言えば一次選考に落ちるということは上位二~三割にすら入っていないということになる。

 上位二~三割に入ってないからといってそんなに落ち込まなくてもいいかもしれない、と思う人もいるかもしれない。ただ、それは言うなればエンジョイ勢の意見に過ぎない。ラノベに関してだけは私の意識はすこぶる高い。応募者の中にはとりあえず書いたから応募してみた(初回のときの私もそれだけど)という者もそこそこいるはずだ。中には応募要件すら満たしていない者もいると聞く。私は小学校のころラノベに出会ってから、中一のときにはじめて自分で書き始め、そこからずっと努力を続けてきたつもりである。それでも二~三割に入れないというのは割とショックだった。


「では次、今川」

 唐突な教師の声で私は現実に引き戻される。そう言えば今は英語の授業中だった。

「はい、何でしょう」

「何でしょうじゃない。次の文を訳せと言っているんだ」

「えーと……」

 私はすっと目を泳がせる。隣の席の人は今までやっていたところまできっちりノートをとってくれていたので、ぱっと見たらどこまで終わっているかが分かった。とりあえず次の英文を見て即興で訳を口に出していく。

「ああ、ジョンは言った、やれと言われたことをやった、ええ、やりたくてもそうでなくても」

「もう寝るなよ。はい次」


 寝てはないが。私の真剣な悩みをそういう風に言われるのは心外だった。

中学からこの方、私はラノベを書くことに全てを費やしてきたと言っても過言ではない。友達も大していないし、他の趣味ややりたいこともないし、将来の夢もない。それでも私の作品が多少は認められるならばそれでもいいけど、それも叶わなかった。


「ここまでの人生、何だったんだろう。これからの人生、どうしよう」

 私は短くつぶやいた。だが、どうしようと言いつつも気持ちとしては一つしかなかった。このままでは終われない。せめて、一次選考ぐらいは突破できる作品を書かないと。

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