怪異忌譚

是人

プロローグ 不吉の報せ


「カラスが鳴くと、不吉って言うよね」


 カラスの鳴き声を聞いて、誰かがそんなことを言った。


「小さい頃はそんなこと言ってたけど、実際のところ関係ないじゃん」

「でも昔からそう言われてるってことは何か関係あるんじゃない?」

「えー、そうかなぁ……」


 夕暮れ時、電柱に留まったカラスがガーガーと濁った鳴き声を上げていた。

 すれ違った女子高生のそんな会話を耳にして、ふと足を止めて空を仰ぐ。

 赤い空へ伸びる電柱の、そのてっぺん。

 真っ黒なシルエットが時折動き、こちらを見た気がした。

 カラスはまたガーと鳴くと、翼を広げてどこかへと飛び立っていく。

 カラスが鳴くと不吉の報せ、カラスが鳴くのはどこかで誰かが死んだから。

 そんな話を鵜呑みにしていた幼少期をぼんやりと思い出して、何だか懐かしくなる。

 根拠もない、そんな不気味な話は随分と子供心を刺激したものだ。

 ただ真っ黒なその姿が、どこか不気味さを感じさせるのだろう。

 オカルトじみていて滑稽な話だなぁと、静かに笑って再び歩き出す。

 日が暮れてきても大学のキャンパスはまだ人がいて、その多くは新入生向けのサークルの勧誘だった。

 今日はまっすぐ家に帰ろうと、誘いを断って人波を縫って行く。


「そういえばさ、聞いた? また出て来たらしいよ、アイツ」

「アイツって?」

「だからさー、去年の秋も一瞬いたじゃん」


 お喋りカラス。

 学生達のその言葉は、行ってしまう少女の耳には届かなかった。


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