怪異忌譚
是人
プロローグ 不吉の報せ
「カラスが鳴くと、不吉って言うよね」
カラスの鳴き声を聞いて、誰かがそんなことを言った。
「小さい頃はそんなこと言ってたけど、実際のところ関係ないじゃん」
「でも昔からそう言われてるってことは何か関係あるんじゃない?」
「えー、そうかなぁ……」
夕暮れ時、電柱に留まったカラスがガーガーと濁った鳴き声を上げていた。
すれ違った女子高生のそんな会話を耳にして、ふと足を止めて空を仰ぐ。
赤い空へ伸びる電柱の、そのてっぺん。
真っ黒なシルエットが時折動き、こちらを見た気がした。
カラスはまたガーと鳴くと、翼を広げてどこかへと飛び立っていく。
カラスが鳴くと不吉の報せ、カラスが鳴くのはどこかで誰かが死んだから。
そんな話を鵜呑みにしていた幼少期をぼんやりと思い出して、何だか懐かしくなる。
根拠もない、そんな不気味な話は随分と子供心を刺激したものだ。
ただ真っ黒なその姿が、どこか不気味さを感じさせるのだろう。
オカルトじみていて滑稽な話だなぁと、静かに笑って再び歩き出す。
日が暮れてきても大学のキャンパスはまだ人がいて、その多くは新入生向けのサークルの勧誘だった。
今日はまっすぐ家に帰ろうと、誘いを断って人波を縫って行く。
「そういえばさ、聞いた? また出て来たらしいよ、アイツ」
「アイツって?」
「だからさー、去年の秋も一瞬いたじゃん」
お喋りカラス。
学生達のその言葉は、行ってしまう少女の耳には届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます