もしかして認知症?

やばいよやばいよ

 残暑厳しい朝だった。数日ぶりに自分たちの住むアパートで朝を迎えた。

 東向きの部屋に煮え立つような光が差し込む。

 前日まで県外に住む妹が子供たちを連れてお盆の里帰りしていたし、私達夫婦も夫の会社のお盆休みだったこともあり実家に泊まっていた。私も妹も実家ではぐうたら娘に戻れる。実家万歳。お母さんありがとう。おかげで寝坊癖がついてしまった。

 リセットしなきゃ。

 甥姪との楽しかった時間の余韻に浸りつつも、夏休み明けの夫のために弁当の準備を始める。


 (今日からまた今までと同じ日常の再開だと思っていた)


 夫を送り出すとすぐに家の固定電話が鳴った。時々この時間にかかってくる間違い電話がある。いつも同じおばあちゃん。金融機関に用事があるらしく、かけた先を確認することなく内容を話出されて困ったことが何度かあった。

 またそのおばあちゃんの間違い電話かなと思いながら電話を受けた。


「もしもし」


 それは聞き覚えのある、いえ昨日までそばで聞いていた声。

 母からの電話だった。

 朝早く電話をかけてくることは珍しい。もしかして緊急な用事かと少し不安になる。

 すると母はおもむろに質問してきた。


「昨日来たの?」


 は?質問の意味がわからない。昨日まで確かに私たちは実家にいた。けれど『来た』のではなく『帰った』が正解。母がどういう意図で私に質問しているのか考えていたら、


「今朝起きたら、部屋に布団が敷きつめてあったから」

と母が続けた。

 え?え?え?何?いったいどういうこと?

 その後の母の話をつなげると、


 今朝、母が目が覚めたら六畳二間の続き部屋に布団が敷きつめられていた。

 私達夫婦が昨日の深夜、実家にこっそり行って、母が寝ている間に布団を敷いて私達も寝て、今朝早く母が起きる前に起きて布団を敷きっぱなしで帰ったんじゃないか?


 と、思ったらしい

(実際に一昨日までは、私達夫婦と妹、甥、姪、そして母がその部屋で寝ていた。しかし昨日は私達も妹も自分たちの住処へ戻ったので布団はかたずけた)


 話しながら、母も我に返ったのか取り繕うように

まだみんながいるつもりで自分で布団を敷いたのかな」

と笑った。

 しかし私は笑えない。とりあえず笑ったふりはした。

 頭のなかでは、某芸人のやばいよやばいよのセリフがループしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る